黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

姫野達也さん (チューリップ)の誕生日は2月1日

東芝 TP-7742

愛の十字架/イルカにのった少年

発売: 1974年2月

ジャケット

 

A1 愛の十字架 (西城秀樹) 🅸

A2 小さな恋の物語 (アグネス・チャン) 🅶

A3 魅せられた夜 (沢田研二) 🅲→8/12

A4 銀の指環 (チューリップ) 🅲

A5 一枚の楽譜 (ガロ) 🅷

A6 白いギター (チェリッシュ) 🅵→8/12

A7 愛情の花咲く樹 (シュキ&アビバ)

B1 イルカにのった少年 (城みちる)

B2 空いっぱいの幸せ (天地真理) 🅵

B3 夜空 (五木ひろし) 🅲→8/12

B4 ときめき (麻丘めぐみ) 🅶

B5 みずいろの手紙 (あべ静江) 🅳

B6 神田川 (かぐや姫) 🅴→8/12

B7 火の鳥 (欧陽菲菲)

 

演奏: ゴールデン・サウンズ

編曲: 斎藤恒夫

定価: 1,500円

 

アンコール月間一発目から、いきなり重厚に迫る秀樹の「愛の十字架」…そして悩ましいジャケット(はい、隠蔽します…汗)。ゴールデン・サウンズの黄金律なのだが、このアルバムで一旦リセット。2ヶ月後には新たな意識の元「ホット・エキスプレス」シリーズがスタートしている。そちらも2枚で打ち止めになっており、何れにせよ1974年は、歌のない歌謡曲にとって大きな曲がり角になったのだと印象付けている。このアルバムからは、年末リリースされた2枚組『ビッグ・ヒット1974~75 ベスト28』に4曲流用されているが、そちらでは「ホット・エキスプレス」名義となっており、制作側としてはスタンス的に大差なかったのかも。

何れにせよ、より時代に同化した音に仕上げるという点で、「ホット・エキスプレス」路線の下地を作ったアルバムという感じがする。「愛の十字架」も、テナー・サックスをフィーチャーして、場末音楽の色を出してはいるが、左のチャンネルで控えめに鳴っているシンセが、新時代の到来をさりげなく告げている。4小節目と7小節目でポルタメントのスイッチを入れて、ここぞとばかり面白いことをしてやろうという演出がいかにも。「小さな恋の物語」には、待ってましたとばかりラブリーなリコーダーが登場。乙女心溢れる響きが捉えられており、印象はクリスタル・サウンズのそれに近い。アンプから距離を置いた響きのギターが、そこに躍動感を加えている。最後の方、ちょっと妙な響きに聞こえるのは、左側にハーモニカがさりげなくユニゾンを加えているからだ。これはなかなか意表をつくアレンジ。

選曲的には王道路線ながら、ユニークな自社推しもあり、特に「愛情の花咲く樹」が貴重。しばらく後、伊藤咲子「ひまわり娘」を手掛けることになるシュキ・レヴィが属したデュオ、シュキ&アビバのデビュー曲(オリコン22位)。「イルカにのった少年」も、意外に他では取り上げられていない。こうして考えると、東芝の歌無歌謡に「ひまわり娘」が取り上げられていないのが不思議なのだが。ちなみに、ユピテルに残されてはいる。聴きたい…

謡曲が生活の一部と化していた幸せな時代の残り火を、今に引き継ぐ貴重な1枚。家に持って帰るのに勇気が要る時代ではあったけど…今だからこそ、食卓とかで再生できるように、時代に相応しいアーカイブ化を望みたいところ。