黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

宮本悦郎さん(クール・ファイブ)の誕生日は1月15日

東芝 TP-7357

涙でいいの

発売: 1969年10月

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ジャケット(+別のジャケット)

A1 涙でいいの (黛ジュン) 🅳

A2 おんな (森進一) 🅶

A3 銀色の雨 (小川知子) 🅳

A4 禁じられた恋 (森山良子) 🅽

A5 長崎は今日も雨だった (内山田洋とクール・ファイブ) 🅽

A6 或る日突然 (トワ・エ・モワ) 🆁

A7 恋の奴隷 (奥村チヨ) 🅵

B1 恋泥棒 (奥村チヨ) 🅵

B2 君に逢いたい (黒木憲)

B3 港町ブルース (森進一) 🅽

B4 今日からあなたと (いしだあゆみ) 🅳

B5 フランシーヌの場合 (新谷のり子) 🅸

B6 天使のスキャット (由紀さおり) 🅴

B7 山羊にひかれて (カルメン・マキ) 🅷

 

演奏: ゴールデン・サウンズ

編曲: 荒木圭男

定価: 1,500円

 

同じ東芝でも、昨日から14年フラッシュバック。当時の歌謡界にとっては14年の時差って劇的すぎますからね…当時の東芝の主流だったゴールデン・サウンズの盤の中では、かなり売れた方のはず。ジャケットのせいで3枚同時に買ったお客様もいたという逸話さえ生まれた、伝説のアルバムです。まぁ、今リサイクル市場にこれを流すことには逆に勇気を伴いますからね(特に「下半身」を前に出されると、その場で凍る)…そんなわけで、いつもの「盤隠し」ではない別の方法で、カムフラージュするのを余儀なくされましたが、よくよく見るとこのタイトルの字体、隠しに使ったポリドール盤でそのままトレースされてるではないですか!元を正せば黛ジュンのシングルが大元だったんですけど、これも今になっちゃアウトすぎじゃないかと思います。皮肉なことに、今じゃ仲良くユニバーサルですが…このポリドール盤『涙でいいの』、箱買いに入っていた1枚ですが、訳ありで約3曲再生不可能になってしまっており、そのせいで泣く泣く「黄昏みゅうぢっく」で取り上げるのは諦めました。せめても、ジャケットだけ登場してもらったわけですが、そのうちの1曲がブルコメの「海辺の石段」なんでとても悔しいんですよ(涙)。しかも、タイトル曲と銀色の雨を除くと、共通する選曲がない。やはり層が厚すぎたのだなと。

話をゴールデン・サウンズに戻して、「若さゆえ~」じゃない方の「君に逢いたい」を除くと超コモンな選曲故に、軽い心で付き合えるアルバム。ジャケット目当てに買った人の下心を汚すことさえしない、あってよかったと思わせる音が淡々と続く。恒例の浅井英雄氏のライナーも、8月までの69年の動向をわかりやすくまとめた内容で、歌謡史研究者に優しい。瞳かおるのアシッドサイケ歌謡「お願い」あたりにまで言及してたり、九ちゃんの「蝶々」が要注意歌謡曲に指定される一幕に噛み付いてみたり、東芝ならではの考察も興味深いけど、今にもまして殺伐とした、統一しがたい空気も漂っていたんですよね。ヒット曲には、それを緩和する魔力がまだまだあったと。

序盤の「おんな」では、鍵ハモでは珍しい色気を注ぎ込んだ演奏が聴かれて、ジャケットで見せたかった世界の音像化はこれなのかと読めたりするが、「銀色の雨」で一気にカラフルな展開に向かい安心する。恐らく山内さんの京琴と思われるけれど、シタールを意識した音色だ。「禁じられた恋」は驚くほどあっさりとした解釈。「或る日突然」はご本家らしくない高速アレンジになっているが、しっとり感がある。はっきりしたカラーがないところが、逆にゴールデン・サウンズのキャラクターを作っていたのではないか。3曲被っている『雲にのりたい/恋のなごり』に流用されたテイクにゴールデン・サウンズ名義のものがなかったことも、なんとなく納得。この盤の誕生日ネタはこれでほぼ使い尽くしましたね…