黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は内山田洋さんを偲んで

キング SKM-1070~1

あなたが選んだ 思い出の’70ベスト・ヒッツ

発売: 1970年

ジャケット

 

A1 私生活 (辺見マリ)☆Ⓐ 🅷

A2 X+Y=LOVE (ちあきなおみ)☆Ⓐ 🅶

A3 愛のきずな (安部律子)☆Ⓐ 🅷

A4 噂の女 (内山田洋とクール・ファイブ)☆Ⓑ 🅺

A5 手紙 (由紀さおり)☆Ⓐ 🅶

A6 愛は傷つきやすく (ヒデとロザンナ)☆Ⓐ 🅷

A7 昨日のおんな (いしだあゆみ)☆Ⓑ 🅷

B1 命預けます (藤圭子)☆Ⓑ 🅺

B2 波止場女のブルース (森進一)☆Ⓑ 🅹

B3 希望 (岸洋子)☆Ⓒ 🅸

B4 四つのお願い (ちあきなおみ)☆☆Ⓒ 🅸

B5 経験 (辺見マリ)☆☆Ⓒ 🅶

B6 燃える手 (弘田三枝子)☆Ⓒ 🅶

B7 国際線待合室 (青江三奈)☆Ⓑ 🅶

C1 圭子の夢は夜ひらく (藤圭子)☆Ⓒ 🅺

C2 逢わずに愛して (内山田洋とクール・ファイブ)☆☆Ⓒ 🅸

C3 女のブルース (藤圭子)☆Ⓒ 🅸

C4 愛の旅路を (内山田洋とクール・ファイブ)☆☆Ⓒ 🅶

C5 今日でお別れ (菅原洋一)☆Ⓒ 🅸

C6 あなたならどうする (いしだあゆみ)☆Ⓑ 🅸

C7 白い蝶のサンバ (森山加代子)☆Ⓐ 🅺

D1 新宿の女 (藤圭子)☆☆☆Ⓓ 🅲

D2 朝が来るまえに (ちあきなおみ)☆☆☆☆Ⓔ 🅳

D3 恋人 (森山良子)☆☆☆☆Ⓔ 🅻

D4 くやしいけれど幸せよ (奥村チヨ)☆☆☆☆Ⓔ 🅸

D5 花と涙 (森進一)☆☆☆☆Ⓔ 🅷

D6 白い色は恋人の色 (ベッツイ&クリス)☆☆☆☆Ⓔ 🅸

D7 黒ネコのタンゴ (皆川おさむ)☆☆☆☆Ⓔ 🅴

 

演奏: キング・オールスターズ

featuring 与田輝雄(☆)/上野正雄(☆☆)/尾田悟(☆☆☆)/村岡健(☆☆☆☆)

編曲: 川上英一Ⓐ、白石十四男Ⓑ、小町昭Ⓒ、尾田悟Ⓓ、萩原秀樹Ⓔ

定価: 2,400円

 

「コンピューターが選んだ」69年のヒットを取り上げたテイチク盤の翌年、レコード売り上げやラジオ/有線のオンエア、ジュークボックスのプレイ回数をコンピューターで集計(故に「あなたが選んだ」、なのか)してはじき出された「コンフィデンスHOT 100」のデータを元に選曲されてのキング2枚組。そう、オリコン・チャートも当時は純粋なレコード売上枚数に頼らず、相当ニュートラルな計算に基づき算出されていたわけで、実際記録された数字も「レコード会社公称」と相当差があるのも納得。少なくとも、70年代のうちはそうだったと信じていいだろう。各レコード会社やプロダクション、特定の放送局によるバイアスがけがない、純粋なチャート。それでいて、藤圭子が18週1位を独走できたのだから、いかに彼女の勢いが普通じゃなかったかがよくわかる。今のCD売上チャートが、流行の物差しと到底呼べる代物ではないのと雲泥の差である。

そんな輝かしい70年の代表的ヒットを、サックスの調べで統一してお送りするのがこのセット。どの曲も歌無歌謡として無難な仕上がりで、どんな場をも空気のように優しく包み込む。ここのコードがなんかおかしいとか(特に「手紙」では顕著にそう感じるのだが)、そんな細かいツッコミはせず、軽い気分で大阪万博の年に思いを馳せられる。サックスの演奏そのものも達人揃いのこなしで、安定感抜群で耳に入ってくる。コンボ演奏で聴く「燃える手」もなかなか乙なものだ。D面になるとちょっと毛色が変わり、一人多重奏で場末感を彩ってみせる「新宿の女」からジャズ感覚濃厚な村岡健演奏に導かれる。最後の最後、オルガンのポルタメント効果で猫の声を模した「黒ネコのタンゴ」でハッとさせる(ここだけテープを切り貼りしてるようだ)。細かいチャートアクションまで記した解説は、「ザ・ベストテン」時代以前の一般の人には新鮮だったに違いない。

 

今日は内山田洋さんの命日であるが、この黄昏潜伏期に伝えられた訃報の中でも惜しまれるのが、近年はボカロPとして老いを知らない勢いを感じさせてくれた彩木雅夫氏のそれだ。ここでは「逢わずに愛して」が収録されるにとどまっているが、ムードコーラスからサイケ(「恋のサイケデリック」!)まで、70年前後の時代の色を感じさせた名曲の数々は語り継ぎたいものである。