黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

芥川澄夫さんの誕生日は1月30日

東芝 TP-7376

ミスター・ギター 花と涙

発売: 1969年12月

ジャケット

A1 花と涙 (森進一) 🅶

A2 恋泥棒 (奥村チヨ) 🅷

A3 悲しみは駆け足でやってくる (アン真理子) 🅻

A4 星空のロマンス (ピンキーとキラーズ) 🅵

A5 いいじゃないの幸せならば (佐良直美) 🅸

A6 今日からあなたと (いしだあゆみ) 🅴

A7 ローマの奇跡 (ヒデとロザンナ) 🅱

B1 まごころ (森山良子) 🅸

B2 涙でいいの (黛ジュン) 🅵

B3 銀色の雨 (小川知子) 🅴

B4 おんな (森進一) 🅷

B5 何故に二人はここに (Kとブルンネン) 🅳

B6 朝陽のまえに (はしだのりひことシューベルツ) 

B7 美しい誤解 (トワ・エ・モワ)

 

演奏: 横内章次 (ギター)/ブルー・ドリーマース

編曲: 横内章次

定価: 1,500円

 

ブルー・ドリーマーズ名義では『さすらい人の子守唄』(1月7日)に続くアルバムで、個性全開という点ではこっちの方が凄い。横内章次ものを1枚だけと言われたら、恐らくこれを選ぶのは確実だろう。競合ヴァージョンの多い曲が目立つ分、個性がはっきり刻印されやすくなっているし、69年型歌無歌謡アルバムとして理想的仕上がりになっている。トップの「花と涙」で手堅くスタートしておいて、「恋泥棒」で早々と大胆にギアチェンジ。オリジナルを凌ぐ疾走感の中、ギターに個性を与え分け効果的に配分。それ以上に唸りを上げまくっているベース(恐らくというか、確実に寺川正興。黄昏で語るべき全ネタが揃った後、とうとう手に入れたクラウン盤『ベース・ベース・ベース』で全開となるあの音そのもの)が耳をとらえる。まさに二度が三度に度重なって、美味しさ倍増するグルーヴィ・サウンド。と思えば、「悲しみは駆け足でやってくる」は穏やかに。東芝盤のこの手の曲で荒れ狂いがちなオルガンも、ここでは地味な役割に徹している。「星空のロマンス」ではアレンジャーとしての気配りの良さが全開してるし、いいじゃないの幸せならばは小粋なラウンジ色を与え全く別のイメージが覗く。ギター・プレイもなかなかのお茶目さ。「今日からあなたと」は、クレイジー・パーカッション版を聴きすぎたため、いい感じでチルアウト効果をもたらすアレンジだ。ローマの奇跡は、前作の「坊や大きくならないで」ほどの鬼気はないものの、ブルース的側面が押し出されているアレンジ。

B面の序盤は女性シンガーのエレガントな側面をギターで再現するパート。銀色の雨の、極端にトーンを絞ったプレイは異色。しかし、このエレガントムードを「おんな」が強引に切り裂く。木村好夫のシグネチャー・チューンが一瞬にしてガレージ・サイケ化!狂気のファズに、抑え気味のトーンながら暴れ回るベースが絡み、場末のバーの壁面を幻惑のライト・ショーが撹拌するイメージだ。こういう飛び道具が入っているから、69年の歌無盤は油断できない。これを境に、最後に向けてフォーク・ムードで突き進む。「朝陽のまえに」で、「夜明けのスキャット」を速回しサンプリングしたような使い方をしているのが斬新。「美しい誤解」も、ソフトロック・インストとして上出来で、いい幕引きだ。

いソノてルヲ氏が、海の向こうの元祖スムーズ・ジャズ的ギタリストを引き合いに出しながら、日本のジャズ界におけるギタリストの業績を的確にまとめているのは、この種のアルバムの付録としては実に効果的。雰囲気作りの一環として買われるアルバムも、意外と学習資料になり得るものですよ。