黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は加橋かつみさんの誕生日なので

CBSソニー SONL-56010 

エレクトーン・ニューヒット14 白い蝶のサンバ

発売: 1970年4月

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ジャケット

A1 恋人 (森山良子) 🅸

A2 花の世界 (加橋かつみ)

A3 私が死んだら (弘田三枝子) 🅵

A4 白い蝶のサンバ (森山加代子) 🅶

A5 愛の美学 (ピーター) 🅵

A6 逢わずに愛して (内山田洋とクール・ファイブ) 🅵

A7 東京はみなし児 (カルメン・マキ)☆

B1 知らないで愛されて (佐良直美) 🅱

B2 あなたと生きる (小川知子) 🅳

B3 海の底でうたう唄 (モコ・ビーバー・オリーブ)

B4 とまらない汽車 (中山千夏) 🅱

B5 土曜の夜何かが起きる (黛ジュン) 🅵

B6 国際線待合室 (青江三奈) 🅵

B7 あなたに限って (小松京二)☆☆

 

演奏: 斎藤英美

編曲: 斎藤英美、小谷充(☆)、クニ河内(☆☆)

定価: 1,500円

 

「芸能界的なもの」へのレジスタンスを真っ当に突き付けた先駆者的存在、トッポこと加橋かつみ。その先鋭的ソロ・デビュー曲もしっかり、歌無歌謡界で取り上げられていた。けど、普通の取り上げられ方ではなかったのだなぁ。そんなわけで今日の1枚は、70年代初期の好奇心旺盛なお嬢さんにとっての最新兵器の一つ「エレクトーン」をフィーチャーしたアルバム。トッポや同じ程レジスタンスの体現に定評があったカルメン・マキ、ピーターの曲と、クール・ファイブや青江三奈の曲が躊躇いもなく同居。両極の架け橋的場所にいた佐良直美中山千夏や、深夜放送躍進の立役者モコ・ビーバー・オリーブの曲も花を添え、かなり野心的ポリシーのもと作られた一枚ではあるが、演奏の出来はまったりとしたものだ。当時、既にポルタメント機能まで搭載し、未来の楽器とまで言われたEX-21(昨年11月2日参照…蛇足ですが、「宇宙電子オルガン」を演奏されたのは小島秀子さんではなく、児玉マリさんとさりげなく訂正)が市場に出る寸前で、69年暮れに出たクレイジー・キャッツのシングル「アッと驚く為五郎」のイントロでもその突飛な音がいち早く聴けたが、このレコードではあくまでも庶民的な音色が主役となっている。トップの「恋人」はエレクトーンを3回ほど重ねて、こじんまりながらステレオ感のあるアンサンブルを演出。 続く曲のイントロ…えっ、これは「ふしぎなくすり」?いや、これがトッポのソロデビュー曲「花の世界」。期待された割にオリコン58位止まりだったけど、進みすぎていた故でしょうか。ここで小編成コンボが交わり、賑やかに盛り上げる。エンディングは演奏全体を一つのチャンネルに固め、左右にパンしていくというサイケな演出。その後は同じくコンボ編成で、歌無界でおなじみの曲を手堅く畳みかけたあと、A面最後に異色の展開その1。カルメン・マキの4枚目のシングルで、チャート入りせず他社には見向きもされなかった「東京はみなし児」。オリジナルのオケを使い、その上にエレクトーンによる主旋律を被せたもので、他社盤でもよくある手法であるが、便乗プロモーションとしては地味だったか。あまり違和感のない仕上がりではあるが。当時の彼女、この「カバー」に対してはどう思ったんでしょうね(汗…ちなみにその次のシングル、件の問題作はクラウンの『ベース・ベース・ベース/自由の女神』に歌無ヴァージョンがある!聴きたい!)。

B面はA面同様多重録音による「知らないで愛されて」で始まり(減衰音系の多用が新鮮)、めちゃ疾走感を増した「あなたと生きる」へ。最後の演出が心憎く、そこから大名曲「海の底でうたう唄」に導かれる。この曲の歌無盤があること自体夢みたいだ…レア・グルーヴ派にはたまらない「とまらない汽車」から「土曜の夜何かが起きる」(皮肉にも、これは他のヴァージョンほどそそってくれない)へと続き、気怠さも一つの魅力に転じる「国際線待合室」を経て、ラストは異色の展開その2、異色の新人・小松京二のデビュー曲「あなたに限って」を、これまたオリジナルのオケをバックに熱演。藤本卓也作曲作品をクニ河内がアレンジという、元から普通でなさしか期待できない曲だけど、こちらも不調和感なくなかなかの出来だ。このアレンジ、17年後発売されるスティングの「ウィル・ビー・トゥゲザー」に酷似している…間奏のオルガンはオリジナルの時点で既に入っているが、これはクニさんの演奏だろうか。

こんなエレクトーンの孤高ワールドを今日は紹介しましたが、これじゃ終わりません…明日をお楽しみに…