黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

浜口庫之助さんの誕生日は7月22日

ビクター SJV-574

惚れた/ちいさな恋 魅惑のクラリネット

発売: 1972年4月

ジャケット

A1 ちいさな恋 (天地真理) 🅱→6/13

A2 めぐり逢い (渚ゆう子) 🅱

A3 雪あかりの町 (小柳ルミ子) 🅸

A4 終着駅 (奥村チヨ) 🅰→6/13

A5 別れの朝 (ペドロ&カプリシャス) 🅺

A6 かもめ町みなと町 (五木ひろし) 🅸

B1 惚れた (鶴田浩二) 🅱

B2 ハチのムサシは死んだのさ (平田隆夫とセルスターズ) 🅱→6/13

B3 さすらいの天使 (いしだあゆみ) 🅶

B4 だから私は北国へ (チェリッシュ) 🅳

B5 出発の歌 (上条恒彦と六文銭) 🅰→6/13

B6 雨のエア・ポート (欧陽菲菲) 🅺

 

演奏: 北村英治 (クラリネット)/ビクター・オーケストラ

編曲: 近藤進

定価: 1,500円

 

歌無歌謡盤で単独で取り上げられるのは稀な楽器の一つ、クラリネット。その音がフィーチャーされると歌手の人気が下がるとか、妙な噂も流布されていますが、自分はその音がたまらなく好き。まろやかさからさえずりまで、幅広い音域で魅了してくるし、見栄えも素敵。宗内の母体のバンドRacco-1000でも、一時的にクラリネット乙女を迎えてその魅力を生かしたことがあります。が、実際音を出そうとするとかなりの力が必要とされるし、なめちゃいけません(あらゆる意味で)。宗内の母体の元カノも経験者でしたが、相当苦労していたようで。

そんな魅力的な音を前面に出すため呼ばれたのは、ジャズ界大御所プレイヤーの一人である北村英治氏。この超達人を迎え、72年の歌謡ヒットに鮮やかにアタックしたアルバム。のちに送り出される、言わば同じ「縦笛属」をフィーチャーしての名盤「さわやかなヒット・メロディー」の予兆さえ感じさせるラブリーな響きは、アイドル歌謡のみならずフォークや仁侠演歌にまで及ぶ大胆なアプローチで、洗練されたサウンドがかっちりバックを支えます。既に所謂「雨盤」に4曲流用されたのを紹介しましたが、そこにも含まれたトップ「ちいさな恋」から早々と爆走。スウィンギーなハイテンポで軽々1コーラスこなし終わった後、怒涛のアドリブがスタート、完全なる「どジャズ」へと変貌する。さらにヴァイブとピアノのソロが続き、さながらMJQのような演奏だ。続く「めぐり逢い」からはジャズ色は後退するものの、タイトなリズムを従えて洗練された展開に突入。この低音部での艶かしい音は実に歌謡向きだ。しっとりした「終着駅」から「別れの朝」に向かう展開では、女性コーラスが色を添えるが、後者の右チャンネルに入っている謎の音はなんなのだ…極端なディストーションとM-tronエフェクターを合わせたような効果を何か(恐らくギター)にかけているようで、これはモーグなのかと一瞬戦慄させる。竜崎孝路氏が歌無歌謡仕事で使い始めるのは、半年以上後のことだし…

山内さんがおしとやかに挑んだ「惚れた」も、鮮やかにこなして新風を吹き込んでみせるし、「ハチのムサシは死んだのさ」では、スターバックの「恋のムーンライト」を予感させるマリンバのソロに煽られて爽快に舞いまくる。ガチジャズアプローチは「だからわたしは北国へ」の方では成功してないのが惜しいが、それを挟む2曲はラブ・サウンドとしても上出来で、「出発の歌」では女性コーラスの内一人のエキサイトした歌声がクラの音と見事に渡り合っている。蛇足だけど、個人的にはクラリネット、フルート、リコーダーが高い順にハモるのが理想的な響きだと思っている。響きのパワーを考慮しても、一般的には逆と思いますよね…でも、甘い。バランスを合わせてみると一味違いますよ。それぞれ試して実感して頂きたいです、演り手の皆さんには。

ジャケ画像の「訳ありシール」が最大レベルのデカさになってますが、箱買いで巡ってきた盤故の事情がありましたもので…(汗)