黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

マイナーレーベルの鮮やかな印象操作術

LIBERAL LGC-624 (カセット)

ヒット歌謡スポット

発売: 1976年

ジャケット(表+裏)

A1 オー・マリヤーナ (田中星児) 🅳

A2 北の宿から (都はるみ) 🅻

A3 陽ざしの中で (布施明) 🅳

A4 ビューティフル・サンデー (ダニエル・ブーン) 🅵

A5 未来 (岩崎宏美) 🅵

A6 北酒場 (五木ひろし) 🅷

A7 木綿のハンカチーフ (太田裕美) 🅶

A8 オレンジ村から春へ (りりィ)

B1 夏が来た! (キャンディーズ) 🅲

B2 恋岬 (小柳ルミ子) 🅳

B3 きらめき (野口五郎) 🅵

B4 水仙 (八代亜紀) 🅷

B5 つくり花 (森進一) 🅵

B6 ウインクでさよなら (沢田研二) 🅴

B7 おまえさん (木の実ナナ) 🅲

B8 恋化粧 (?)

 

演奏: ホメロス・レコーディング・オーケストラ

編曲: 無記名

定価: 1,500円

 

Z級レーベルの誘惑には相変わらず逆らえません。SNSでも密かにパチ歌謡熱が盛り上がる中、行き先を失ったジャンクテープもここぞとばかりネット市場に浮上を始め…まぁ、「昭和レトロ」などと安直に打ち出すのも考えものではありますが(演歌のカラオケ系なんて実質的に、95%が「平成」ですから)、目の肥えた者は目ざとく美味しそうなものを見つけ出し、救済せずにいられなくなります。何せ、送料込みの値段を考えると、レコードに比べて遥かに手を出しやすいし(汗)。次の復活時は、さらにカセット登場率が伸びそうです。その時まで、なんとか再生環境を良くしておきたいものです…。

それにしても、今回登場するアイテム、なんちゅうレーベル名なのだ…それだけでも引いてしまいそうですが、実質的にはマイナーレーベル大好き者の間ではめちゃ名の知れたホメロス・レーベルが送り出したプロダクト。所謂パチ歌謡のみならず、通常の歌謡レコードにしか見えないシングルもかなりの数リリースしており、現在まで細々と続く裏歌謡街道を早々と体現したレコード会社。歌無歌謡に於いても、木村好夫氏や山内喜美子氏を正式に起用した音源があったりして、行動力はメジャー並に持っていたと思われます。どの辺りでそのプロダクトが売られたかを探る余地は、もう失われてしまったと思われますが…テープに関しては、高速道路のサービスエリアとか、デパートの催し物会場とか、旅館の売店とかで活発に売られたのでしょう。驚異的な営業スキルを求められたのでしょうか…というか、押しの強さは絶対一部メジャーを上回っていたのでは(?)。さすが、銀座の一等地に本拠を構えていただけあります。

通常の歌謡レコードも出していただけあり、音作りもなかなか舐めてかかれないのがこのレーベルの見逃せないところ。76年前半の代表的ヒットを取り上げたこのテープですが、まず「どうせエルム系と同じヴァージョンだろうな」とたかをくくってプレイし始めた「北の宿から」ではっとなります。イントロ2小節目のコード変更が鮮やかに耳に入り、その後入るフルートによるオブリガートがありがちな演奏のヴァージョンと全然カラーが違う。普通演奏される3音の前に一種独特の装飾音が入るのがミソで、多少華やかな色をこの曲に与えているのです。これは「地味な違い」でしかないのだけど、考えようによっては一種の「主張」かも。そして「ビューティフル・サンデー」。思いっきりのいいイントロを加え、演奏もアタックが強くロック色が濃い。こういう曲で特徴が出てるのは見逃せません。随所に細かい工夫も凝らしていて、これはなかなかの名演。一部メジャーでさえダメダメな部分が露呈することもある「未来」もノリが良く、スムーズにこなしているし、「オレンジ村から春へ」の選曲も鋭い。これら2曲のコーラスに歌詞を歌う部分があるので、カラオケ前提というコンセプトも既にあったのかも。「つくり花」のイントロの美しい独唱とか、「ウインクでさよなら」でキュートに誘惑するフルートとか、気になる部分はまだまだあるけれど、最大の謎はラストに登場する「恋化粧」という曲。西川峰子「初めてのひと」のB面に同じタイトルの曲があるが、時期的にもアウトだし明らかに別の曲。それ以外の情報は、昭和に関する限り全く皆無。歌詞カードが添付されてなかったので、作者も不明だし、一体どうすればいいのだ…恐らく、推測でしかないのだけど、ホメロスがリリースした歌謡シングル曲のオケをそのまま使い、そこにサックスとギターを被せて歌無ヴァージョンに仕立て上げ、ちゃっかり入れてしまったのではないだろうか。バックコーラスの響きやバランスの大きさも、その辺の事情を露呈しているし。ただ、そのコーラスも「飲み屋のねーちゃんの合唱」的ニュアンスに包まれていて、メジャー曲では聴けない感触。この起用が、この曲を「ヒット」であると錯覚させ売り上げを助長したと思えるわけは絶対ないのだが…そんなわけで、ホメロスマニアの方、この曲の詳細情報をご存知でしたらご一報いただけると嬉しいです…