黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は野口五郎さんの誕生日なので

ポリドール MR-8101/2 

ヒット歌謡ベスト28 若葉のささやき/赤い風船

発売: 1973年5月

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ジャケット

A1 若葉のささやき (天地真理)Ⓐ 🅶

A2 劇場 (ちあきなおみ)Ⓑ 🅶

A3 赤い風船 (浅田美代子)Ⓐ 🅵→10/1

A4 愛への出発 (郷ひろみ)Ⓑ 🅶

A5 太陽のくちづけ (栗田ひろみ)Ⓐ 🅲

A6 狙いうち (山本リンダ)Ⓑ 🅳

A7 男泣き (内山田洋とクール・ファイブ)Ⓐ 🅵

B1 春のおとずれ (小柳ルミ子)Ⓑ 🅵

B2 夜の走り雨 (森進一)Ⓐ 🅵

B3 怨み節 (梶芽衣子)Ⓐ 🅵

B4 円山・花町・母の町 (三善英史)Ⓒ 🅵

B5 裏町酒場 (愛田健二)Ⓐ 🅰→10/1

B6 わたしを許して (西田佐知子)Ⓐ

B7 女のみち (宮史郎とぴんからトリオ)Ⓐ 🅼

C1 学生街の喫茶店 (ガロ)Ⓐ 🅳→10/1

C2 オレンジの雨 (野口五郎)🅲→10/1

C3 あなたへの愛 (沢田研二)Ⓒ 🅲

C4 見捨てられた子のように (朱里エイコ)Ⓑ 🅳

C5 あなたにありがとう (和田アキ子)Ⓒ 🅱

C6 おきざりにした悲しみは (吉田拓郎)Ⓑ 🅳

C7 ふたりの日曜日 (天地真理)Ⓒ 🅴

D1 女のねがい (宮史郎とぴんからトリオ)Ⓒ 🅶

D2 中学三年生 (森昌子)Ⓒ 🅵

D3 女の子なんだもん (麻丘めぐみ)Ⓑ 🅳

D4 早春の港 (南沙織)Ⓒ 🅵

D5 しのび逢い (尾崎紀世彦)Ⓑ 🅴

D6 私達 (鮎川由美)Ⓒ

D7 喝采 (ちあきなおみ)Ⓐ 🅶

 

演奏: 秋本薫 (テナー・サックス) オールスターズⒶ

原田寛治 (ドラムス) オールスターズⒷ

伊部晴美 (ギター) オールスターズⒸ

編曲: 川上義彦ⒶⒷ、伊部晴美

定価: 2,000円

 

またしても悲しいニュース…米国の名ドラマー、サンディ・ネルソン氏が、去る14日、83歳にて大往生。ここまで生きたことは讃えられるべきだが、歌無歌謡ブログをやっている者として、決して素通りできないのである。69年以降、歌無歌謡界の主力商品と化した「ドラムもの」に対する影響力は、ほぼこの人一人によってもたらされたのではと思える程の重要人物なのだ。60年代初頭から、アメリカの最新ヒット曲をビートを強調したスタイルでカバーしたインスト盤を一貫して連発するスタンスで、その隙間にはさりげないサウンド実験にもアプローチ。66年から、ベンチャーズと同じ東芝/リバティ・レーベルでレコードが紹介されるようになったおかげで、日本市場との結びつきも強化し、68年には例のスタイルでGSや和製ポップスにぶつかって見せたアルバム『ゴールデン・ポップス・イン・ジャパン』をリリース。ジェット・ブラザーズ「愛の祈り」のような珍品もあったりして。歌無歌謡の「ドラムもの」の歴史は、まさにこの盤から始まったと言ってもいい。謹んで、ご冥福をお祈りします。

 

そのサンディは、73年になってからもフォーカス「悪魔の呪文」なんかをカバーしたり、相変わらずの爆走ぶりを見せていたのだけど、その頃日本にはジミー竹内がいて、原田寛治がいた。いつまでも海外の血にロマンを見出しているわけにはいかなかったのである…そんな寛治ドラムをいつものように、ふんだんに聴かせるポリドールの2枚組。相変わらずのジャケットは最早安定の領域ですが、さすがにこのもろ見え盤のアート・ディレクションは関順子さんではありません(瀧汗)。「赤い風船」のレタリングが秀逸なので許してあげて。クラウンのありたしんたろう盤のそれにちょっと似てるけど…いずれにせよ、日本旅行のキャンペーンロゴは意識したはず。今回はシングル盤でカムフラージュしてみましたが、この3ヶ月前に出た名曲中の名曲「野いちごを両手に」、ヒットしていたら当然ここでも演られたんだろうな…

安定の3種盛りを根底で支える寛治ドラムも、自身がリーダーの冠を手にすると途端に鎖を外し、大胆な攻め方を見せる。特にわかりやすいのが狙いうち。普通にあのイントロが始まるが、その隙間を縫うように左右のチャンネルを駆け巡るドラム。Aメロなんて、普通に高校野球の応援団のような演奏をしているが、その合間にも容赦無くドラムボムを挟み込んでくる。保守と革新を2小節刻みでチャネリングする大胆なプレイだ。前曲「太陽のくちづけ」でもさりげなくヤバいプレイをしているが、派手さを増す一方の歌謡界の動きを敏感に捉えたガチドラマー精神はさすが。めちゃまったりしてそうな「中学三年生」さえ、よく聴くとクライド・スタブルフィールド流のファンキー・ドラマーぶりが炸裂してたりして。日本のサンディ・ネルソンは誰と訊かれれば、やはり原田寛治にとどめをさしたいところ。

全体的には取り上げられまくりの曲が多く(さすがに「私達」の自社推しは例外としても)、自前アレンジ組故に特殊な音選びを期待できるわけでもないので(喝采の2コーラス目の転調にハッとするが)、終わってみれば「原田寛治すごーい」以外の聴後感が全く残らない不思議なアルバム。今月何気に祭りになった「早春の港」にしても、ここでの落ち着いたヴァージョンより、落ち着きのないアポロヴァージョンが恋しくなっちゃうのだ(歌ありだけど)。間奏はエレピで弾かないで…(汗)。全然五郎を称えられなかったけど、明日もこの調子で…

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ジャケも素敵な「野いちごを両手に」。デザインはこのアルバムと同じく、松尾博氏が担当(ぇっ)