黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

ベースの日…に敢えて歌謡マエストロを讃える

東芝 TP-7322

ヒット・ピアノ・タッチ

発売: 1969年7月

ジャケット

A1 夜明けのスキャット (由紀さおり) 🆀

A2 涙の中を歩いてる (いしだあゆみ)☆ 🅻

A3 白いブランコ (ビリー・バンバン) 🆁

A4 粋なうわさ (ヒデとロザンナ)☆ 🅶→22/4/5

A5 くれないホテル (西田佐知子)☆ 🅳

A6 風 (はしだのりひことシューベルツ) 🆃

B1 七色のしあわせ (ピンキーとキラーズ) 🅻

B2 みんな夢の中 (高田恭子) 🅺

B3 ギターのような女の子 (佐良直美)☆ 🅱

B4 涙の糸 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ)☆ 🅳

B5 家に帰ろう (ザ・キング・トーンズ) 🅲

B6 恋の奴隷 (奥村チヨ) 🅸

 

演奏: 筒美京平とクール・サウンズ

☆作曲/編曲: 筒美京平

定価: 1,500円

 

遂に真打ち登場です。筒美京平

思えば、昨年11月11日にどうしてもベースのレコードを取り上げたくて、8月11日までに何とか手に入れねばとツイートまでしていたのに叶わず。無事、寺川氏のレコードが手に入って今年こそ、と思った矢先、仲本工事さんの訃報で前倒しになってしまいました。その穴を埋めるのにこの名盤を使ってしまうのも勿体無いのですが、収録曲に絡んだアーティストの誕生日をほぼ祝い尽くしたし、あとはピンキラかキングトーンズのメンバーを引き合いに出すしか選択肢がなかったわけですが…

それにしても、まさかこの現物が我が手元に来るとは。最早5桁は覚悟しなきゃいけない1枚だし(これは筒美氏絡みのインスト盤全てに適用されるセオリーである。時折ひどいコンディションの盤が、買いやすい値段で出てくることもあるけれど、絶対ジャンクにはなり得ない)、それでも手に入ったのは「いるべき時にいるべき場所にいたから」という理由しかありません。過去最高額を投じた『クレイジー・パーカッション』を多少上回る程度の価格で、帯付き赤盤美品が手に入りました。Dさん、色々とありがとうございます。そのため(いや、自らの生活のため…汗)に自分が犠牲にした盤も、誰かに買ってもらえたことが判明して嬉しい。

このアルバムは、2006年CDリリースされた『筒美京平ソロ・ワークス・コレクション~東芝EMI編』に丸ごと収録されているので、音源的には激レアとは言えないけれど、他の歌無歌謡のレコードに挟んでみれば、その孤高の存在感が際立ちまくる。自らの手による名曲のみならず、69年を飾るヒット曲に独自の解釈を加えて芸術的に昇華。下世話な場末音楽の域を軽々と越え、立派な観賞用音楽を完成させているのだ。どの曲がどう凄いか語るのは野暮ったいので、とにかくこの音を浴びてくれ、としか言えない(フフフ、実は各種サブスクにも入っているのだ…しかし、「ひとりの悲しみ」まで演っているコロムビア編が今のところないのが惜しい)。アレンジャーによってはこの解釈おかしいんでないかと罵声の対象になりがちな「夜明けのスキャットも、ご覧の通り。幻惑的に変貌した「白いブランコ」も、そこまで軽くしちゃって、むしろ痛快な「風」も。勿論、まさかの「さらばシベリア鉄道」に12年早く転じてしまった「恋の奴隷」も。当然、自身の曲は正しい解釈でしかない。ここに収められた「粋なうわさ」のヴァージョンが、無意識に別のコンピに混ぜられたのを聴くと、その孤高さがより体感できる(今年4月5日取り上げた『雲にのりたい/恋のなごり』参照)。

レコード作りの芸術性に目覚めた当時の東芝が力を注いだ「SX-68 チャンネル20サウンド」の解説が読めるところは、レコードならではの利点。余裕綽綽がルールの歌無歌謡に、爽快なテンションを持ち込んだ名盤の極みだ。ところでこの盤のベースは寺川氏なのだろうか…それっぽさはあるけれど。