黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日はペギー・マーチの誕生日なので

コロムビア ALS-4529

ふたりの関係/何があなたをそうさせた 

発売: 1970年10月

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ジャケット

A1 ふたりの関係 (ヒデとロザンナ) 🅲

A2 ロダンの肖像 (弘田三枝子) 🅵

A3 私生活 (辺見マリ) 🅵

A4 X+Y=LOVE (ちあきなおみ) 🅴

A5 この愛に生きるとき (ペギー・マーチ)

A6 僕の中の君 (ベッツイ&クリス) 🅲

B1 何があなたをそうさせた (いしだあゆみ) 🅵

B2 チュク チュク (ジミー・オズモンド) 🅲

B3 わたしだけのもの (伊東ゆかり) 🅵

B4 お嫁に行きたい (森山加代子) 🅲

B5 泣きながら恋をして (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅳

B6 希望 (ザ・シャデラックス) 🅶

 

演奏: 新室内楽協会

編曲: 山屋清

定価: 1,500円

 

「絶交」「逃げろお嬢さん」「LUV-YA」…「アイ・ウィル・フォロー・ヒム歌謡」という概念を一部マニアに植え付けた「リトル」ペギー・マーチは、日本語盤の名唱も数多く、アイドル歌謡界への影響も計り知れない重要歌手の一人。件の曲はポール・モーリアとフランク・プウルセルが曲作りに関わっているので、ラブサウンド路線へも密かに影響を及ぼしているということか。

というわけで、6日前紹介の『昨日のおんな/波止場女のブルース』に続く、新室内楽協会名義のアルバム。今回はアレンジに山屋清を迎え、普段のALS品番と趣きを変えての、流麗なストリングスを全面に出したラブラブサウンド路線で統一している。クラウンの『ストリングス・ストリングス・ストリングス』が半年先駆けていたけれど、このあたりから歌無歌謡でも急激にエレガント化が進んだ様子で、キングでもレオン・ポップスのストリングス重視ヴァージョンというべき「グリニッジ・ストリングス」名義のアルバムがロンドン・レーベルで作られ始めてもいる。ここまで力を入れても、歌謡曲の土着的ムードに勝てないと悟ったのか、みんながラブサウンド言い始める前に自然とフェイドアウトしてしまったが。今聴くとかえってそのアンバランスさが、当時に於ける近未来的カラーを逆説的に醸し出す。万博の年でしたからね、必然的に。ガチクラシック系のプレイヤー達が、しょうがないなと言いながら一生懸命演っていた様子が思い浮かびます。ただ、帯を見てもその辺のニュアンスが強調されていないので、買う人は普通に雰囲気作り盤として買ってたのでしょうね。

最近は「和もの」方面から、先鋭的な音の調合職人として再評価が進んでいる山屋氏であるが、ここではひたすら、歌謡メロディーをオーケストラでどこまで色付けできるかの可能性にチャレンジしている感じで、素材として選ばれたのはほとんどがコロムビアの自社曲。最後の「希望」は、岸洋子盤にわずかに遅れてリリースされたシャデラックス盤が後追いヒットを記録していたけれど、その盤はソニーからの発売で、言ってみれば「古巣リベンジ」である。全曲圧倒的なオーケストレーションで飾られているけれど、特に圧巻なのが「わたしだけのもの」だ。他のヴァージョンでは聴けない「高み」のようなものを、ここから引き出してしまうなんて。デノンと新規契約してのペギーの歌謡路線「ただ愛に生きるとき」は、歌無ヴァージョンで聴くと殆ど平浩二の曲のようだ。葵まさひこ作曲ゆえ、仕方ないか。ここまで偏執狂的に歌謡交響楽ワークを極めた山屋氏が、4年後には自棄気味にメロトロンをフィーチャーしまくった「あの4曲」(昨年4月22日参照)を手掛けることになるのだから、時の流れは冷酷なものである…