黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は朝丘雪路さんを偲んで

テイチク SL-1381

バッキー白片 ニュー・ヒット歌謡ベスト14

発売: 1972年5月

ジャケット

A1 恋の町札幌 (石原裕次郎) 🅱

A2 さすらいの天使 (いしだあゆみ) 🅸

A3 めぐり逢い (渚ゆう子) 🅲

A4 ふたりは若かった (尾崎紀世彦) 🅼

A5 朝の恋人 (本郷直樹) 🅰→7/23

A6 旅立つ船 (グラスロード) 🅰→7/23

A7 黄色いシャツ (浜村美智子) 🅰→7/23

B1 かもめ町みなと町 (五木ひろし) 🅹

B2 恋の追跡 (欧陽菲菲) 🅽

B3 今日からひとり (渚ゆう子) 🅹

B4 ハチのムサシは死んだのさ (平田隆夫とセルスターズ) 🅸

B5 緑の季節 (山口いづみ) 🅳

B6 リオの女 (ザ・ピーナッツ)

B7 お別れしましょう (朝丘雪路) 🅵

 

演奏: バッキー白片とアロハ・ハワイアンズ

編曲: バッキー白片

定価: 1,500円

 

4月に入り、既に2作を紹介しましたが、未だバッキーの季節到来までは遠そう…畳み掛けるように、まだまだ行きますよ。本作は72年5月のリリースで、あの一部の人が卒倒確実な「LOVER CREATION」シリーズの1枚として出されたもの。テイチクのシリーズ戦略の実態は読みづらいものがあり、当時配布されたキャンペーン用資料とかを見ない限り、主旨が把握出来なさそう。このシリーズの場合、『セレモニィー~ブッダ・ミート・ロック』という1枚があまりにも孤高のオーラを放っているので、その手の作品がまだまだあると思われがちかもしれないが、やはりその作品の方が特殊な例で、ヤング・ジェネレーションのために雰囲気作りに効果的な作品を提供するという大雑把なテーマの元、キャンペーンが組まれていたみたいだ。このアルバムもやはり、70年の「クール・サウンド」キャンペーンの作品群と同様、普段通りのバッキー節で歌謡曲の最新ヒットが料理されており、ヤングの部屋をいとも簡単に椰子の木の下のムードに染めてみせる。スチールが安定の調べを奏で、ウクレレとアコギ(通常のギターより小ぶりか)がリズムを固めるという調子。今作ではさらにステディなドラムが加わり、従来以上にビート感覚を意識したサウンドになっている。「恋の町札幌」こそアダルティな感触があるが、以下3曲畳みかけてくる筒美京平作品では、ポップ色を強調。恐らくウッドベースと思われるベースの響きこそ地味ながら、全体のサウンド処理は当時のロックを意識したもので、「ふたりは若かった」はなぜかジョン・レノンの「イマジン」に通じる響きがある。続く3曲は、例の山内さんのヤバすぎる「太陽がくれた季節」をフィーチャーした2枚組に流用されているため、聴き慣れた感触。「朝の恋人」にも控えめなロック色があるが、2枚組のエントリでも書いた通り、「ザ・モンキーズ」でピーターが監督した回「負けるなデイビー」の冒頭で演奏されている、ピーターの未完成(?)自作曲にヒントを得たようなメロディーがあって、そのニュアンスを強調する演奏。韓国メロディーの「黄色いシャツ」が、なぜか最もハワイアン色が濃い感じがする。B面は冒頭3曲と最終曲がさらなる筒美作品で、ある程度簡素化しつつも曲の良さを殺していない好演。「恋の追跡」もラテン色が加わり、一味違う解釈だが、唯一2枚組に抜粋されなかった山内さんヴァージョンに対する恋心がつのる…「今日からひとり」は他の曲とオルガンのトーンが変わり、新鮮なサウンドだ。「緑の季節」は、山下洋治ヴァージョンほどではないが未消化な印象で、やはりハワイアン・サウンド向きじゃない曲なのだろうか。

曲によってミックスのバランスやサウンドの処理を変えているのも効果的で飽きさせないが、やはり曲の最後で頑なに「でゅわ~ん」をやらないのが潔い。なお、ジャケットは例によって、統一デザインの単色ジャケットにスリックを貼り付けた仕様になっている。『セレモニィー』の黄色に対してこちらは濃い赤だが、ジャンルによって色分けされていたのだろうか。