黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

杉田二郎さんの誕生日は11月2日

東芝 TP-7558~9 

今宵踊らん ベスト・ヒット・パレード

発売: 1971年

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ジャケット

A1 雨のバラード (湯原昌幸) 🅴

A2 涙は明日に (ジローズ) 🅱

A3 さよならをもう一度 (尾崎紀世彦) 🅻

A4 夜のメロディー (アダモ)

A5 小さな恋のメロディ (ビー・ジーズ) 🅲

A6 虹と雪のバラード (トワ・エ・モワ) 🅲

A7 恋のかけひき (ハミルトン、ジョー・フランク&レイノルズ)

B1 長崎慕情 (渚ゆう子) 🅴

B2 長崎から船に乗って (五木ひろし) 🅷

B3 雨の御堂筋 (欧陽菲菲) 🅵

B4 初恋の丘 (由紀さおり)

B5 ポーリュシカ・ポーレ (仲雅美) 🅳

B6 この胸に (はしだのりひことクライマックス) 🅱

B7 琵琶湖周航の歌 (加藤登紀子) 🅱

C1 雨の日のブルース (渚ゆう子) 🅶

C2 わたしの城下町 (小柳ルミ子) 🅺

C3 花嫁 (はしだのりひことクライマックス) 🅻

C4 お祭りの夜  (小柳ルミ子) 🅷

C5 また逢う日まで (尾崎紀世彦) 🅵

C6 あの素晴しい愛をもう一度 (加藤和彦北山修) 🅶

C7 知床旅情 (加藤登紀子) 🅸

D1 スウィート・ヒッチ・ハイカー (クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル)

D2 ふたりだけの旅 (はしだのりひことクライマックス) 🅵

D3 さすらいのギター (小山ルミ) 🅵

D4 この胸のときめきを (エルヴィス・プレスリー)

D5 よこはま・たそがれ (五木ひろし) 🅼

D6 ある愛の詩 (フランシス・レイ) 🅳

D7 雪が降る (アダモ) 🅲

 

演奏: 奥田宗弘とブルースカイ・ダンス・オーケストラ

編曲: 岩井直溥

定価: 3,000円

 

「目標」に向かい、新たな一歩を踏み出した「黄昏みゅうぢっく」。その初っ端にいきなり『今宵踊らん』ですよ。過去4作を紹介しましたが、それでも「絞った方」。いずれにせよ、時代のカラーを濃厚に反映した選曲なので、ここに登場する必然性はあります。ただ、曲の良さを再認識するより、思わず身体が動き出すこと。それが基本存在価値ですから。パートナーがそこにいたら、自然と手を差し伸べ、共に舞い始めるのが当然の成り行き。決められたステップなんて、ないも同然ですから。でも、71年当時にしてみれば、ある程度の「共通言語」は設定されていたはず。

それにしても、テーマ設定は苦しい課題でした。「誕生日祝い」に関しては、「歌謡フリー火曜日」に充てていたため飛ばすのが必然となった昨年の火曜日生まれの人を始め、タイミングの問題でスルーせざるを得なかった重要人物も多数いたので、彼らにスポットを当てることを最優先としたのですが。本来なら今日は「伊藤咲子さんの誕生日」でもあるので、サッコの曲が収録された盤を救済したかったところ。何せ、自分が世界一好きな女性歌手の誕生日と重なったため、昨年の今日はそれができなかった(汗)。でも、もう手許に該当する盤がなくて。

それで、せめても誕生日の「日」が同じもしくは近い数値の人の曲が入っていることを選定基準に、予定しているアルバムを振り当てるという手段を取りました。今日の場合は杉田二郎さんになりましたが…気持的には3月最後の重い雰囲気を引きずることになっっちゃうんですよ。何せ、「戦争を知らない子供たち」が、ここ数十日間のことの成り行きからして、今最も「共感しづらい」曲になってしまったから。その根拠を素直に書くのは、本ブログのポリシーに反することではあるけれど、今は「戦争を知っている大人たち」の言葉に耳を傾ける方がずっと、心の勉強になる。その絶対数が減るばかりという人命の掟が、事態を益々シビアにするばかり。

「平和の歌」を歌い継ぐことは重要だけれど、それを楽観の素にし続けるわけにいかない。人為的に管理される地球なんてもうまっぴらだし、疫病に苦しむのと同じ位、基本的人間生活の自由を奪われることが苦しいのを忘れてはいけない。

今作には「戦争を知らない~」ではなく、その2作後の「涙は明日に」が選曲されているが、信じられないほど軽妙にアレンジされた同曲が流れる中、祈るような気持ちでダンスするのがまだまだ最善の策だ。見知らぬ相手であろうが、ちゃんとガードを固くしてお互いを守りながら。皮肉にも、2月26日のエントリで「素直に聴けない曲」と称してしまったポーリュシカ・ポーレ「さすらいのギター」知床旅情といった曲も、ここに勢揃いしているけれど。あの頃の世界に対する「水平性」は、こうしてダンス音楽にアレンジされると、今でも有効だという印象しか与えない。「ポーリュシカ・ポーレ」のカラフルなアレンジは、もはや痛快の域に達しているけど、過剰で辛いという印象も。

このくらいで普段の「黄昏みゅうぢっく」に戻らないと、真の最後まで向かう力が失せる…毎度のことながら、それ色に染まったブルースカイ・ワールド。今回は所々に散りばめられた洋楽曲にニヤリとしてしまう。小さな恋のメロディ(これも前述とは違う側面でながら、複雑な感情を抱かせる曲)は、メロディの構造を崩すことなく無邪気なステップを踏める曲に改造されており、不思議な胸キュン感を味わう前にお決まりの大団円に導かれる。ちょっと前なら素直に聴けない曲の仲間だった「虹と雪のバラード」を挟み、「恋のかけひき」はポップなアレンジではあるものの、原曲のメロディと比較すると相当解体されており、素直に踊りづらい。エンディングなんかかなりのズレ感が。むしろ、濃厚なダンヒルサウンドの影が「この胸に」に現れており面白い。「長崎慕情」はムーディなアレンジではあるが、ど真ん中に定位しているボンゴの音にアンバランス感を感じる一方で、もろ「こんなにこんなに愛してる」なあのフレーズが出てきてニヤリ。この曲はやっぱテイチクの「うーうー」ヴァージョンに勝るものはないですね。ここで初登場となる「初恋の丘」はナイスアレンジ。おなじみの曲が並ぶC面は、入門編として丁度いい感じ。B面ではいきなり「スウィート・ヒッチハイカー」という反則技でロック世代を取り込み。東芝故にCCR贔屓したと思われるが、この調子で「ブラウン・シュガー」もやっていただきたかったところ。チーク目当ての人には、必殺曲ある愛の詩が終盤に控える。

全体的にリズム・セクションの響きが、当時の歌無歌謡のレギュラー盤に近い分、鑑賞用・研究用としても有用な2枚組だ。ジャケは…良識的にはセーフとはいえ、デリケートな部分を気にする人にとっては苦言ものかも…(汗