黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

紫の雨が降り頻る前夜に響くエレクトーン

キャニオン C22R-0108

ORANGE COLLECTION ~歌謡曲

発売: 1983年6月

ジャケット

A1 セカンド・ラブ (中森明菜)Ⓐ 🅲

A2 ミッドナイト・ステーション (近藤真彦)Ⓐ 🅲

A3 秘密の花園 (松田聖子)Ⓔ 🅳

A4 哀しみの黒い瞳 (郷ひろみ)Ⓔ

A5 Invitation (河合奈保子)Ⓔ 🅱

A6 約束 (渡辺徹)Ⓔ 🅱

A7 さよならの物語 (堀ちえみ)Ⓓ

B1 ピエロ (田原俊彦)Ⓑ 🅲

B2 春なのに (柏原芳恵)Ⓔ 🅲

B3 19:00の街 (野口五郎)Ⓓ 🅲

B4 夏をあきらめて (研ナオコ)Ⓐ 🅲

B5 恋人も濡れる街角 (中村雅俊)Ⓑ 🅲

B6 ギャランドゥ (西城秀樹)Ⓒ

B7 聖母たちのララバイ (岩崎宏美)Ⓒ 🅱

 

演奏: 松田昌ⒶⒷⒸ/柏木玲子Ⓓ/平部やよいⒺ

編曲: 飛田君夫Ⓐ/三羽哲郎Ⓑ/三原義隆Ⓒ/井上晴夫Ⓓ/豊島良行Ⓔ

定価: 2,200円

 

レコード番号の若い順に語るという苦し紛れの策を採りつつ、「歌謡フリー火曜日」を挟むことでバリエーションを持たせている復活月間ですが、まさか2日連続で80年代のエレクトーンアルバムを語ることになるとは思いませんでした。確かに、よく行く地域に世界一エレクトーンのレコードが充実している中古盤屋さんがあるし(爆)、まぁそれはあまり関係ないですけどね、歌のない歌謡曲というスコープがありますから。

昨日紹介した84年のヒット洋楽にアプローチしたアルバムの前の年に発売されたのがこのアルバムで、姉妹編「ニューミュージック編」と同時に発売された歌謡ヒット集。と言えども、最早内容的には殆どニューミュージックじゃないですかこちらも。本質的な違いは、芸能界のシステムの中にしかなくなっていたのですよ、この頃には。もうちょっと待てば「探偵物語」も入ってたに違いないし。しかし、音の傾向として、昨日のアルバムのわずか1年前とは信じられません。こちらには、まだいいとこのお嬢さんのおうちにあった楽器のイメージが大いに残っています。演奏者もエレクトーン界ではビッグネームのお方を揃えているし、打ち込みによるリズムは使わず、生のドラマーを迎えて律儀に、ドラムマシーン的パターンを叩かせています。音の選択もそこまでモダンな部分を感じさせないし、故にカフェバーミュージック的な響きは微塵もない。トシちゃんやマッチのファンに、アドバイスを守って頑張って弾いてみなさいと優しく語りかける、そんなアルバム。譜面もちゃんと別売で用意しているし。最低限の譜面をレコードに付けるなんてせこい真似はしていません。やはり、80年代なんだな。

曲そのものよりも、各演奏者によるワンポイントアドバイスが抜群に面白い。昨日取り上げた盤は、各オリジナルアーティストに対する的確な説明も添えられ、いかにも「ミスDJ」的タッチだったのだけど、これの場合は各曲の抽象的なイメージを基調に、具体的にどこをどう弾くか注意しましょうみたいな部分に重点を置き、曲を作る側としては「あ、そうなのか」と納得する部分も(汗)。やはり、アカデミックな部分が強い人が言うことは違うなと。それを踏まえて聴くととても役に立つ1枚だ。あの時代はあんな風に素敵だったなとか、回想する余地も与えない。今はYouTubeにこんなコンテンツが溢れているけど、それがレコードに刻まれたいい時代もあった。

ちなみにこの種のエレクトーンレコードの中で最も重宝しているのは、関西ローカル長寿番組「おはよう朝日です」の看板娘として人気を得た伊地知温子お姉さんがリリースしたもので、まずエレクトーン教則用として12インチ盤が作られ、後に音楽的要素を抜き出した10インチ盤がヤマハ店頭のみで売られた。12インチ盤のみで聴ける辿々しいおしゃべり、そして自作ヴォーカル曲「片想い」の滑稽さ!よく聴くとガチ演奏家(作曲家ではなく)じゃなきゃ思いつかないような譜割になっているし、これはやばいですよ。しかもドラムを叩いているのはかの「手数王」だし。当時26歳、温子お姉さん恐るべし。アルバムの性格上、今回は取り上げないのですが。