黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

島倉千代子さんの誕生日は3月30日

ユニオン UPS-5209-J

涙の季節 ー琴の幻想 第三集ー

発売: 1969年3月

ジャケット

A1 涙の季節 (ピンキーとキラーズ) 🅹

A2 捧げる愛は (島倉千代子)

A3 知りすぎたのね (ロス・インディオス) 🅶

A4 花はまぼろし (黒木憲) 🅳

A5 忘れないでね (浜マサヒロとリビエラシックス)

A6 華麗なる誘惑 (布施明) 🅴

B1 ブルー・ライト・ヨコハマ (いしだあゆみ) 🅻

B2 夕月 (黛ジュン) 🅷

B3 恋の季節 (ピンキーとキラーズ) 🅳

B4 ブルーナイト ・イン・札幌 (和田弘とマヒナ・スターズ、他)

B5 愛のさざなみ (島倉千代子) 🅲

B6 今は幸せかい (佐川満男) 🅶

 

演奏: 沢井忠夫 (琴)/オーケストラ名未記載

編曲: 無記名

定価: 1,700円

 

歌無歌謡に於ける琴の女帝いや帝王と言えば、山内喜美子さんを置いて他にないと思われますが、琴界の大御所・沢井忠夫氏もこっそり、歌謡に挑んでおりました。これは第三集となっていますが、既に洋楽スタンダードを取り上げたものがユニオンから二枚出ており、その延長線上のアプローチで臨んだもの。その割にGSナンバーの選曲がないのが残念ですけど…やっぱ、当時のリスナーが求めるものは、その辺じゃなかったんでしょうかね。尺八で聴くテンプターズの曲が、めちゃキマっていたのを思うと、実に惜しい。

さすが、日音=ユニオンだけあり、アレンジの黒幕は明らかにされていないものの、鋭いサウンド作り。トップの「涙の季節」から、なかなかソリッドなスムーズ・ジャズ系のバッキングに乗って、左右のチャンネルを琴が華麗に舞いまくる。山内さんの、恥じらいがちな乙女タッチさえ感じさせる演奏に比べると、やはりこの人のアプローチはガチだ。間奏でも、山内版「太陽がくれた季節」と同様、アドリブが炸裂しているのだが、そこでのサイケなイメージに比べるとずっとナチュラルというか、灯籠で照らされた夜といった趣き。続く曲は「夜明けのスキャット」か、と思ったら筒美作品「捧げる愛は」でした。ギターと琴にほぼ同じ存在感を与えて、効果的に配合しているし、サポートに入るクラリネットがめちゃいい音だ。「知りすぎたのね」も、感覚的には洋楽に近い。左側に入る音がクラビオリンか、コルネット・ヴァイオリンかという響きなのに、カラーが洋楽的で面白い。「花はまぼろしのような純粋に和風メロディーの曲の方に、逆説的にサイケ感が滲み出ている。「夕月」はオリジナルを挑発するかのようにガチな邦楽色を流し込み、新鮮な味わい。恋の季節はオリジナルのメロディーを解体しきった解釈が異色。「愛のさざなみ」も細かい気配りが効いたアレンジで聞き応え充分だ。ここではオーボエが好サポート。まさかの楽器と琴の絡みが、鮮やかな効果を生み出しまくる1枚だ。このくらいやってくれないとね、有線の琴BGMチャンネルでも。

ユニオンらしい、帯がないと何がなんだかわからないジャケットも度を越しているけど、辛うじて帯が使える状態でついていてよかった。裏ジャケの演奏者名誤植はなんとかしてほしかったな…