黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

松崎好孝さん (チェリッシュ)の誕生日は11月1日

ビクター SJV-628

ドラム&ドラム 最新ベスト・ヒット12

発売: 1973年2月

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ジャケット (都合により多少クロップ)

A1 ふたりの日曜日 (天地真理) 🅵

A2 漁火恋唄 (小柳ルミ子) 🅸

A3 若草の髪かざり (チェリッシュ) 🅵

A4 喝采 (ちあきなおみ) 🅷

A5 旅路にひとり (青江三奈)

A6 小さな体験 (郷ひろみ) 🅲

B1 女の子なんだもん (麻丘めぐみ) 🅵

B2 雨に消えた恋 (野口五郎) 🅲

B3 あなたが帰る時 (三善英史) 🅲

B4 あなたの灯 (五木ひろし) 🅴

B5 じんじんさせて (山本リンダ) 🅴

B6 黄色い麦わら帽子 (松崎しげる)

 

演奏: ヒット・サウンド・オーケストラ

編曲: 馬飼野康二

定価: 1,500円

 

ビクターのドラム・シリーズというと、「チコ菊地とイージー・ライダーズ」名義でリリースされたものがよく知られているが、その単独盤を見つけるのは困難。せめても昨年6月13日の「雨」盤で、部分的に紹介できたのが幸運だった。というか、ジミー・ありた・原田という3大主軸が派手な存在すぎて、それ以外のドラム勢にかえって無茶な希少価値が与えられているのではという感がある。フィリップスの「マックとダイナミック・リズム・マシーン」に関しても、それを意識したと思われるキャニオンの「ダブル・ドラム」シリーズにしても同様。ワーナー・ビートニックスの市原明彦盤にしても、相当数集まってはきたけれど、決してジャンク価格では出回っていない。ドラム盤のダイナミズムがもたらす快感は、ある意味特殊性癖みたいなものだ(瀧汗)。

さて、チコ菊地の盤に代わって登場したこの盤、ヒット・サウンド・オーケストラ名義では、馬飼野兄弟が激突する盤と、リコーダーが炸裂するラブリーすぎな名盤『さわやかなヒット・メロディー』の間に位置する1枚で、ドラムを打ち出してはいるが、その奏者名は伏せられている。まさに、カメレオンの如く変容するプロジェクトになったわけだが、憶測するにこの名義の盤こそが、笹井一臣氏のディレクションによるものではないだろうか。この盤では「女の子なんだもん」「黄色い麦わら帽子」と、GAMレーベル絡みの曲が2曲取り上げられており、後者は初登場故、尚更そう思わせる要素が強い。ソリッドなサウンド作りは、MCA時代の『ヒット速報』2枚から受け継がれるもので、ビクター元来の保守性とは一線を隠した響きになっている。それにしても、ドラマー名不記載が惜しすぎるなかなかの名演が連なっている。エレピを中心に洗練された馬飼野アレンジは、藤井明美さんの当時の最新シングル「愛のメロディ」に通じるもので、そのB面のカラオケ・ヴァージョンをここに混入しても、全く違和感ないはず。「ふたりの日曜日」のドラムソロも、決してとってつけた感がなく、全体の連続性にはまっている。対して「漁火恋唄」は、タム中心のテクニカルなドラムソロに始まり、本来のイントロをそれにミックスするというヤバいアレンジ。「ハァー」部分も、ワーナー盤のようなやけくそ感はなく、まったりとした流れにアクセントを添えている。「若草の髪かざり」と「女の子なんだもん」は、『さわやかなヒット・メロディー』でも再演されているが、同一名義とはいえ見事にカラーが違う演奏だ。喝采は相当テンポを上げているが、完成度の高い名演。「旅路にひとり」はここで初登場となるが、ソウルフルに染まった好解釈。「小さな体験」では2台のドラムセットが左右のチャンネルで暴れ回る、「マックと~」を意識したアレンジだ。どちらも基本的ビート感覚から逸脱しているのに、不思議と全体を引っ張っている。ツゥイン・ギターズ盤で聴きすぎた「あなたの灯」は、思いっきり解体した大胆なアレンジが新鮮。さらにぶっ壊れているのが「じんじんさせて」ミノルフォンの古巣リベンジでもあり得ないくらいのアタックを、リンダの曲にぶつけてみせる。「黄色い麦わら帽子」が、決して地味な曲ではないのに癒しの色合いを帯びてしまうのが不思議だ。恐らく、松崎しげるの歌無盤はこれが最初のはず。

「訳あり」シールを貼るより、必要以上にクロップする必然性が現れたジャケット掲載になってしまいましたが、今後のエントリでは仕入れルートに訳あり色が濃厚なため、このようなケースが増えると思われます(汗)。