黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は佐良直美さんの誕生日なので

テイチク SL-16

鶴岡雅義 魅惑のレキント・ギター 星空のひとよ

発売: 1969年

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ジャケット

A1 星空のひとよ (鶴岡雅義と東京ロマンチカ)Ⓐ

A2 港町ブルース (森進一)Ⓑ 🅺

A3 みんな夢の中 (高田恭子)Ⓑ 🅶

A4 涙の中を歩いてる (いしだあゆみ)Ⓑ 🅶

A5 ギターのような女の子 (佐良直美)

A6 小樽のひとよ (鶴岡雅義と東京ロマンチカ)Ⓒ 🅲

B1 君は心の妻だから (鶴岡雅義と東京ロマンチカ)Ⓑ 🅸

B2 粋なうわさ (ヒデとロザンナ)Ⓐ 🅴

B3 時には母のない子のように (カルメン・マキ)Ⓐ 🅽

B4 長崎は今日も雨だった (内山田洋とクール・ファイブ)Ⓐ 🅼

B5 港町・涙町・別れ町 (石原裕次郎)Ⓑ 🅴

B6 旅路のひとよ (鶴岡雅義と東京ロマンチカ)Ⓓ 🅱

 

演奏: 鶴岡雅義 (レキント・ギター)/テイチク・レコーディング・オーケストラ

編曲: 山倉たかしⒶ、福島正二Ⓑ、鶴岡雅義Ⓒ、笠原公平Ⓓ

定価: 1,500円

 

とある電車内広告で「鶴岡雅義(歌手)」というクレジットを見る度、それってレス・ポールを歌手と紹介するようなものだろと違和感が拭えませんが…東京ロマンチカが「小樽のひとよ」でブレイクする遥か前から、ギタリスト・作曲家として豊かなキャリアを積んできた人ですよ。ロマンチカ以前はラテン・バンド、トリオ・ロス・カバジェロスを率いて活動、石原裕次郎「二人の世界」など作曲家として幾つかのヒット曲も手掛けており、テイチクの自社曲をギターで料理したインスト盤も早々とリリースしていた。その伝統はブレイク後も続き、移籍先のコロムビアソニーにも歌無歌謡アルバムを残しているのだ。歴代ヴォーカリストにはもうこの世にいない人もいるけれど、御大は歳90を目前に未だ健在。命のある限り生き抜いていただきたいものだ。

そんな鶴岡氏の残したギター・ムード・アルバムの一枚で、ちゃっかり4曲をセルフ歌無リメイク。内ジャケの姿は当時35歳とは思えない超風格が漂っていて、それに相応しく聴き応えのある作品だ。雰囲気作りというより、一音一音にじっくり向き合いたいタイプ。カジュアルなジャケットが不釣り合いにさえ思える。「ひとよ」シリーズ三部作は完全網羅されていて、その最新作「星空のひとよ」がオープニング。歌入り版と違い、山倉たかし編曲でエレガントなストリングスが響き、職人芸を盛り上げる。続く3曲はどっちかというと野暮ったいサウンドだけど、それで演奏が台無しになってるわけじゃなし。むしろ「ギターのような女の子」の軽妙さに耳が奪われる。山倉マジックが特にBメロで効きまくり、やはり土台が筒美京平メロ故に、安定感も只ものではありませんな。同じ組み合わせの「粋なうわさ」はそれ程でも、と思いきや、どうしても逆らえませんこのストリングスのあしらい方に。ここにも登場する例のノイズで始まる「時には母のない子のように」の孤高感は、むしろクラシック的な感触がある。最後はラブリーなフルートをあしらった「旅路のひとよ」で締め。こんな高貴な響きを漂わせた歌無歌謡盤が、なぜか激動の時代の鼓動を今に伝えてくれる。