黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

ディック・ミネさんの誕生日は10月5日

テイチク SL-32

バッキー白片 不滅の歌謡名曲集

発売: 1970年

ジャケット

A1 君恋し (フランク永井) 

A2 酒は涙か溜息か (藤山一郎)

A3 影を慕いて (藤山一郎) 🅱 

A4 雨に咲く花 (井上ひろし) 🅱

A5 東京ラプソディー (藤山一郎) 

A6 人生の並木路 (ディック・ミネ) 

A7 上海ブルース (ディック・ミネ) 

B1 夜霧のブルース (ディック・ミネ) 

B2 星の流れに (菊池章子) 

B3 君忘れじのブルース (淡谷のり子) 

B4 江の島エレジー (菅原都々子) 🅱

B5 銀座の恋の物語 (石原裕次郎・牧村旬子) 

B6 赤いハンカチ (石原裕次郎) 

B7 ウナ・セラ・ディ東京 (ザ・ピーナッツ) 🅳

 

演奏: バッキー白片とアロハ・ハワイアンズ

編曲: バッキー白片

定価:1,500円

 

本来、高木ブーさんの誕生日を8ヶ月遅れでお祝いするという目的で、『ベース・ベース・ベース』を今日語る準備をしていたのですが、そんな段階で仲本工事さんの訃報。打ちひしがれて、感情のまま緊急記事をアップしてしまった次第。それで、今日の分に穴が開いた。とにかく、「3ヶ月ルール」を厳守している故、9月以降買ったアルバムを代わりに持ってくるわけにいかないし、何を「代打」に指名すりゃいいのやら。

で、「箱買い」で大量に巡ってきたアルバムの中に、リアルタイムのヒット曲ではない、古き良き歌謡スタンダードを取り上げた盤がいくつかあったのを思い出すなど。当ブログで取り上げたその手の盤というと、『なつメロ大行進』(昨年10月9日)しかないし(ジャケット見せたい気持ちと、マイナーレーベル贔屓という面が主にそうさせたので…汗)、それでも決して蔑ろにしたくない気持ちってあるのですよね。そこで、バッキーさんの出番なのです。

今年4月11日のエントリで語った、70年の「クール・サウンド・キャンペーン」の1枚としてリリースされた、歌謡スタンダードをハワイアン化した冒険作。見ての通り、ジャケットには多少昭和浪漫を漂わせてはいるが、例の大窪けい子女史のポスターはしっかり付属。これは全部の絵柄を見てみたいものです…直立して全身映ってるヴァージョンなんてないですよね…(瀧汗)。さすがに、テイチクの自社財産をメインに取り上げており、豊富な歌謡史を慎重に素材として扱いながら、万物ハワイアン化の法則に見事に則ったサウンドが全編で味わえる。どれもおなじみの曲故に、余裕のよっちゃんでメロディーをこなしつつ、まさかこう来るかなアレンジの手腕が冴えまくり、心うきうきだ。完璧にトロピカルなイントロから君恋しに導かれ、南国の夜のダンスホールが幕を開ける。後半には「こんなにこんなに愛してる」を連想させるフレーズも挿入され、テイチクの「今」にもちゃんと目配せしているのだ(まさか)。「酒は涙か溜息か」は、一見ひねりがない通常のイントロがギターで奏でられる中、いつの間にか南国の夜にワープしているという仕掛けがあり、自社財産へのリスペクトも欠かさない。オルガンによるオブリガートが幻覚的で、その辺のモダンな感触とのバランスも抜群。「影を慕いて」も同様だが、鍵を振っているようなパーカッション音に幻想のかけらが。賑やかにこなされる東京ラプソディーも楽しい。「銀恋」「赤いハンカチ」になると、洋楽的センスが相当前に出てくるため、アレンジ的新鮮味は薄れるけれど、やはり曲がいいから拒めない。ウナ・セラ・ディ東京の、4.5拍目にコンガを撫でる音を挿入するアレンジが不思議な味。

時に強烈なエコーを伴いながら、メロディーのツボを崩さず、丁寧に音を積み上げるバッキーの真髄。馴染みの楽曲だからこそ、入っていきやすい。自分が市民プールの運営を任されたなら、このアルバムやらオッパチさんの「ハワイアン歌謡アルバム」を流しまくりますね。ある種のお客さん以外を確実に遠ざけそう…なんて言っちゃいけませんよね。もっと親しみましょうよ歌謡曲に!