コロムビア HS-10037-J
ニュー・ヒット14/琴の調べ
発売: 1972年4月
A1 さすらいの天使 (いしだあゆみ) 🅷
A2 水色の恋 (天地真理) 🅸
A3 遠くはなれて子守唄 (白川奈美) 🅴
A4 出発の歌 (上条恒彦と六文銭) 🅳
A5 悲恋 (内山田洋とクール・ファイブ)
A6 雪あかりの町 (小柳ルミ子) 🅹
A7 幸福への招待 (堺正章) 🅲
B1 望郷子守唄 (高倉健) 🅴
B2 雨の御堂筋 (欧陽菲菲) 🅷
B3 長崎慕情 (渚ゆう子) 🅶
B4 オロロンの唄 (矢吹健)
B5 雨のエア・ポート (欧陽菲菲) 🅻
B6 流れのブルース (森進一) 🅵
B7 別れの朝 (ペドロ&カプリシャス) 🅻
演奏: 山内喜美子 (琴)/オーケストラ名未記載
編曲: 無記名
定価: 1,500円
中三日で山内選手再登板。女性演奏家としては驚異的なスタミナ持続は、そんじょそこらの野球選手の比でなかったかもしれない。特に72年の大車輪の活躍ぶりは、勝率10割を超える勢い。少なくとも4枚残された歌無歌謡アルバムを聴くだけで実感できるし、レコード会社の個性の違いも絡んで、様々な場面を見せてくれる。芸大卒の実力で、普通の譜面にも即対応できる強みがあったし、そこに加え、琴というアドリブの難しい楽器でいかに柔軟にアプローチするか、その卓越したセンスが編曲者や他のプレイヤーを刺激しまくったと思われる。こんな人はそう簡単に現れるものではない。和楽器をかじる者と仲良くしたい自分は、もっと自己研磨しなきゃと歯軋りするばかり。
4日前のキャニオン盤の前に、ビクターとテイチクにも強力な録音を残していますが、本盤はさらに遡って4月コロムビアに残されたもので、前年4月リリースされた、京琴一本で臨んだ『花嫁』に続くHS品番での第2作。これにも「地球は回るよ」という強力そうな選曲があり、聴いてみたいのですが…この盤、残念ながら編曲者クレジットはないし(原曲のデータをコピペしてるが、鵜呑みにゃできんよね)、英文表記も “YAMAUCHI” になってますが、本人は表記問題に関して(「山ノ内」「山之内」も含め)それほど気にしてなかったのでしょう。最も初期の録音では「山内キミエ」名義になっていましたし。あまりにも古風なので変えたのでしょうか。
オープニングの「さすらいの天使」から、昨日紹介のクラリネット盤にも負けず劣らずの鮮やかさ。「水色の恋」のイントロも琴で奏でられると、見事な純白ぶりだ。ビクターやテイチク盤に比べて、録音のバランスも整頓された印象で、そっちの実験的サウンドが劣るという印象は与えないものの、いい感触になっている。歯切れ良いリズムセクションに酔いしれていたら、突如異次元へ…琴だけの二重録音による、おしとやかな「遠くはなれて子守唄」だ。決してドメスティックなメロディーに留まらない新鮮なタッチがあり、かつ西洋的に見ればエキゾティックな響き。こういう大胆な試みをアクセントとして置いたのは成功だ。続く「出発の歌」のベースにミレニウムの影を感じて、ついついカルミック・ドリームがフラッシュバック。「幸福への招待」もそうだけど、ピースフルなソフトロックとの相性も抜群だ。ストーンズの「シーズ・ア・レインボウ」を琴の演奏で聴きたくなる…「悲恋」はキャニオン版の「別れの旅」とペアにして聴くと泣けそう。
B面トップも琴二重奏による「望郷子守唄」。「キーッ」音をはじめとするサグな要素がはぎ取られている分、優しい印象で、高音部の演奏はまるでオルゴールのよう。このオケでクイーンの「預言者の歌」を歌うとはまりそう(汗)。そこからどポップな「雨の御堂筋」に引きずり込むのも最高で、思わず「すてきなバレリ」を琴で(…もうやめましょうよ!)。ベンチャーズ繋がりで「長崎慕情」へ続くけど、テイチク盤の「うーうー」が恋しくなるな(あちらも山内さんの演奏でしたが)。間奏のフルートが一瞬尺八を思わせ、どきっとさせましたが。「雨のエア・ポート」は凝ったビクター版も良かったけど、ここでは左右別々の表情を持たせて一人デュエット。オリジナルの良さを再現している。最後の「別れの朝」もおしとやかさ全開でいい幕引き。最後の最後、1小節早く演奏してしまったのが絞られず収録されているところに、お茶目さを感じてしまう…本人は消して欲しかったと望んでたかもしれないが、まぁ「ユア・ビューティフル」みたいなものか。その曲も琴で聴いてみたいな(だからもうやめって!)
クレジットの件で寂しさは感じるけれど、文句なしの力作だ。このジャケットに誘われて、いよいよようやく尺八の世界へ…1日挟んで、ですが…