クラウン GW-3147~48
ビッグ・ヒット歌謡ベスト36 暑中お見舞い申し上げます・渚のシンドバッド
発売: 1977年
A1 暑中お見舞い申し上げます (キャンディーズ)Ⓐ 🅱
A2 悲恋白書 (岩崎宏美)Ⓑ 🅱
A3 恋愛遊戯 (太田裕美)Ⓒ
A4 私のいい人 (内藤やす子)Ⓓ 🅲
A5 イミテイション・ゴールド (山口百恵)Ⓐ 🅴
A6 女達のキィ・ワード (梓みちよ)Ⓑ
A7 西海ブルース (内山田洋とクール・ファイブ)Ⓔ 🅱
A8 フィーリング (ハイ・ファイ・セット)Ⓓ 🅳→10/4
A9 S.O.S. (ピンク・レディー)Ⓐ 🅱→10/4
B1 夜行列車 (森進一)Ⓐ 🅱
B2 河のほとりに (谷山浩子)Ⓒ
B3 おまえに (フランク永井)Ⓑ 🅰→9/18
B4 おんな港町 (八代亜紀)Ⓕ 🅱→10/4
B5 さすらいの道 (小林旭)Ⓐ 🅲
B7 紅ほおずき (木の実ナナ)Ⓒ
B9 青春時代 (森田公一とトップギャラン)Ⓐ 🅲→10/4
C2 風の子守唄 (五木ひろし)Ⓒ 🅱
C4 夢先案内人 (山口百恵)Ⓑ 🅳
C6 恋歌 (八代亜紀)Ⓐ 🅱
C7 どうぞこのまま (丸山圭子)Ⓒ 🅲→10/4
C8 やさしい悪魔 (キャンディーズ)Ⓖ 🅱
C9 ひとり芝居 (布施明)Ⓑ
D1 気まぐれヴィーナス (桜田淳子)Ⓐ
D2 帰らない (清水健太郎)Ⓑ 🅴
D3 昔の名前で出ています (小林旭)Ⓗ 🅰→4/3
D5 北へ (小林旭)Ⓐ 🅰→10/4
D6 しあわせ未満 (太田裕美)Ⓕ 🅰→10/4
D7 沈黙 (野口五郎)Ⓒ 🅱
D8 想い出のピアノ (森田公一とトップギャラン)Ⓕ 🅱→10/4
D9 マイ・ピュア・レディ (尾崎亜美)Ⓑ 🅲
演奏: クラウン・オーケストラ
編曲: 井上忠也Ⓐ、久富ひろむⒷ、神山純Ⓒ、栗田俊夫Ⓓ、近藤俊一Ⓔ、井上かつおⒻ、清水路雄Ⓖ、小杉仁三Ⓗ
定価: 3,000円
いくらなんでもこの時期に「暑中お見舞い」はきついですよね。さわやかな水着ポートレイトさえ、こんなご時世じゃそっとカムフラージュしなきゃですわ…早く、気分的にもせめて春にはなりたいものです。その日まで、まだまだ止まりません黄昏みゅうぢっく。う~わっ!
相変わらず、前後のリリースと被りが多く、お得な点を拾い上げ辛いクラウンの2枚組だけど、このセットはジャケット以外にもなかなかこそばゆい点が多く楽しいやつだ。軽量化しつつも面白いサウンド演出を随所に散りばめているのがこの時期のクラウンらしいのだけど、「暑中お見舞い申し上げます」から早々と全開。なぜかイントロの後半からヴァイオリンが単独でうねりをあげているのだけど、ちょうどこの頃名盤『暗黒への曳航』をリリースしたカンサスのロビー・スタインハートを想起させるフレージングでニヤリとする。本盤では他にも「夜行列車」「さすらいの道」など、ヴァイオリン活躍曲が目立っており、歌無歌謡としては異色の手触りだ。この曲では右チャンネルにさりげなくウクレレも入っていたり、細かいところにまでくすぐりどころがいっぱい。続く「悲恋白書」の歌い出しにフィーチャーされている女声スキャットも、歌無歌謡では珍しい感触で、フルートがアンニュイ感に火を注ぐ。ヒロリンも大人になった、という感じだろうか。「恋愛遊戯」のソフトなフュージョン感はいかにも天気予報か交通情報かという印象。
B面に行くと、2曲目でもう究極に胸熱な選曲、谷山浩子女史の「河のほとりに」の登場に心踊りまくり。谷山さんの曲のインスト盤はこれが唯一だろう、と思っていたが、土壇場になってもう一つ発覚した…しかも、この曲はクラウン盤に最低4度登場しており、相当推しまくっていたのだろう。演奏そのものも、これ以上の解釈があるのかと思える程素晴らしい。主旋律は例の、ケーナか尺八かと錯覚させがちなリコーダーの音で奏でられ、Bメロではより真っ当なリコーダーの演奏とハモっている。乙女心はこう音像化するものだという模範的な響きの奥から、湧き上がってくるような怨念めいたもの、まさにこの曲のテーマにふさわしいサウンドで、小6の頃この曲に夢中になりすぎた自分の姿がフラッシュバックしてくる。ご馳走様でした…追い討ちをかけるように、ロマン主義の極み的「おまえに」がその後を追う。B面にはもう一つ、リコーダーの聴かせどころ「紅ほおずき」があり、これは丹羽応樹作曲ということで無視できない曲だ。ソプラノとテナーでオクターブユニゾンしている。かと思えば「失恋レストラン」の幻覚的ギター・サウンドには、歌った人のその後の歩みを予見させるところも(笑)。「かけめぐる青春」にはやはり、乙女な音よりテナー・サックスの方が似合う。
C面では1曲おきにピンク・レディー(「ペッパー警部」は若干遅れてのカバー故、なんか異色の感触)という勢いに任せた展開の隙間にポツンとたたずむ「夢先案内人」が、ちょっぴりテンポを遅めてのムーディなアレンジの中、うつむき加減に奏でられるフルートに胸キュン。と思ったら、2コーラス目ではギターに主役を譲る傍らでジャジーに舞いまくる。小林香織が時折聴かせるフルートに似た質感でめちゃ萌えだ。昨今の乙女ジャズフルーティストこそ、70年代歌謡に真顔で取り組むべきかも。
こんなキュンキュンする展開に溢れた先の最終面には、大いなる謎「津軽海峡冬景色」が待ち受けている。至って普通の演奏であるが、翌年リリースされた『サウスポー・微笑がえし』で石川大介編曲とクレジットされていたテイクと全く同じなのだ。ここでの近藤俊一という編曲者名は他であまり目にすることはなく、石川氏のクレジットが主にカラオケ盤で見受けられることを思うと、何らかの事情でややこしくない変名を用いたのではという事情が推測できる…74年のニュービート/セブンビートの件といい、クラウン盤はこの手の謎が多発するので、正確な結論に導くのが極めて難しい…