黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

復活月間’23!毎日がノンセクション

ミノルフォン  KC-12

哀愁のテナーサックス・ムード 青い月の恋

発売: 1968年

ジャケット

A1 青い月の恋 (千昌夫) 🅱

A2 霧にむせぶ夜 (黒木憲) 🅵

A3 花と蝶 (森進一) 🅹

A4 恋の季節 (ピンキーとキラーズ) 🅵

A5 釧路の夜 (美川憲一) 🅴

A6 思案橋ブルース (中井昭・コロラティーノ) 🅵

A7 あなたのブルース (矢吹健) 🅴

B1 新宿そだち (大木英夫・津山洋子) 🅳

B2 知りすぎたのね (ロス・インディオス) 🅷

B3 星影のワルツ (千昌夫) 🅵

B4 小樽のひとよ (鶴岡雅義と東京ロマンチカ) 🅴

B5 星を見ないで (伊東ゆかり) 🅸

B6 渋谷ブルース (バーブ佐竹) 🅲

B7 たそがれの銀座 (黒沢明ロス・プリモス) 🅲

 

演奏: 山本こうぞうセプテット

編曲: 遠藤実

定価: 1,500円

 

お待たせしました、1ヶ月限定ではありますが、黄昏みゅうぢっくが復活します

このところ、宗内の母体が突如創作意欲に再覚醒してしまい、特に3月以降は新ネタ探しもそっちのけで集中し続けていたのですが、ちょうどいい段階まで来たところで再び歌無歌謡モードを取り戻すことにしました。具体的には、1978年を舞台とする妄想物語をいよいよ表現段階に持っていくため、その中の音楽的要素を形のあるものにするのに集中していたのですが、そこに至るまでに500枚近く歌無歌謡のレコードを聴き続けたのも大いに役立ったわけで。歌謡曲を再発見して陥ったライターズブロックから、歌謡曲が救ってくれるのに30年かかりました。おっと、その話はおいといて…皮肉にも、今月語る盤の中に1978年の作品がないのが惜しいのですが(実は昨年更新分の見落としが1枚あるのですが…またの機会にとっておくことにします)。

 

で、誕生日ネタもほぼ尽きたことだし、日毎にどのようなテーマを設定するか迷ったのですが、いっそ迷いを振り払って、毎日がノンセクションでいいかなと思います。その日その日で適当にテーマを決めるという形で。そして、語る順番は単純に、レコード番号が若い順にしました。これをすると、同じレコード会社の盤が集中する危険性もありますが、完全ランダムにするよりはいいだろうというわけで。唯一ビクター系とキングの盤がないのが惜しいのですが(キングは昨年11月の復活時にかなり増えましたが、ビクターは丸1年遠ざかってる…)、各社ネタをバランスよく取り揃え、なおも初登場の重要曲が何曲か出てきたし、レア盤と思われるものもいくつか用意しました。そして今度こそ、1年半ぶりに「歌謡フリー火曜日」が復活します。たった4枚ではありますが、カラフルな盤を揃えたので、どうかお楽しみに。初めて来られた方は、念のためですが一昨年のスタート時にしたためた「前書き」をご覧ください。

 

さて再開一発目からこのエロジャケはどうよ、という感もありますが(辛うじて適切な位置に帯があってよかった)、68年の場末感を部屋中に充満させる初期ミノルフォンの1枚。皮肉にも、一昨年も昨年も6月2日に、初期ミノルフォンの盤を語っていますが、この時期にお似合いなんでしょうかね。

演奏メンバーが7人いるとは信じがたいこじんまりしたサウンドの中を、濃厚に漂う昭和43年の色。遠藤先生自身がサウンドパレットの中心を担っているのは貴重で、この頃になるとミノルフォンの専属アレンジャーに編曲を任せることも通常の歌謡レコードでは増えてきていますが、御大が68年の流行歌界をこんな風に見つめていたのかが伝わってきます。4曲ある自社ネタも慎重に扱うというより、全体のカラーに溶け込むよう簡素化がなされているし、この侘しいオルガンの音だけで途轍もない鄙び感が。寂れた温泉街に連れて行ってくれますよ。

アダルト・コンテンポラリーな曲が中心となる中、異色に思える恋の季節ですが、これが意外によい。旅館の広間で普通の電灯の下繰り広げられる浴衣ゴーゴー。そんなオープニングに導かれて、乗らねぇって感じでサックスが始まるものの、5小節目でオクターブが上がり、ノリノリになる。Bメロではコードの構造を変えていて、これがなかなかの効果。いずみたくが思い描いた世界を見事に場末色濃く再構築している。間奏でメロディが崩れているのがちょっと残念ではあるけれど。かと思えば、「あなたのブルース」では濃厚な藤本ワールドを適切に軽量化。ミノルフォンなりに余計異常な世界にしているのかと思いきやそうでもなく、遠藤先生の優しさを思い知れる(?)。ほんと、通常のミノルフォンの歌謡シングルには、こんなもんじゃすまない曲が沢山ありましたから。 

曲によって奔放さをコントロールしているサックス以外にも、好夫モードが時折覗くギターや、「たそがれの銀座」で一瞬原田寛治かと思わせるブレイクを入れるドラムなど、それぞれの音が軽く自己主張している、歌無歌謡の王道をいく1枚。ジャケのポートレイトを白黒化し、それを覆うように薄紙に簡単な解説を印刷してくっつけた見開きのデザインが、なかなか斬新である。