黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その51: ビートルズで踊る資格とは

東芝 TP-60227~8

今宵踊らん/ビートルズで踊ろう

発売: 1977年

ジャケット

A1 エスタデイⒶ 🅷

A2 涙の乗車券Ⓐ 🅳

A3 ガールⒷ 🅳

A4 プリーズ・プリーズ・ミーⒷ 🅱

A5 シー・ラヴズ・ユーⒷ 🅴

A6 オール・マイ・ラヴィングⒶ

A7 抱きしめたいⒷ 🅴

B1 アンド・アイ・ラヴ・ハーⒷ 🅵

B2 すてきなダンスⒷ

B3 アイ・ニード・ユーⒶ

B4 ペニー・レインⒶ 🅱

B5 フール・オン・ザ・ヒル 🅵

B6 キャント・バイ・ミー・ラヴⒶ

B7 オブラディ・オブラダⒷ 🅶

C1 ミッシェルⒸ 🅴

C2 ヘイ・ジュードⒸ 🅵

C3 ア・ハード・デイズ・ナイトⒸ 🅳

C4 ヘルプⒸ 🅲

C5 エリナー・リグビーⒸ 🅲

C6 ユア・マザー・シュッド・ノウⒸ

C7 デイ・トリッパー Ⓒ 🅴

D1 レット・イット・ビーⒶ 🅶

D2 オー・ダーリンⒶ

D3 ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロードⒸ

D4 サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド

D5 ヒア・カムズ・ザ・サン

D6 ア・デイ・イン・ザ・ライフⒷ

D7 サムシングⒸ 🅲

 

演奏: 奥田宗宏とブルースカイ・ダンス・オーケストラ

編曲: 山本有信Ⓐ/五十嵐謙二Ⓑ/高野志津男Ⓒ

定価: 4,000円

 

ビートルズで始まった今回の復活月間(+1)、計ったようにビートルズで幕を閉じることに。その間に取り上げたアルバムにも、ビートルズ関連の曲が多く登場していたし、なんか運命的な展開になりましたね。本来は別の「今宵踊らん」シリーズのアルバムを用意していたのですが、今年に入って間もなくこのアルバムを見つけ、3ヶ月ルールはクリアしてるわけだしと、こちらに差し替えることにしました。

 

主に稲垣次郎氏を偲ぶため、ビートルズ・カバー・アルバムを引っ張り出して、3月31日に更新できるよう準備を整えている間に、ネット上でビートルズ周辺が大騒ぎに。そりゃ、ある種の人々を挑発するような言葉が飛び出したら、その対象でなくとも感情が荒ぶりますわな。特に自分は、ビートルズ以外のとあるアーティストに関してその発言主から多大な啓蒙を得たと思っているので、余計複雑な気分になりましたよ。と思ってたら、今度はそのアーティストの日本に於ける権威の一人であろう方の訃報が伝わってきて、さらなる感情の揺さぶりに襲われましたよ。他にも、なんか音楽や芸術表現、ジャーナリズムを取り巻く荒れた雰囲気がネット上に充満した1ヶ月間でした。それも、政治とか世界情勢と全く関係がない部分で(あ、YOASOBIの例の件は別としてですが)。そんな中、よく細々と歌無歌謡のことを1ヶ月間語れたと思います。ニッチなジャンルだからこそ、その手の渦に溺れにくいのでしょうか。確かに、際どいジャケットの盤はたくさんあったけど。あれはあれ、昔のことだからと、今を生きる人は黙認してるのでしょうか。

こんなまったりしてるわけにいかない、他にやらなきゃいけないことがあるからと、気軽な気分でこの「今宵踊らん」を流し始めましたが、やはりこのシリーズ、じっくり考えを委ねることなんか許してくれません。1曲目が「イエスタデイ」なので、ここはまったりロマンチックにチークモードなんだろうなと想像していたら、鮮やかに裏切られました。このシリーズを10作以上聴いた人でないと、怒りに燃える可能性さえありますからね。どの曲も「今宵踊らん」の黄金律に乗じて、有意義なふれあいを演出することを優先したアレンジ。やはり、当時30代あたりに差し掛かった現役世代を、ピンポイントで狙ったのでしょうか。「Exotic Beatles」シリーズに収められていたフラメンコ・ヴァージョンを彷彿とさせる「オール・マイ・ラヴィング」とか、一瞬「時の流れに身をまかせ」が始まったのかと思わせる「ペニー・レイン」、意外にもサザエさんEDモードに走っている「フール・オン・ザ・ヒル」「サムシング」など、見事な変貌技の連続。「アンド・アイ・ラヴ・ハー」など、映画「AHDN」の関係曲はサントラ・ヴァージョンのアレンジに近くなっており、マニアックなくすぐりもあるけれど、その曲でのラブラブモード誘発はむしろここでは異色。「エリナー・リグビー」も9日取り上げた盤と好対照な、告別式で踊るような感じになっているし、その雰囲気そのままに「ユア・マザー・シュッド・ノウ」が始まるからびっくりだ。ここではみんな、胸に黒薔薇を挿しましょう(汗)。アゲアゲなタンゴアレンジの「レリビー」には悲愴感が全くないし、それ以上に「ロング・アンド・ワインディング・ロード」はにこやかな気分を誘発する。翌年の映画化を見越して選曲したのか、『サージェント』関係の2曲もごらんの通り。「久美子のコンサートへ」ほどの腰抜け状態には及ばないものの、この調子でアルバム全曲やってほしかったと切望させる。まったりしたムードの中にちゃんと緊張感も生かされている「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」で締めるわけにはいきませんでしたね、やっぱり。43秒間繋いだ両手を大空にモードで締めくくってほしかった(爆)。

この選曲で「赤盤」並みに演奏時間が短いのですから、まったりするどころじゃありません。こういう盤を語れてこそ、ビートルズを解っていてよかったと思うのですよ。当然、このシリーズの価値に導いてくれた「歌のない歌謡曲」のおかげと添えなきゃいけないのですけどね。

 

あっという間の復活月間でしたが、「黄昏みゅうぢっく」としてしばらく潜伏期間に入る一方で、宗内世津の母体・丸芽志悟として、明日から始まる1年間があらゆる意味で「岐路」となるのを契機に、新たなネットコンテンツを始めることにしました。その内容に関しては、まだ詳しくは言えないのですが、スタート開始を予定している5月20日あたりに、このエントリのコメント欄にリンクを投下する予定ですので、歌無歌謡ファンの皆様にもどうか、見守って下さることをお願いします。さて、その前に重要な仕事が控えている。これが上がる頃には終わってると思いますが。「とあるアーティスト」へのリスペクトモードに戻らなきゃ。いずれにせよ、ネットコンテンツは金のためにやってるわけじゃないですから、何やってもいいのですよ(瀧汗)。活字コンテンツは…そうじゃないとは言い切れません(涙)。

 

最後に…君が音楽から受け取る波長は、君が生み出すステップに等しい(そしてジミー竹内の激しいドラムフィルに続く)。また逢う日まで

真のクールネスはプログレと背中合わせ

コロムビア HS-10018-J

ニュー・ヒット14 クール・サウンズ

発売: 1970年8月

ジャケット(隠蔽済)

A1 夏よおまえは (ベッツイ&クリス) 🅵

A2 昨日のおんな (いしだあゆみ) 🅺

A3 雨にぬれても (B.J.トーマス) 🅶

A4 泣きながら恋をして (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅴

A5 空よ (トワ・エ・モワ) 🅴

A6 今日でお別れ (菅原洋一) 🅺

A7 ふたりの天使 (ダニエル・リカーリ) 🅱

B1 雨の訪問者 (フランシス・レイ) 🅲

B2 わたしだけのもの (伊東ゆかり) 🅸

B3 鳥になった少年 (田中のり子) 🅱

B4 コンドルは飛んで行く (サイモン&ガーファンクル) 🅴

B5 経験 (辺見マリ) 🅸

B6 夢の女 (井上博とシューベルツ)

B7 イージー・カム,イージー・ゴー (ボビー・シャーマン)

 

演奏: ダイアモンド・ポップス・オーケストラ

編曲: 服部克久

定価: 1,500円

 

長かった80年代、いや昭和50年代を抜け、戻って来ました歌無歌謡栄光期1970年に。そんな年の夏を狙って出されたこのアルバム、なんとアレンジャーに服部克久を起用という、これ以上に贅沢なものはないのではと思わせる作品だ。

それなのに、テーマは「クール・サウンド」。過去取り上げたアルバムでこれが冠されているものと言えば、バッキー白片は言うに及ばず、ユニオンのフルートをフィーチャーしたアルバム、筒美京平の「ヒット・ピアノ・タッチ」など。要するに、場末感をあまり感じさせることなく、爽やかな空気を振りまく音というイメージ。これも当然例外ではなく、海辺で戯れる乙女(と言えども、オープンすぎて今となってはかえって不道徳に見えるのが致命的…)の姿が、そのまま中の音へと導いてくれる。初っ端からそれを象徴するような波の音、オープニング曲としては地味と思えるが、主題としての役割を見事に果たしている「夏よおまえは」へと誘う。ここで聴かれる高貴なスキャットが、このアルバム全体を象徴する響きだ。ジャケットの乙女が大声を上げているというイメージはなく、サウンドの一部として定着するように、自分の意志をコントロールするような歌唱だ。個人的には、テイチク盤「長崎慕情」で聴けるようなしなやかな声の方が好みだし、あまり長く付き合わされるとかえって疲れる感があるが(クラウンの「もう一度」ほどではないにせよ)、これもまた音響的クールネスなのでしょう。「昨日のおんな」とか「わたしだけのもの」でそれをやられると、違和感しかないけど。高貴なオーケストレーションや音のあしらい方も、こういう世界もありだなと納得。歌無歌謡主流の真逆として、ちょうどいいではないか。他の曲もイントロに効果音が加えられたり、そのデリケートな響きが余計カラフルな印象を作り出している。「雨にぬれても」も、(悲しいけれど)山倉版など目じゃない完成度の高さだ。エンディングであの声が出しゃばり始めるのは余計なお世話だけど。「ふたりの天使」はこの歌唱の真髄を見せつける選曲だし、ここまで高貴な世界に転じた「経験」も新鮮な驚き。「鳥になった少年」は『ウマグマ』かと思わせる長閑な高原音の隙間から、ちょっとだけ鳥になったリコーダーが覗いている。声の方も歌メロの良さを引き立てていて、なかなかの名演。最後の曲はモンキーズ・ファンには嬉しい、フランキー・カテリーナ(!)のうきうきする名曲。メトロメディア・レーベルを持っていたコロムビアの「自社推し」だ。蛇足ですが、このレーベルから出たキャロリン・へスターのアルバムの中の1曲のイントロを、ちゃっかり片山三紀子「一月三日、八月五日」のイントロに応用してしまったのは、他でもないメロトロンズ小谷充氏でした。適当に洋楽部オフィスから拾って使っちゃったんでしょうかね。

さて、純粋な歌無歌謡アルバム(と言っても5曲は洋楽でしたが)を取り上げるのは、今回が最後。果たして次の復活はあるのでしょうか…今月に入って、相当やばい新規入手がいくつかあったので、なくはないとだけ約束しておきます。そして、今回の復活月間の最後には、またあのグループが登場いたします…

歌無アイドル黙示録前夜のときめく響き

コロムビア KZ-7143

ヤング・ヒット・ポップス WOMAN-Wの悲劇より-/飾りじゃないのよ涙は

発売: 1984年12月

ジャケット

A1 WOMAN -Wの悲劇より- (薬師丸ひろ子)Ⓐ

A2 飾りじゃないのよ涙は (中森明菜)Ⓐ

A3 北駅のソリチュード (河合奈保子)Ⓐ

A4 哀愁情句 (早見優)Ⓐ

A5 天国にいちばん近い島 (原田知世)Ⓐ

A6 十戒(1984) (中森明菜)Ⓑ 🅰→23/11/18

A7 DREAMING GIRL 恋はじめまして (岡田有希子)Ⓐ

A8 ヤマトナデシコ七変化 (小泉今日子)Ⓐ 🅰→23/11/18

B1 ハートのイヤリング (松田聖子)Ⓐ

B2 ラストシーンは腕の中で (田原俊彦)Ⓑ

B3 永遠に秘密さ (近藤真彦)Ⓑ

B4 雪にかいたLOVE LETTER (菊池桃子)Ⓐ

B5 最愛 (柏原芳恵)Ⓑ

B6 哀しみのスパイ (小林麻美)Ⓑ 🅰→23/11/18

B7 ニュアンスしましょ (香坂みゆき)Ⓑ 🅰→23/11/18

B8 べらんめえ伊達男 (シブがき隊)Ⓐ

 

演奏: コロムビア・ポップス・オーケストラ

編曲: 前田俊明Ⓐ、大川友章Ⓑ

定価: 2,000円

 

84年2作出された「ビート・ポップス」シリーズの2作目(昨年11月18日紹介)の翌月に早々と一挙5作リリースされた「NEW B.G.M. SPECIAL」の1枚。昨日述べた通り、サザン、谷村新司松田聖子の曲に的を絞った3枚と、大まかにニューミュージック編とアイドル編に分けられるヒット曲集2枚から成っていて、アーティスト編の3作は早々とCDがリリースされている。まだまだCDが普及したと言えない時期だっただけに、この試験的試みはどう受け取られたのだろうか気になる。当時のコロムビア河合奈保子のCDをロングボックスに入れて出したり、結構手探り状態で色々やってましたからね…

アイドル編と言えども、この頃になるとニューミュージックとほぼ平行線というか、もう1枚の方は冒頭からチェッカーズ、吉川晃司、SALLYの曲だし、こちらにはユーミン井上陽水高中正義竹内まりや佐野元春山下達郎中島みゆき玉置浩二epoの作品が収録されてますし…80年代前半デビューのアイドルの曲も、この頃になると大人っぽさを帯びてきたというか、歌無ヴァージョンで聴くと落ち着いた雰囲気しか伝わってこない。インスト・ヴァージョンだとどっちもどっちというか、でもさすがに「最新歌謡ヒット」というニュアンスじゃなくなってきてます。曲によっては初々しい演奏でアイドル的タッチも出ているし、やはり音大生バイトが相当数現場に流れ込んで来てるのでしょうか。B面冒頭の3曲など、ものの見事にポップスの主流という感じに昇華されているし、というかシティポップそのものでは(汗)。「ラストシーンは腕の中で」は洋楽のカバーだけど、調べてみたらスコット・ベーオが82年に出したアルバムに入ってるとか。一部好き者の間では、ジャケットが『スリラー』にほんのちょっと先駆けていたけどそっくりなアルバムとして有名(本人も「最大の違いは、僕のアルバムが全然売れなかったこと」とSNSでネタにしていた)。これと達郎作品「永遠に秘密さ」が続くのですから。トシちゃんとマッチの曲だなんて、全く認識できません。シティポップのより正流として再評価が高まる桃子の「雪に書いたLOVE LETTER」のフルートは純情な響きではあるけど、桃子にしては大人っぽすぎるかも。パンフルートが丁度良かったかも。全体的に大胆さを敢えて出さず、落ち着いた演奏で観光の邪魔もしません。

この調子でより落ち着いた路線に歌無歌謡も導かれるのかなという予感が貫いた(かもしれない)1985年を、突然のおニャン子台風が襲います。リアルタイムで自分がどう対処したかは、今更振り返りませんが(というかあの年は、スクリッティ・ポリッティやプリファブ・スプラウトを熱心に聴くので精一杯だった一方で、本田美奈子芳本美代子の登場に心躍っていたのだ…それ以上は言いません)、今振り返れば歌無歌謡制作陣が萎えるのもしょうがないのです。あの感覚を、歌詞と歌唱がない音楽表現で再現するのなんて不可能だし、それをやったとしても、ファンもアンチもついてこないのは目に見えてましたから。

今振り返れば、その後2年間、オリコンチャートの1位を週替わりの祭りに導いたおニャン子関係楽曲の音楽的なメリットに、別の面から光を当ててやるのも可能かなと思えるようになりました。それこそ旋律と演奏だけでも成り立つヴァージョンは、いくらでもできると思いますよ。近年のアイドル楽曲なんかに比べたら、なんて心ときめくのでしょう…リアルタイムヴァージョンに恵まれなかった哀しみを、なんとか解消してあげたい。

あらゆるイデオロギーを無意味にする歌無ポップスの坩堝

コロムビア KZ-7132

ビート・ポップス’84 時間の国のアリス哀しくてジェラシー

発売: 1984年7月

ジャケット

A1 時間の国のアリス (松田聖子)Ⓐ

A2 メイン・テーマ (薬師丸ひろ子)Ⓑ

A3 哀しくてジェラシー (チェッカーズ)Ⓒ

A4 涙のリクエスト (チェッカーズ)Ⓐ

A5 騎士道 (田原俊彦)Ⓐ

A6 君たちキウイ・パパイヤ・マンゴーだね。 (中原めいこ)Ⓐ

A7 ケジメなさい (近藤真彦)Ⓑ

A8 上海エトランゼ (高見知佳)Ⓐ

A9 ワインレッドの心 (安全地帯)Ⓒ

A10 星空のディスタンス (THE ALFEE)Ⓒ

B1 サザン・ウインド (中森明菜)Ⓒ

B2 気ままにReflection (杏里)Ⓐ

B3 Rock’n Rouge (松田聖子)Ⓑ

B4 晴れ、ときどき殺人 (渡辺典子)Ⓒ

B5 コントロール (河合奈保子)Ⓐ

B6 君が、嘘を、ついた (オフコース)Ⓐ

B7 モニカ (吉川晃司)Ⓐ

B8 忘れていいの (谷村新司小川知子)Ⓐ

B9 真夜中すぎの恋 (安全地帯)Ⓒ

B10 もしも明日が (わらべ)Ⓒ

 

演奏: コロムビア・ポップス・オーケストラ

編曲: 前田俊明Ⓐ、坂下滉Ⓑ、大川友章Ⓒ

定価: 2,000円

 

さすがのコロムビアも、83年はアイドル攻撃のシビアさに圧倒されたのか、歌無ポップス路線を停止。東芝の2枚組2セットがその穴を埋めたようなものだけど、コロムビア版「君に、胸キュン」や「高気圧ガール」も聴いてみたかったもの。さすがに萌え萌えサウンドまでは期待しませんが…

84年に入ると、ヤングポップス路線が復活、全部で4枚アルバムが出た他、サザン、谷村新司松田聖子に的を絞った作品集も出ている(この3作に関してはCDも出された)。これらの中では、「リバーサイドホテル」が切実に聴きたい…そんなわけで、84年夏に出されたこの盤ですが、さすがに当時のことを振り返るのは辛い。もちろん、人として多感な時期ではあったのだけど、精神的成長を押し潰すような要素も多々あり過ぎて、特に遠方にいた好きな人との絆が絶たれたことは、今に至るまで尾を引いている。逆に、そのことがきっかけでアイドル芸能に覚醒して、複数の「推し」と呼べる存在を得たのも事実であるが。そんなセンチメンタルな夏の日の思い出を、ライトな感覚で1枚に凝縮したのがこの盤。いろいろな思惑があってか、「ラビー・エイズ・オーケストラ」名義は撤去されている。やはり80年代中期ですからね…それ以上は言えないけど…演奏時間も82年の作品集以上にコンパクトにまとまっている。

このレコードが出た4日後、プリンス『パープル・レイン』が日本で発売され、そのレコードを発売日にお茶の水にあった「ヴィクトリア・レコード・センター」で購入し聴き狂う傍らで、60年代のサイケに没入し、来る社会人時代に向けての意欲など全く捨てていた自分ではあるけれど、このアルバムの収録曲の多くにはリアルタイムで思い入れが伴います。やはりチェッカーズの勢いは全然無視できるものじゃなかったし、友達とジャムる機会があった時とか、自然に出てきてしまいますから。「ケジメなさい」「サザン・ウィンド」も、境界線なくいい曲だなと思うし(何かに似ていることを咎める立場じゃなくなった…汗)、「Rock’n Rouge」は翌年サンディ・ラムが広東語で歌ったヴァージョンを、91年に死ぬほど聴いてましたし。そのせいで、ここのメロディー違うじゃんと平然と言ったりするのです(広東語カバー曲は、アクセントの独自性が影響して、原曲のメロディーを大胆に改変するに至る例が多々ある)。個々のアレンジがどうのこうの言うより、そういった思い出の方がどうしても優先されるセレクション。最後まで真のときめきを待っても出てこなかったなんて、言うもんじゃないですね。まぁ多少期待はしてましたが、「待つわ」と「雨音はショパンの調べ」の前例がありますんで…「もしも明日が」とか、リコーダーが似合うっちゃ似合うけれどね…(汗

「モニカ」が2019年発売『歌謡ムード大作戦』の最後を飾る曲に選出された真意だけは、未だに理解できないのですけど。続編選曲のチャンス未だに待っております…

い・け・て・る歌無お色直しマジック

コロムビア KZ-7120

軽音楽 All Hit Pops 匂艶 The Night Club聖母たちのララバイ

発売: 1982年7月

ジャケット

A1 匂艶 The Night Club (サザンオールスターズ)Ⓐ 🅱

A2 聖母たちのララバイ (岩崎宏美)Ⓐ 🅲

A3 おまえにチェック・イン (沢田研二)Ⓐ

A4 気分は逆光線 (来生たかお)Ⓑ

A5 ふられてBANZAI (近藤真彦)Ⓐ

A6 心の色 (中村雅俊)Ⓒ 🅱

A7 赤道小町ドキッ (山下久美子)Ⓐ

A8 誘惑 (中島みゆき)Ⓒ

A9 南十字星 (西城秀樹)Ⓐ

A10 夜よ泣かないで (松山千春)Ⓑ

B1 シルエット・ロマンス (大橋純子)Ⓓ

B2 男であれ女であれ (郷ひろみ)Ⓐ

B3 君の国 (中村雅俊)Ⓐ

B4 どきどき旅行 (岩崎良美)Ⓐ

B5 原宿キッス (田原俊彦)Ⓔ

B6 YES MY LOVE (矢沢永吉)Ⓐ

B7 い・け・な・いルージュマジック (忌野清志郎&坂本龍一)Ⓐ 🅱

B8 渚のバルコニー (松田聖子)Ⓕ

B9 100%…SOかもね (シブがき隊)Ⓑ 🅱

B10 化石の荒野 (しばたはつみ)Ⓐ

 

演奏: ラビー・エイズ・オーケストラ

編曲: 前田俊明Ⓐ、山田良夫Ⓑ、坂下滉Ⓒ、鈴木成弘Ⓓ、久富ひろむⒺ、山田年秋Ⓕ

定価: 2,000円

 

過去、コロムビアから80年代に出た歌無アルバムを3枚紹介しましたが、それに等しい量の盤が一度に転がり込んできて、今日から3日間はそれらを紹介。さすがに80年代となると、内容そのものよりリアルタイムな感慨の方が優先されてしまいそうなので、それで容赦して。いいアレンジとか、その辺に熱を入れて語らせる要素が希薄になってくるのは避けられないのですよ。

82年12月に出た「オール・ヒット・ポップス」盤を2年前の5月31日に紹介しましたが、その前作として出されたもの。帯裏を見ると、前年に出たヒット曲集大成盤(21年11月4日紹介)を除く6枚、全て演歌系の歌無盤が紹介されており、アダルト・オリエンテッド面ではコロムビアが歌無市場独占状態だったことを物語っていますが、この辺でヤング方面にもアピールしておかなきゃ、と判断したのでしょうか。確かに、81年の盤はニューミュージック系に固まっているし、最もアイドル度が高い「まちぶせ」からして元は75年の曲、しかもユーミンの作品だし。「ハイスクールララバイ」の歌無盤とか聴きたかったなぁ。クリスタル・サウンズのレコード活動も、81年12月新譜を最後に停止しているし、その穴に食い込みたいという思惑は…多分なかったでしょう。

しかし、82年と言えば…芸能史屈指のアイドルルネッサンス年である。この年の前半デビューしたアイドルの顔ぶれの強力さといったら、今や伝説でしかない。それらのデビュー曲は、まだここに選ばれるには至っていない…けど、シブがき隊は入ってますね。やはり、事務所の強力な推しがあったのでしょうか。「スローモーション」や「私の16才」の純情あふれるインスト解釈、のちにそれぞれを単独で特集したインスト盤に収録されているけれど、こんな雑種な盤の一部として聴いてみたかったものです。そんなアイドル蜂起時代にもかかわらず、自分は当時、そんな動きに殆ど目を背けていました。

81年後半にデビューしたあるアイドルを、熱烈に応援していたのですが、ある日そのアイドルがあまりにも売れないことを揶揄され、自分史上最大レベルの大喧嘩に。めちゃ仲の良い友達故にそうなったのもしょうがないですが、その挙句、もうアイドルどころか邦楽全般を聴かないと強がり宣言をし、その友に誘われるように全米TOP40一辺倒の生活に突入するのです。未だに82年に6位から42位に転落した曲とか、6週連続21位を記録した曲のタイトルは、0.1秒以内に即答できますよ(瀧汗)。

それにも関わらず、ここに収められた曲の多くに、リアルタイムで親しみが持てたことは否定しません。普通に学生社会にいると、耳に飛び込んでしまうのがヒットソングだし、それに逆らうことでアウトサイダー気取りできるような環境にいませんでしたから。いたかったのはいたかったけど。逆に、そんな場に身を置いていたら、今自分は生きていたかどうか、確信が持てません。

そんな甘酸っぱい青春時代を蘇らせる20曲。いずれも簡潔にまとめられ、アルバム片面の演奏時間も30分以内に抑えられていますが、まだそんなことが許される時代だったのです。ジャケットが象徴する通り、70年代歌無歌謡特有の場末感は当然なくて、スムーズなサウンドの中に耳あたりの良い音色が響きます。聖母たちのララバイをはじめ、多くの曲で聴かれるフルートはガチな演奏というより、音大生バイトっぽい初々しさがあり、時々色気を出してくるところに若さが露呈したりしていますが、そんな演奏にお金を出したいのですよ自分としては。逆に、「気分は逆光線」などに登場するハーモニカはガチで、さすがにアカデミックな演奏というイメージは無し(汗)。その辺のバランスが、より親しみやすいイメージを強調しているアルバムです。そして、渚のバルコニーで聴けるパンフルート。84年盤の「雨音はショパンの調べ」ほど萌えないけれど(音色も若干硬めで、違う人のプレイかも)、この音はアイドルの純情を的確に表現してるなと思います。下世話な曲調には似合わないけれど、もっと吹く人が増えてほしいなと思わされる。

残る19曲と別の意味で注目すべき「い・け・な・いルージュマジック」は、一言だけ、歌いづらいキーだなと。キヨシローは原曲キー以外の解釈を認めたくないですね。「道端で泣いてる子供」のとこのメロディーもおかしなことになっているし。やはりこの時期は、教授、カート、ユッコ、プリンス、尾崎、hide、キヨシロー、テレサ・テンと、心に深く刻まれる訃報の思い出が相次ぎ辛くなります。

いくらわけあり娘だって二十歳まで盃を交わすのは自粛

コロムビア KW-7062

ギターとテナー・サックスによる有線ヒット歌謡 みれん心/ふたりの旅路

発売: 1975年10月

ジャケット

A1 みれん心 (細川たかし) 🅵

A2 北へ帰ろう (徳久広司) 🅷

A3 女の純情 (殿さまキングス) 🅲

A4 私でよければ (石川さゆり) 🅲

A5 新小岩から亀戸へ (潤まり)

A6 弟よ (内藤やす子) 🅶

B1 ふたりの旅路 (五木ひろし) 🅶

B2 気がかり (黒沢年男) 🅱

B3 深夜劇場 (中条きよし)

B4 中の島ブルース (内山田洋とクール・ファイブ) 🅶

B5 夜のカウンター (江利チエミ)

B6 さだめ川 (ちあきなおみ) 🅲

 

演奏: 木村好夫/ジェイク・コンセプション/コロムビア・オーケストラ

編曲: 佐伯亮、坂下晃司

定価: 1,500円

 

昨日の2枚組のB面の延長線上にある、飲み屋のねーちゃん誘惑シリーズの1枚。このジャケットはその道のプロの方でしょうか。新人歌手を使うケースも多々あったのですが、松原のぶえみたいな解りやすい顔の人ならまだしも、この顔の歌手は思い浮かびませんね…飲み屋にくすりを出されると困ってしまいますが(汗)。解りきってるからして、飲み屋モードで安心して聴ける。ユピテル盤「襟裳岬」の入魂のプレイが印象に残るジェイクのサックスも、夜の色に染まりまくり、ママさんの色気を助長するし、好夫ギターがより安定の境地に入っている。チージーなオルガンも、スナックの片隅にあるやつそのものの音を出しているし。やっぱ演歌は染みるねと安心して聴いていたら、A面5曲目に思わぬ罠が…当時現役ポルノ女優、潤ますみでもあった潤まりが、下町の夜の女の悲哀を歌い綴るわけあり歌謡新小岩から亀戸へ」だ。さすがに「幻の名盤解放歌集」で聴くまでその存在を知らなかった曲が歌無歌謡化されていたなんて思わなかった。藤本卓也作品や「かもねぎ音頭」ならまだ解るが…これもヒットしていたんだな、と意外な感慨が。歌詞に目を通すだけで、このアルバムの他の収録曲と桁違いのドラマに襲われる。この哀しい曲より「ひと夏の経験」の方が不純なんて、言いたい人は言えばよい(汗)。

この1曲の存在で他の曲が霞んでしまう1枚だけど、75年の夜に思いを馳せられるアルバム。さすがに10歳児じゃこの世界はね(瀧汗)。ただ、自社故に「弟よ」のイントロはリコーダーで奏でてほしかったな。「深夜劇場」を歌った人も、今では別の世界であんなことに。オマージュを捧げられた(作詞が吉田旺だし)と思しきちあきなおみと好対照だ。 

やめろと言われても特定の楽器を幻聴

コロムビア KW-7032~3

‘74ヒット曲要覧~後半編~

発売: 1974年11月

ジャケット(隠蔽済)

A1 追憶 (沢田研二)Ⓐ 🅸

A2 恋のアメリカン・フットボール (フィンガー5)Ⓐ 🅶

A3 激しい恋 (西城秀樹)Ⓐ 🅵

A4 君は特別 (郷ひろみ)Ⓐ 🅶

A5 ひと夏の経験 (山口百恵)Ⓐ 🅸

A6 傷だらけのローラ (西城秀樹)Ⓑ 🅶

B1 さらば友よ (森進一)Ⓒ 🅸

B2 うすなさけ (中条きよし)Ⓑ 🅹

B3 夫婦鏡 (殿さまキングス)Ⓒ 🅻

B4 北航路 (森進一)Ⓑ 🅸

B5 うそ (中条きよし)Ⓒ 🅺

B6 別れの鐘の音 (五木ひろし)Ⓒ 🅸

C1 ふれあい (中村雅俊)Ⓐ 🅻

C2 渚のささやき (チェリッシュ)Ⓐ 🅵

C3 ミドリ色の屋根 (ルネ)Ⓐ 🅵

C4 私は泣いています (りりィ)Ⓐ 🅹

C5 妹 (かぐや姫)Ⓑ 🅳

C6 闇夜の国から (井上陽水)Ⓐ 🅳

D1 ひとり囃子 (小柳ルミ子)Ⓑ 🅵

D2 美しい朝がきます (アグネス・チャン)Ⓑ 🅵

D3 夏の感情 (南沙織)Ⓐ 🅴

D4 ちっぽけな感傷 (山口百恵)Ⓑ 🅷

D5 ポケットいっぱいの秘密 (アグネス・チャン)Ⓑ 🅵

D6 恋の大予言 (フィンガー5)Ⓑ 🅱

 

演奏: 稲垣次郎松浦ヤスノブⒸ、木村好夫Ⓒ/ゴールデン・ポップス

編曲: 河村利夫Ⓐ、永作幸男Ⓑ、佐伯亮

定価: 3,000円

 

レコード番号順に語る計画を進めると、必然的にコロムビアが最後の方に集結してしまう…というわけで、最終日前までコロムビア祭りです。「ヒット曲要覧」シリーズ、72年のが名盤すぎたり、74年前半編でメロトロンまみれになったりで、決してなめられないのだけど、この74年後半編になるとどうしても保守的カラーが全面的に出てきて、例えば同時期のクリスタルやミラクル盤ほどのときめきがやってこないのだよね。「ゴールデン歌謡スキャット」で意表を突きすぎたのの反動なのか。A面にずらっと並ぶ躍動感の高い曲を聴いても、なんか違うというか、「追憶」だけでもなんか萎える…1番の2小節目と4小節目で、ハイハット以外の音が止まってしまうところとか、ドラマティック性を消し去ってる感がある。水谷公生&トライブ版なんかに比べると、曲のコンテンポラリー性に取り逃がされたというか、心躍らないんだよね。「君は特別」なんかも、次郎さんらしさが出ていてファンキーな演奏ではあるけど、荒川康男氏ならここをこうぶっ壊すだろうとか、やっぱり恋しくなってしまうんだよね、72年盤の感触が。それだけ、通常の歌謡界が急激に大胆さを増したということだろうか。「ひと夏の経験」はその分猥雑さがなくて、安心して聴けるが、間奏で興醒め。「傷だらけのローラ」のフルートはクレジットがないが、次郎さんではないだろう。B面で好夫ギターが安定の境地に誘ってくれても、結局は「前半編」の「くちなしの花」や「なみだの操」のメロトロンを恋しくなってしまうし。わずかに救いなのは、他社盤より多くリコーダーをフィーチャーしてくれている「美しい朝がきます」と、正統派デキシーランドな演奏に次郎サックスが冴える「ポケットいっぱいの秘密」くらい。両方アグネスの曲やんか…「恋の大予言」もちょっとだけアヴァンギャルドな感触が出ていていいのだけど。ともあれ、しばらくコロムビアで番号が進むわけですが、結構吃驚の方向に向かいますよ…