黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は三木たかしさんを偲んで

キャニオン C-1094

ムード・サックス ヒット歌謡ベスト14 

発売: 1975年2月

ジャケット

A1 湯けむりの町 (森進一) 🅳

A2 旅愁 (西崎みどり) 🅴

A3 あじさいの雨 (渡哲也) 🅴

A4 愛ひとすじ (八代亜紀) 🅸

A5 わたし祈ってます (敏いとうとハッピー&ブルー) 🅴

A6 あなたにあげる (西川峰子) 🅵

A7 襟裳岬 (森進一) 🆀

B1 初めてのひと (西川峰子) 🅱

B2 火遊び (中条きよし) 🅲

B3 おんなの夢 (八代亜紀) 🅳

B4 冬の駅 (小柳ルミ子) 🅲

B5 はまなすの旅 (西崎みどり) 🅱

B6 くちなしの花 (渡哲也) 🅽

B7 さすらいの唄 (小沢深雪) 🅳

 

演奏: ボビー佐野 (アルト・サックス)/オーケストラ名未記載

編曲: 池多孝春

定価: 1,500円

 

黄昏では3枚目の登場となる「猫ジャケ」。エンケンのファースト・アルバムを彷彿とさせる構図ですが、内容は演歌中心。昨日に続いて、サックスのメロウな響きを堪能しまくれる1枚。ガチプレイヤーとしてジャズ界でブイブイ言わせたボビー佐野の、スムーズジャズとしての歌謡へのアプローチ。ドメスティックなメロディーが多いのに、泥臭さを感じさせず、気配りの効いたアレンジがさらにそれを強調している。そのアレンジャーは、池多孝春先生だ。

2002年発売された藤原彩代さんの「おさい銭」にめちゃはまって、その曲に対する称賛を繰り返すうちに、その作者である長谷川弓子さんとSNSで仲良くなってしまい、そのアレンジを手掛けた池多氏に対する賛辞の言葉を何度も目にしている間に、彼も帰らぬ人になってしまった。歌無歌謡にハマる前に逝かれてしまったのがほんと残念で、今ならいろいろ訊きたいことあったのに…そんな彼の歌無歌謡界での偉業といえば、やはりユピテル襟裳岬のメロトロンまみれアレンジだろう。この盤も、池多氏アレンジで「襟裳岬」収録となれば、即買い決定だったが、やはりここではアプローチをかなり変えてきている。同じユピテル盤でも、大正琴ヴァージョンでは全然カラーが変わっていたし、そこまで芸風を使い分けられるのも名アレンジャーの強みだろう。ここでは、イントロのトランペットのフレーズをヴァイオリンで奏でているのが特異。メロトロン版は、恐らく焦りの結果としてああなってしまったのではないか。だからこそ、異様な感触が出ていてたまらないのであるが(ジェイクのサックスも、ここでのボビーの演奏に比べるとファンク色充満だし)。他の曲では、ジャジーな色が出ている「冬の駅」が特にいい。そして、奇遇にも…「愛ひとすじ」は「死ね死ね団のテーマ」作者コンビの曲を、同曲のオリジナルアレンジャーが手がけるという結果になった。

夜のムードにはまった演奏でも、いかがわしさに直結しない。そんな潔さが全編を貫くアルバム。そりゃ猫を抱いて眠る時のお供にも最適ってものだ。