黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

紅白歌無ベスト10・第1位

最初の1年ノンストップ更新をキメた後も、427日に延長したり11月に突如復活したり、律儀にやってきた黄昏みゅうぢっくの令和4年も無事今日お開き。最後くらいはということで、実にお正月以来となる「書いたらすぐアップ」モードでお送りします。

 

458枚全てから算出したカウントダウンも、今日でお開き。中間発表では「風」の独走状態だった1位の座ですが、一瞬「瀬戸の花嫁」が追い抜いた時期を経て、昨年暮れの段階では20位だったこの曲が猛烈に追い上げ!作詞・作曲・歌唱者全てご存命(小谷さんは90年お亡くなりに)という、最早奇跡な曲に花を添えました。しかも山上氏はワンツーフィニッシュ!歌詞の聞こえない場所でも強さを発揮する結果に。が皮肉にも、オリジナル・ヴァージョンがサブスク配信されていません…参考音源として、作曲者自身の演出・共同歌唱によるリメイクが残されているので、まずはそれをお聴きください。

 

1位

或る日突然

歌: トワ・エ・モワ (山室英美子&芥川澄夫)

作曲: 村井邦彦

作詞: 山上路夫

編曲: 小谷充

69年5月14日発売/オリコン最高位4位

 

🅰山下三夫/阿部源三郎 (ギター)、テイチク・ニューサウンズ・オーケストラ (編曲: 山倉たかし) 21/4/2

構造はそのままに、さりげなく魔法を加えて一味違うイントロにしている山倉マジック。この曲の肝はイントロにあるので、重点的に耳が行きそう。涼川サウンドの極致的要素を所々に加え、聴きごたえ充分の出来。そんな中、力を抜き気味のリズムギターが意外に目立っている。

『魅惑のギター二重奏 雲にのりたい』

🅱ロス・ガートス (編曲: 甲斐靖文) 21/4/24

イントロを簡素化している割にせこく感じないのは、『ギターの秘密』を彩るオーラ故。「アンド・アイ・ラヴ・ハー」的タッチでまとめたシンプルなアレンジ。

🅲ゴールデン・ポップス・オーケストラ (編曲: 森岡賢一郎) 21/7/9

超ライバルのアレンジに一瞬刃向いたと思わせて、さりげないリスペクトも取り入れてのイントロ。ジェントルな音色使いで、決してチープなインストにしていない職人仕事。ここまで料理できてこそアレンジャーと呼びたい。

🅳いとう敏郎と’68オールスターズ (編曲: 福山峯夫) 21/8/2

雰囲気はそのまま一気に場末化。このギターの音色があると気分的に落ち着く。プロポーズの邪魔をしないサウンド

🅴木村好夫 (ギター)、宮沢昭 (フルート)/レインボー・オーケストラ (編曲: 大柿隆) 21/9/25

イントロを鉄琴でやっているので🅳の続きっぽいイメージ。なんかベースが気合入ってないという印象を、瑞々しいフルートが一蹴する。奏者の顔が見えているのに、めちゃ乙女像が浮かぶ…

🅵バロック・メイツ+スィンガーズ・スリー (編曲: 小川寛興) 21/10/3

最高傑作。イントロのコードが一部簡素化されているのも逆効果ではなく、エレガントなサウンドの魔法の犠牲になる。シンガーズ・スリーの歌声が入ってくると、空気は直ちに花園へ。2コーラスに入る寸前から伊集さんが舞い始め圧巻!さりげなく支えるフルートの響きと一体化。素晴らしすぎて、安いコーヒーじゃ不釣り合い。

『フォークの世界』

🅶ニュー・ポップス・オーケストラ (編曲: 無記名) 21/10/24

エレガントな響きを生かしつつ、イントロの仕上がりは多少せこい。ギターのチューニングもちょいずれてるけど、🅰にさえ多少感じたのだから甘く見よう。所々オカリナを入れたり、バスドラの響きがシャープだったりというのが75年録音らしい。

🅷コロムビア・オーケストラ (編曲: 河村利夫 or 山路進一) 21/11/7

何事か、「愛のさざなみ」が始まりそうなイントロが、山田書院らしい配慮の結果。多少せこいながらもエレガントさは生きている。恐らくサックスも河村氏の演奏で、山路アレンジという線はなさそう。2コーラスでは居心地の悪そうなピアノが目立つ。

🅸クイーン・ノート (編曲: ミッチー・シモン) 21/11/13、22/4/5

オルガン中心のサウンドで麗しさを軽減している上、テンポアップしていて、アルバムタイトルにするほどの力加減は感じられない。さりげない渦巻き音とエコーの使い方が、この曲のときめき感に色を添えている。

🅹クラウン・オーケストラ (編曲: 福山峯夫) 21/12/22

77年のフォークアンソロジー盤では顔を取り去られたクレジットになっているが、クラウン名物ながら単独盤は意外とレア化している飯吉馨のチェンバロ演奏盤よりの抜粋。クラウンらしい場末感充分のサウンドに、シャープなステレオ録音でチェンバロがトッピング。77年のマスタリングで余計目立つその響きだが、当時のプレス(しかも劣化した状態では余計)では果たして味わえたのだろうか…

🅺藤田都志 (第一琴)/久保茂、上参郷輝美枝 (第二琴)/山内喜美子 (京琴)/杵屋定之丞、杵屋定二 (三味線)/テイチク・レコーディング・オーケストラ (編曲: 山田栄一) 22/1/18

美麗なヴァージョンを聴いた後だと余計異様に聴こえる純和風サウンド。イントロ各小節の1拍目の音を抜いているのもユニークだし、9小節目のコードを変えて一瞬「悲しくてやりきれない」に変わるのかと錯覚させたり、せこいアレンジがむしろ美麗化に転換している。京琴の乙女的響きを地味にサポートする三味線を憎むことができるか!これもまた曲本体の魔術。この響きで「Pretender」あたりを聴きたくなる…

🅻木村好夫とザ・ビィアーズ、堀口博雄 (ヴァイオリン)/トミー・モート・ストリングス・オーケストラ (編曲: 小谷充) 22/2/18

自ら考案したイントロを大胆に解体して再構築する小谷充美学。まさかのオープニングも、曲に入ると手堅くまとめる展開に。さりげなくも好夫タッチが生きまくるギターに、ヴァイブが色っぽく寄り添う。

🅼Joseph Meyer & Midnight Sun Pops (編曲: Y. Maki) 22/3/16

恒例の69年フォークトライアングル(🅽🆀含めて)はこの曲でも揃い踏み。第1回国文社らしいせこさもこの曲を殺していないし、フルートの色彩感で余計心を踊らせる仕上がりに。2番の後半で転調するあたりにマジックが効いている。

🅽広瀬三喜男/(オーケストラ名記載無し) (編曲: 利根常昭) 22/3/21

カレッジフォーク色濃厚なアルバムの中ではちょっと異色、フルートアンサンブルや低音のクラリネットを加えて、文系女子学生の団欒的仕上がり。ちょっとだけジャズ的感触があるのはドラムのせいか。エンディングに工夫が伺える。

🅾有馬徹とノーチェ・クバーナ (編曲: 今泉俊昭) 22/3/26、22/11/27

攻めに攻めたアルバム『恋の奴隷』の中では比較的ポップ色が濃いアレンジ。ストリングスを加えて明朗さが際立つ。演奏の名人芸は聴いてて安心できる。音数が多い箇所ではドラムが居心地悪そうだが…

🅿︎吉岡錦正、吉岡錦英 (大正琴)/テイチク・レコーディング・オーケストラ (編曲: 福島正二) 22/3/28

ギターコード一発から間髪入れずに大正琴が炸裂。押し込みまくりのテイチクサウンドの中を、我が道行かんと駆け抜けるその響きは、曲のイメージもお構いなし。所々炸裂するタムのフィルも、テイチクカラーをさらに助長する。

🆀ザ・フォークセレナーダス・プラス・ストリングス (編曲: 近藤進) 22/3/30

ほぼ完全にギターだけで演りきったイントロ(5小節目からフルートが入る)がむしろ新鮮。同好会的ムードが充満しそうでしないのも、曲の魔法故。ウッドベースの響きがむしろ目立つ。

🆁ゴールデン・サウンズ (編曲: 荒木圭男) 22/4/17

このベスト10を通じて「普通」の代名詞となった感がある(!)ゴールデン・サウンズだが、むしろこのヴァージョンは普通っぽさが希薄。テンポを上げて簡素化を強めているのは🅸同様、自社の仕打ちっぽくないな。ギターの自己主張ぶりがカラーを決定づけている。好夫っぽいが多分違うだろう。

🆂ユニオン・ニュー・ポップス・オーケストラ (編曲: 池田孝) 22/11/4

イントロが何故か「ブルー・ライト・ヨコハマ」っぽい。クラリネットの響きに萌えていると、賑やかなブラスが入ってきて一気にゴージャスに。ヴォーン的和声使いが純愛的要素よりさらに奥に踏み込む印象を与えている。

🆃グリニッチ・ストリングス (編曲: 石川皓也) 22/11/8

多少せこさはあるが、ストリングスの美麗な響きが最大限に生きたアレンジ。その上でドラムも目立たせているのが、この名義ならではのモダン感の産物。シンプルな演奏なのに存在感充分だ。

🆄テディ池谷クインテット (編曲: テディ池谷) 22/11/26

年の瀬にふさわしいゴージャスな演奏。高級レストランの閉店10分前というイメージが横切る。こんなサウンドにもちゃんと鉄琴が入っていて憎めない。

 

以上、21ヴァージョン (23枚収録)。それでは、多幸な2023年を祈りつつ、次なる復活の日まで…既に数枚ヤバい盤が列に加わっており、復活の日は必ず来ます。

貼るのは例によって、この曲ですが…あれっ?「ひとりの悲しみ」もあるよ!