黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は朱里エイコさんの誕生日なので

アトランティック QL-6056A

華麗なるミラクル・ハーモニカ・ベスト・ヒット20 ひとりじゃないの/待っている女

発売: 1972年6月

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ジャケット

A1 ひとりじゃないの (天地真理)Ⓐ 🅼

A2 待っている女 (五木ひろし)Ⓐ 🅵

A3 純潔 (南沙織)Ⓐ 🅹

A4 瀬戸の花嫁 (小柳ルミ子)Ⓑ 🅿︎

A5 恋の追跡 (欧陽菲菲)Ⓑ 🅻

A6 初恋の頃 (淡路まさみ)Ⓐ

A7 別離の讃美歌 (奥村チヨ)Ⓐ 🅵

A8 ママの星 (白川奈美)Ⓑ

A9 サルビアの花 (もとまろ)Ⓑ 🅵

A10 波止場町 (森進一)Ⓐ 🅷

B1 幸福泥棒 (井上順)Ⓐ 🅱

B2 心の痛み (朱里エイコ) 🅱→7/1

B3 陽はまた昇る (伊東ゆかり)Ⓐ 🅴

B4 浮雲 (坂本スミ子)Ⓑ 🅱

B5 希望の旅 (平山三紀)Ⓐ

B6 青い麦 (伊丹幸雄)Ⓐ

B7 新しい冒険 (フォーリーブス)Ⓐ 🅲

B8 さようならの紅いバラ (ペドロ&カプリシャス)Ⓑ 🅴

B9 ふたりは若かった (尾崎紀世彦)Ⓑ 🅺

B10 お別れしましょう (朝丘雪路)Ⓑ 🅴

 

演奏: 大野雄三 (ハーモニカ)/ワーナー・ビートニックス

編曲: 小谷充Ⓐ、青木望

定価: 1,500円

 

4日間続いたギター祭りを抜けたら、待っていたのは黄昏初の場所、ハーモニカをフィーチャーした異次元ワールド。とにかく吹奏楽器に対して冷酷な日々が続き、辛い気分になるけれど、ハーモニカ以上に不利な状況に立たされている楽器もないだろう。なんたって、吸わないと完璧な音楽が奏でられないからである…そのことに関して、個人的に笑えない話もあるけれど、本人の名誉のために伏せておくとして、ここまでの黄昏では部分的にハーモニカをフィーチャーした曲があったり、鍵盤ハーモニカなら全編フィーチャーとまでは言わないまでも多用されていたけれど、ガチでハーモニカを打ち出したアルバムというと、歌無歌謡全般に於いては、恐らくこれを含めて3枚位しかないと思われる。それを敢えて作ったワーナー・ビートニックスの着眼点は凄いなと思うし、歌謡メロディーに軽々と臨みつつ、多彩な演出力を駆使して易々と聴き流せない作品に仕上げた大野氏の手腕も凄い。ちょっと前、とあるTV番組で「ハーモニカ女子」の実態を特集していたけれど、こんなアルバムを作れる者は果たして、育っているのだろうか?気になる。というか、そんな親しみやすい楽器から、歌無歌謡ルネッサンスを起こしたいという気持ちは変わりませんよ。当然、リコーダーとかも。吹いてみると楽しいですよ、歌謡曲は。

さて、針を落とすと、いきなり木管のうきうきした調べと、女性コーラスの楽しそうな歌声に導かれ、「ひとりじゃないの」が奏でられ始める。下のパートを低音ハーモニカが添えて、普通ならオルガンが奏でそうなリズムパートも鮮やかに。Bメロの跳ね方も、ありがちなこの曲のヴァージョンと一味違う。もう、心からスキップ気分の出発地点だ。「待っている女」も、どす黒い藤本ムードから解放されながら、軽やかな感覚を加味した新鮮な演奏。こちらもBメロの跳ね方に特徴がある。何せ、このバス・ハーモニカの音に弱いのだ。近藤(相本)久美子の「小さな抵抗」なんかにもフィーチャーされていたけれど、特にガーリーな雰囲気に添えられると萌える。残念ながら、あのエンディングが来る前にフェイドアウトされてしまう。アレンジャー二人とも、歌無歌謡界ではメロトロン使用に定評がある(?)だけに、周りの音の選択にも個性全開で、ときめきを誘発してくれる。他のワーナー・ビートニックス盤と、決定的に温度差があるのだ。サルビアの花」は実にぴったりな選曲だが、ワーナーなだけあり、もとまろ盤より川奈真弓盤に近いアレンジだ。「幸福泥棒」は攻めまくりのアレンジで、他の曲を幻聴する余裕を与えない(爆)し、「陽はまた昇る」もかなりの飛ばしようだ。「心の痛み」は、例の朱里エイコのシングルに2週間先駆けてリリースされたヴァージョン。歌無盤で先行公開するという戦術は、いかにも当時ならではで斬新だ。「初恋の頃」のようなレア選曲も交え、決してペースを落とさない圧巻の仕上がり。これ、実際生演奏でやったら相当ダメージ来るだろうな…やる側にしたら。

ワーナー・ビートニックスには、これを超える魔境・こだまたかしの口笛をフィーチャーした盤が2.5枚あるが、そこにまで到達できなかったのが残念。テクニック的には、これ以上にシビアさを求められる楽器(?)もないけれどね。