黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

大晦日!ベスト10追加曲検証の巻

というわけで、真の千秋楽がやってまいりました。予告した通り、昨年カウントダウンした上位10曲のラインナップに変動はありませんでしたが、7位以上がドラマティックに入れ替わっています。微々たる数のヴァージョン追加であろうがこの結果とは。というわけで今日は、6月と11月の一時的復活で追加されたヴァージョンを総まとめしてみます。

 

10位 (⇅10位)

旅の宿 [吉田拓郎] (72/#1) 18ヴァージョン/21枚

🆁石川鷹彦とそのグループ (編曲: 青木望) 23/6/16

ギターのストロークペースが通常の1/2になっている、まったりヴァージョン。小室等とのコラボアルバムが第二版を迎えた時に追加された曲の一つだが、彼の存在感はあまりなく、バックのスライドプレイも石川氏だろう。またしてもフルートがフィーチャーされており、気怠いプレイ。「フォークにっぽん」のクレジットは確認できていないが、木田高介氏の可能性も。ヴァイブは違う人だろう。ちなみにそのアルバムでは「からっぽの世界」も演っています…

 

8位 (タイ) (⇅8位)

襟裳岬 [森進一] (74/#6) 19ヴァージョン/22枚

🆂コロムビア・フォーク・アンサンブル (編曲: 小杉仁三) 23/11/25

一瞬ジブリの某曲かと思わせるイントロで始まる、清純フォークヴァージョン。さすがにフォークのアルバムで森進一のアレンジは使えないだろう(ビクター盤では使ったが)。ミスター昔の名前こと小杉さんのアレンジは手堅いが、やはり強烈にメロトロンを恋しくなる曲だ。

 

8位 (タイ) (⇅8位)

京のにわか雨 [小柳ルミ子] (72/#1) 19ヴァージョン/22枚

🆂松浦ヤスノブ/オーケストラ・プラッツ (編曲: 竹田喬) 23/11/15

竹田アレンジなので山内さん大活躍と期待したら、まさかの意表を突くオープニング。オリジナルとテイストの違うイントロも、バックの演奏も忠実にこなす職人ぶり(断定できないけどする!)。ハーモニカとか入って不思議なサウンド作りだが、所々コードが変わっているところに不安定感も。

 

7位 (↓4位)

時には母のない子のように [カルメン・マキ] (69/#2) 19ヴァージョン/23枚

ベスト10中、唯一新規ヴァージョンがなく、派手にダウンしました…せめて、ジャケットだけでも。(ヴァージョン🅰収録)

『時には母のない子のように 哀愁のギター・ムード』

6位 (⇅6位)

白いブランコ [ビリー・バンバン] (69/#15) 20ヴァージョン/20枚

🆃石川鷹彦/ニュー・ミュージック・オーケストラ (編曲: 大柿隆) 23/11/20

前年度19ヴァージョン中8つが非リアルタイムでしたが、これもそう。75年録音で清らかなオーケストラサウンド。石川氏のプレイも職人に徹している。ポール・モーリア以降ではないとできないアレンジだな。フルートは誰だろう(木田氏では絶対ない)。

 

5位 (↓3位)

風 [はしだのりひことシューベルツ] (69/#2) 21ヴァージョン/21枚

🆄石川鷹彦とそのグループ (編曲: 青木望) 23/6/16

71年の革新的アルバム収録ヴァージョンにしては、スタンダードなアレンジ。当然、原曲をやった人だものしょうがない。同好会の人もこんな風に、ストリングスを従えて演れたら…という憧れを感じさせるアレンジだ。但し、終盤でタンゴに行っていない。

 

4位 (↓2位)

瀬戸の花嫁 [小柳ルミ子] (72/#1) 21ヴァージョン/26枚

🆄ザ・ゴールデン・ブラス (編曲: 鈴木邦彦) 23/6/25

一瞬、黒い炎が上がりそうと思わせといて、メロウに進行するブラスサウンド。故郷に取り残された幼い弟のメランコリーが静かに炸裂していく…

 

3位 (↑5位)

港町ブルース [森進一] (69/#1) 22ヴァージョン/23枚

🆃カンノ・トオルとブルー・クインテット/テイチク・レコーディング・オーケストラ (編曲: 福島正二) 23/6/12

ここからが急上昇パート、69年のアルバムが大挙追加された効果が出ています。🅺の鶴岡雅義盤と同じようなアレンジながら、奏者の個性がくっきり判別。どっちも同じようなプレイ、と片付けちゃいけないのですよ。タッチに個性が出ているので。こっちの方が若干水商売色あるかな。「伊勢佐木町ブルース」と同じアルバムに入っているし。

🆄ヒット・キット・アイランダース (編曲: ?) 23/11/29

ハワイアン・サウンドで奏でられるとやはり異国の港という感じがするが、場末色は濃い。軽いメロディこなしだけど、中の人がオッパチさんという説にちょい疑問も。

🆅ホセ・ルイスとロス・ルンべロス (編曲: 無記名) 23/11/30

ミックが叫び出しそうなイントロから、意表を突くラテン・ビートへ。さわやかに冴えまくるフルートは、下世話なブルース色を一掃している。やはり沢村和子なのだろうか…

 

2位 (↑6位)

禁じられた恋 [森山良子] (69/#1) 23ヴァージョン/23枚

🆃木村好夫とフォーク・サンズ (編曲: 木村好夫) 23/6/18

上位2曲は奇しくも、同じラインナップの4ヴァージョンが追加。しかも、山上路夫ワンツーフィニッシュに変わりがありません。これは凄い。彼の生命力共々称えたいです。これはサブスクにもあるレインボー・オーケストラのヴァージョン🅵によく似ている(レーベルも同じ)が微妙に違い、好夫の12弦プレイを堪能できる。フルートも小気味よく絡み、全体的に軽めのサウンド。キハーダも使用。

🆄松浦ヤスノブ、テイチク・ニュー・サウンズ・オーケストラ (編曲: 山倉たかし) 23/11/13

ヘヴィな山倉サウンドが地獄へと誘う、と思いきやキハーダの代わりにハープが入り、ヘヴンリーなムードも。執拗なテナーの向こう側に清らかな涼川先生の歌声を夢想するのだ…テナーを引っ込めた2番もマジカルに誘惑する。この人にはほんと脱帽です。

🆅ヒット・キット・アイランダース (編曲: ?) 23/11/29

せこい楽園サウンドは執念のかけらも感じさせず、ありふれた風景へと連れ戻してくれる。キハーダの箇所に何も(ブレイクさえ)入れてないのは珍しいし、このプレイはオッパチさん色が濃厚。フルートはまさか沢村さんじゃないですよね…

🆆ホセ・ルイスとロス・ルンべロス (編曲: ?) 23/11/30

こちらはオリジナルのジャングル色をさりげなく強調。2小節毎に律儀にキハーダが入っているし(Bメロを除く)、フルートのメロも若干飾りあり。ベースまでジャングルビートに徹しているのも面白い。と思ったら、2コーラスで正統派ラテンサウンドへ。「ふっ!」とか言ってくれたら、ピーターパン特定しちゃうよ(汗)。でもほんと、この清らかなフルート、ラテン野郎というより沢村さん色を妄想できる(瀧汗)。

ちなみにこの曲は21年末の段階では7ヴァージョンしか集まっていなかったので、物凄い勢いで追い上げたことになります。あの時は「心もよう」が11位だった…(現54位)

 

そして、やはりこの曲が不動の1位です…しかもヴァージョン大幅追加で独走体制。未踏の🆉は目前に迫っている…

1位 (⇅1位)

或る日突然 [トワ・エ・モワ] (69/#4) 25ヴァージョン/27枚

🆅木村好夫とフォーク・サンズ (編曲: 木村好夫) 23/6/18

純粋なアコースティック・フォーク・ヴァージョン。ギターは3本入っているが、両サイドのプレイは好夫ではないだろう。他にさりげないベース、ちょっとしたシェイカー(卵形ではないだろう)のみ、ここまで潔いヴァージョンは珍しい。ドラムの不在に気付かない程。

🆆松浦ヤスノブ、テイチク・ニュー・サウンズ・オーケストラ (編曲: 山倉たかし) 23/11/13

ハープの一撃で一気にゴージャスな世界へ。ビートを効かせつつ山倉マジックを全開させ、『天使のスキャット』のジャケットのイメージそのもののサウンドを展開。涼川先生の曲だと「あなたのとりこ」に近いイメージだ。そこまで下世話ではないけれど。テナーもファンキーな響き。

🆇ヒット・キット・アイランダース (編曲: ?) 23/11/29

イントロもしっかり演っているけれど、どうしてもせこい楽園色が…なんか萎縮してるようなスチールのプレイが、うつむき気味な乙女の面影。これはオッパチさんだろう。頬を赤らめたようなフルートの音が優しく寄り添う。ほんとアンパンだと思う…

🆈ホセ・ルイスとロス・ルンべロス (編曲: ?) 23/11/30

軽めのイントロから、歌い出しの1音に1オクターブ下の音が見え隠れし、激萌え…これ、ガチフルートプレイヤーにとってはまじで忌み嫌われるやつだけど、自分もフルートやってるのでよく解ります。歌無盤のような急造要素が強い商品においては、これがあるとかえって安堵に襲われる。そして2コーラスでノリノリの世界に。フルートもギアが入ってきて、フレッシュなプレイだ。以上も踏まえて、やはり沢村和子だと思う…

 

というわけで「ホセ・ルイス=沢村和子」説を陰謀論のように唱える回になってしまいましたが(瀧汗)、これで本年度の黄昏みゅうぢっくはお開きです。ぼちぼち、びっくり新ネタも集まり始めているし(示唆した通り8トラックも!)、次なる復活は案外早いかもしれません。それでは、よいお年を…

 

紅白歌無TOP40・第29幕

いよいよベスト10前最終コーナーですが、聴き比べする立場として気持的にはこの曲こそ1位なのです。全ヴァージョンつぶさに聴いて、この部分はこう演っているとか詳細に表にしてまとめたい位。でも空間が限られているので、あっさりいきたいと思います。いや、いかないか…

 

11位

夜明けのスキャット

歌: 由紀さおり

作曲: いずみたく

作詞: 山上路夫

編曲: 渋谷毅

69年3月10日発売/オリコン最高位1位 (8週)

 

🅰いとう敏郎と’68オールスターズ (編曲: 福山峯夫) 21/5/3、8/2

イントロのギターをオルガンに置き換えてるのがいい。ラヴァーボーイの「イッツ・オーヴァー」かと思ってしまった(汗)。若干テンポを上げ気味なのにムーディな響き。ただ、Bメロ後半とAメロ繰り返しでコードを簡素化しているのがマイナスなのだ…ここはこの曲の歌無盤がはまりがちな罠なので、じっくり追及していきたい。他は、ピアノのアクセントとか、肩の力を抜いたアドリブとかもあって、非常にいいテイク。

🅱秋山実とニューサウンド・グループ (編曲: 竹村次郎) 21/6/2

アコギの優しい響きを強調。ミノルフォン色の濃い音なので、浜恵子の歌声を幻聴してしまう。Bメロのアコーディオンのスペーシーな響きもいいし。ただ、Bメロ後半とAメロ繰り返しのコード簡素化の罠にこれもはまっている。配布された楽譜がこうなってたのだろうか?最後もマイナー終りだし。

『12弦ギターの甘いささやき 夜明けのスキャット

🅲テイチク・ニュー・サウンズ・オーケストラ (編曲: 山倉たかし) 21/6/9

山倉アレンジなので、当然「こんなにこんなに愛してる」を幻聴(ベースの入り方まで!)するが、アシッドなエコー効果でその罠を微妙に避けている。一瞬こけかけるBメロ後半にちょっとひねりを加えているところがこのヴァージョンのいいところ。マイナー終わりもマイナスになってないが、その後もう一押しするとこが普通ではない。

🅳ゴールデン・ポップス・オーケストラ (編曲: 森岡賢一郎) 21/7/9

これもなんか山倉色が濃厚に漂う、というか続けて聴いてしまうとしょうがない。Bメロ後半もAメロ繰り返しもきっちりやっているが、2番の歌う部分を飛ばしているのでじっくり付き合えないのが惜しい。エンディングもひねりあり。「渡鬼」的?

🅴吉岡錦正、吉岡錦英/クラウン・オーケストラ (編曲: 福山峯夫) 21/7/14

テイストは🅰に近いが、やはり主旋律が大正琴故妙なワールド。ただ、所々優しさを感じる響きになっているところがさすがこの曲。Bメロ後半とAメロ繰り返しはやはり惜しい。2番、ドラムが暴れ始めて余計妙な感じになっている。実はこの中で最もロック色が濃いヴァージョンではないだろうか?

🅵ユニオン・シンギング・オーケストラ (編曲: ?) 21/8/1

ベースからいきなり曲に入る。淡いクラシカル・エレガンスといった感じで、Aメロの奏で方にちょっと工夫が加わっている。それでもBメロ後半とマイナー終りだけ惜しい。

🅶木村好夫、宮沢昭/レインボー・オーケストラ (編曲: 大柿隆) 21/9/25

オーケストレーションに独自のアクセントを加えているところが、さすがいずみたくファミリーの忠実な仕事。幻想的なサウンドに好夫ギターが冴えまくる。ベースが唸りまくっているのも異色。ただ、やっぱBメロ後半が惜しいことになっている。マイナー終りは好夫ギターの力でそこまで残念になっていない。

🅷クイーン・ノート (編曲: ミッチー・シモン) 21/11/13

これもイントロのギターのフレーズにひねりを加え、期待感を煽る。幻想的なオルガンサウンドで超ダウナーな世界へ。Bメロ後半とAメロ繰り返しも安心して聴けるが、随所に入る渦巻サウンドはやはり幻覚作用を促す。最後、マイナー終わりかと思ったら念を押してちゃんとメジャーで終わってるし、力作だ。

🅸黛はじめとスイング・オーケストラ (編曲: 川上義彦) 21/11/27

これは速い。ギターも幻覚的響きになっているし、そこにゴージャスなブラスが入ってくると、ほぼ「今宵踊らん」の世界だ。なので、Bメロ後半とAメロ繰り返しが改変されていても違和感がない。1コーラス終了後、まさかのグルーヴィ展開に。ただ、「ラリラリ東京」と同じような寛治フィルが入っているので、どうしてもサイケイメージがよぎる。きっちりメジャー終り。

🅹荒尾正伸/オールスターズ・レオン (編曲: 小谷充) 21/12/18

実はこのヴァージョンこそ最強なのだ。イントロのギターにせよ、オリジナルの響きを意図的に逸脱しているし、始まって4小節目という、通常変えがちでない部分のコードを変えたりしているのがかえって独自性に火をつけている(Bメロ後半とAメロ繰り返しは変えていない)。2コーラスの女性スキャットも、顔が見えないながら素晴らしい。エンディングに至るまで油断させず。実は古巣リベンジでもある。

🅺横内章次/ブルー・ドリーマース (編曲: 横内章次) 22/1/7

横内サウンドも自社ネタ故に妥協した部分を隠せない。とはいえ、チージーなオルガンに主旋律を譲り、鍵ハモとフルートでファンシーな味付け。Bメロ後半にも独自のひねりが窺える。2コーラスではいきなりベースが妙な方向を向き始める。最後までギターリフが続くのも意地だ。

🅻稲垣次郎コロムビア・オーケストラ (編曲: ?) 22/2/14

さすが山田書院としか言えない牛歩ヴァージョン。3分42秒もあるというだけでその牛歩ぶりが解る。ムーディな響きの中に落ちていきそう。例によってBメロ後半とAメロ繰り返しでこけているが、Bメロ前半の段階で既にこける兆候を見せているし、Aメロ繰り返しのこけ方も他とちょっと違う。マイナー終りにかぶさっているピアノフレーズが憎めないけれど。

🅼松浦ヤスノブ/ユニオン・コンサート・オーケストラ (編曲: 山倉たかし) 22/3/26

山倉アレンジながら🅲と全くタッチが違う。イントロのギターはなかなかエッジが強い音で、遠くから徐々に忍び寄ってくる。見事なばかりのストリングスアレンジを背に、咆哮しまくるサックスは永遠に夜明けを見せてくれなさそうだ。ためにためたエンディングをさらに幻想的に盛り立てる山倉マジック。

🅽アート・ポップス・オーケストラ (編曲: 川口真) 22/4/5

謎の寄せ集め盤で初めて世に出た川口真アレンジ盤だが、さすがに格が違う。様々な楽器を積み重ねてのカラフルアレンジで、ありがちな罠にもはまっていない。2番に登場する男性コーラスにはメロトロンを予感させる響きも。このヴァージョンが筒美京平や横内章次、クイン・ノート等と一括りにされて統一名義で世に出た経緯はあまりに謎すぎ。しかも(レーベルは違うが)東芝だし。

🅾尾田悟/ザ・サウンズ・エース (編曲: 池田孝) 22/4/24

大映レコードながら、配給の関係で濃厚にテイチク色が出ていて、やはり「こんなにこんなに愛してる」的カラーが。フルート合奏には美幌波子「わたしの海よ」のカラーも。2番で転調するのは珍しく、そこから明らかな好夫ギターも出てくる。最後、再び転調してフェイドアウトというのも異色。

🅿︎ユニオン・シンギング・オーケストラ (編曲: 池田孝) 22/11/10

アレンジャーも配給も一緒なので当然🅾とテイストが似ているけれど、こちらの方が歯切れが良く、明朗なサウンド。やはり2度転調してフェイドアウトするし、ギターも好夫(ユニオンだからエディか)だろう。ピアノの導入で高貴さを出しているのが最大の違いか。

🆀筒美京平とクール・サウンズ (編曲: 筒美京平) 22/11/11

やはり筒美京平、考えることが違う。イントロは「雨のバラード」に近くなっているし、女性コーラスの響き、ベースの跳ね方もユニーク。しっかり、メガヒットの可能性を咀嚼した結果だろう。ちょっとチューニングがあってない感じもするが…2番以降の展開は並の歌無歌謡じゃあり得ないし、大胆な再構築術だ。Aメロ繰り返しの罠にはまりはしてるけど、意図的なものだろう。

🆁カンノ・トオルとブルー・クインテット/テイチク・レコーディング・オーケストラ (編曲: 福島正二) 23/6/12

オルガンに置き換えたイントロリフに鐘が乗って、大胆なサウンド構築が支えての堅実なギタープレイ。ドラムのフィルにほんのり涼川色がある。幻想色を強めたサウンド演出に酔っていると、アルバムでこれに続く「伊勢佐木町ブルース」で奈落のどん底へ…プロデューサーとしては悪魔だ…

 

以上、18ヴァージョン (19枚収録)。

さて、ベスト10ですが、ご察しの通り。昨年度と1曲も入れ替わっていません。しかし、順位にかなり大胆な変動があります。今年新たに仲間入りしたヴァージョンを振り返りつつ、改めてその変動を追い、2023年度最終回にさせていただきます。明日ですよ!

紅白歌無TOP40・第28幕

前作の勢いに乗って意外なほど多くのヴァージョンを稼ぎました。リアルタイムでの印象が全くなかったのに…(汗)

 

12位

さすらい人の子守唄

歌: はしだのりひことシューベルツ

作曲: 端田宣彦

作詞: 北山修

編曲: 青木望

69年6月1日発売/オリコン最高位17位

 

🅰山下三夫/阿部源三郎、テイチク・ニューサウンズ・オーケストラ (編曲: 山倉たかし) 21/4/2

「万物こんなにこんなに愛してるの法則」に則っての山倉アレンジの妙味が楽しめる。チージーなオルガンもしっかりハマってノスタルジック。

🅱いとう敏郎と’68オールスターズ (編曲: 福山峯夫) 21/8/2

フォーク色を脱しての場末サウンドながらビート感を強調。そろそろニュービートが始動するという予感を漂わせたのかも。

🅲バロック・メイツ+スィンガーズ・スリー (編曲: 小川寛興) 21/10/3

「メロディ・フェア」が始まりそうなイントロから高貴なバロックワールドに誘う。2番に行くかと思わせたところでいきなりプログレ色が…このヴァージョンにはシンガーズ・スリーは登場しない。

🅳クイーン・ノート (編曲: ミッチー・シモン) 21/11/13

自社らしい忠実なイントロからオルガンによる分厚い音の壁に誘う。恐らく横内章次がギターを弾いているのでは。ブルー・ドリーマーズとクイン・ノートの間には、結構相互作用があったはず。間奏でシューベルトの子守唄が出てくるのは、ニヤリとさせるサービスだが、おまけに「風」まで最後に入れてきた。

🅴横内章次 (ギター)/ブルー・ドリーマース (編曲: 横内章次) 22/1/7

案の定、こちらにもクイン・ノート色の濃いオルガンが…ただ、アレンジ的には🅳と明確にカラーが違うのだ。東芝の懐の深さというのは、こういう所にある。

🅵藤田都志/久保茂、上参郷輝美枝/山内喜美子/杵屋定之丞、杵屋定二/テイチク・レコーディング・オーケストラ (編曲: 山田栄一) 22/1/8、22/3/26

この和風サウンドが来るとやっと「異次元」のイメージに達するのだ…幻想の世界色が濃いながら、そこまでの劇的違和感はなく、穏やかなサイケデリアを感じられる。三味線のフレージングだけは確かに妙な感じがするが…

🅶木村好夫とザ・ビィアーズ、堀口博雄/トミー・モート・ストリングス・オーケストラ (編曲: 小谷充) 22/2/18

意図的に開放弦を鳴らしてのプレイを入れたイントロに大胆な色を感じ、重厚なストリングスを従えて好夫ギターが踊り始める。オリジナルの雰囲気と比べると、やはり相当冒険色が漂うアレンジだ。特に2番からの転調がヤバすぎ。

🅷広瀬三喜男 (編曲: 林一) 22/3/21

意識的に「風」のテイストに近づけたイントロ、ハーモニカも素朴な音色で盛り上げる同好会色濃いヴァージョン。

🅸吉岡錦正、吉岡錦英/テイチク・レコーディング・オーケストラ (編曲: 福島正二) 22/3/28

イントロをピアノで演って、ちょっと高貴な色を出したと思ったら、例の如く大正琴であっち側の世界へ。懸命なプレイが素朴な曲調から浮き上がった印象で、やはりサイケっぽい響きも。

🅹ザ・フォークセレナーダス・プラス・ストリングス (編曲: 近藤進) 22/3/30

こちらは🅷以上に同好会色が濃く、ギターの素朴な音だけでなんとか組み立てたイメージ。やはりハーモニカが色付けとして使われている。このサウンドで「こんなにこんなに愛してる」を聴いてみたいものだ(汗)。

🅺益田のぼるとパーフェクト・サウンド・グループ (編曲: 福山峯夫) 22/6/2

サックスも入る正統派歌無歌謡のサウンドを背に、ギターが素朴に歌う。チージーなオルガンの入れる茶々が他のヴァージョンにないテイスト。

🅻ユニオン・ニュー・ポップス・オーケストラ (編曲: 池田孝) 22/11/4

スローにムーディに始まって、どう展開するのかと思ったらそのまま、ムーディなスウィングに導かれる。一聴して「今宵踊らん」の世界かと思わせるが、色気なしのゴージャスさはやはり歌無歌謡の王道。

🅼グリニッチ・ストリングス (編曲: 石川皓也) 22/11/8

素朴に薄い音で始まり、次第にストリングスが被さっていってドラマティックに展開していく。この名義ならではの場末色薄い感触はしっかり健在。

🅽テディ池谷クインテット (編曲: テディ池谷) 22/11/26

通常のイントロから小粋なラウンジ系サウンドへ。庶民性が希薄なこの響きが意外に違和感を感じさせない。

🅾有馬徹とノーチェ・クバーナ (編曲: 小泉宏 or 今泉俊昭) 22/11/27

ヤバすぎるアルバム『恋の奴隷』のラストをフレンドリーに飾る、全楽器が個性を発揮してのヴァージョン。危険なグルーヴを最小限に抑えながら、高度なアンサンブルを堪能させてくれる。生温さがないのがノーチェの魅力なんだな。

🅿︎松浦ヤスノブ、テイチク・ニュー・サウンズ・オーケストラ (編曲: 山倉たかし) 23/11/13

6つ目のテイチクヴァージョン。涼川テイスト全開の山倉サウンドに乗せて舞いまくるヤスノブテナーに、意外にも文学少女色が滲み出ている。目まぐるしくフィーチャー楽器を変えての2番がマジカルすぎる展開。

『テナー・サックスによる 天使のスキャット

🆀ヒット・キット・アイランダース (編曲: ?) 23/11/29

フルートに導かれてのトロピカルサウンド。この音から何故か漂ってくるのは鮫が娘を食う光景…まぁ、解る人にはわかりますよね。

 

以上、17ヴァージョン (18枚収録)。参考までに↓。「恋にゆれて」からも繋げますよね(汗)。

紅白歌無TOP40・第27幕

筒美京平の部、トップは意外にもこの曲でした…「また逢う日まで」や「わたしの彼は左きき」が圏外なのも意外でしたが…

 

13位

夜汽車

歌: 欧陽菲菲

作曲/編曲: 筒美京平

作詞: 橋本淳

72年8月5日発売/オリコン最高位5位

 

🅰ツゥイン・ギターズ/ワーナー・ビートニックス (編曲: 原田良一) 21/4/25、21/12/10

ワイルドなイントロからツゥイン・ギターズ色全開のサウンドに引き込まれる。この位の適度な演出がちょうどいい。Bメロの組み立てに緊張感も。

🅱市原明彦、栗林稔/ワーナー・ビートニックス (編曲: 原田良一) 21/4/30、21/7/1、21/10/18、21/12/4

同じワーナー・ビートニックスながらこちらは相当攻めたサウンド。Bメロのチェイス色濃いブラスも狙ったように効いている。オルガンもドラムも弾けまくっていて熱くなれる。

🅲ヒット・サウンド・オーケストラ (編曲: 馬飼野俊一) 21/6/13、21/8/14

しかしイントロのギターの再現度はこれも高いな。エレガントなストリングスを従えて、行儀良い走りっぷりを見せている。

『ヒット・チャート・ベスト12』

🅳ミラクル・サウンズ・オーケストラ (編曲: 福井利雄) 21/7/1

イントロは簡素化しているが、歌のバックではちゃんとギターがグルーヴの主導権を担っている。ドラムも弾けているけれど、これでも地味な方。ただ、曲が進むにつれてちょっと減速してるような…

🅴秋本薫オールスターズ (編曲: 川上義彦) 21/8/18

テンポは若干早まっているがノリは軽い。あまり自己主張しない寛治ドラムのペースにバンド全体が忠実についていってる感じ。2コーラスの直前、予期せぬところで転調してびっくり。

🅵奥田宗宏とブルースカイ・ダンス・オーケストラ (編曲: 岩井直溥) 21/9/11

「今宵踊らん」らしくタンゴアレンジで料理。このまま「だんご3兄弟」に繋いでも全く違和感なさそう(爆)。

🅶栗林稔と彼のグループ (編曲: 福山峯夫) 21/10/2、22/11/5

ビートを控えめにして、ピアノでお嬢様的タッチを強調しているので、あの調子のギターが完全に浮いて聴こえる。🅱のオルガンと同じ人が弾いているのに、えらい温度差。あと、転調の仕方が🅴と同じでびっくり。あの頃、クラウンとポリドールの間には確実に何ががあったな…(「怨み節」とか「胸いっぱいの悲しみ」にしても)

🅷三笠輝彦/ブリリアント・ポップス77 (編曲: 小谷充) 21/11/25 

ブリリアント・ポップス名義ながら、ビートニックスに匹敵する激しさ。イントロに大胆な処置を加え、一味違うヴァージョン。ビートが控えめで、サックスにより場末ムードを出してはいるが、演奏全体はロック魂を強烈に感じさせる。

🅸はとりこうじとサウンド・エクスプロージョン (編曲: 藤田はじめ) 21/11/29

一味どころか大胆に演出を変えたイントロでダイナミズムを導く。歌い出しのブラスは一歩間違えるとずっこけものだが、そこから「ヴィーナス」風リズムを経由してとんでもない熱い展開に持っていくのがスリリング。鍵盤を滑る指の音もリアルで上等のファンクロックだ。

🅹かなり良悟/ダイアモンズ (編曲: 荒木圭男) 21/12/15

自社らしく忠実にオリジナルを再現した音像。ただ、工夫のなさが面白さを削ぐのはしょうがないんだよね…

🅺小泉幸雄とクインテット (編曲: 小泉幸雄) 22/1/6

テンポを上げているが、素直なコードプレイにワウをかましただけのギターがかえって場末色を醸し出している。そこに乗る例のチージーなオルガン。夜汽車の行く先は、当然鄙びた温泉街だろう。

🅻ブルーナイト・オールスターズ (編曲: 土持城夫) 22/3/14

こちらもオリジナルに忠実なサウンドだが、相当ぶっ飛ばしているベースに耳が行く。変なアレンジをしないと素直についていけるんだな。

🅼稲垣次郎コロムビア・ニュー・ビート (編曲: 荒川康男) 22/5/1  

アフロファンク色は増しているものの、そこまで破壊的なニュアンスがない。この夜汽車が鉄橋を渡ると当然地獄がはじまるのだな。

🅽ゴールデン・サウンズ (編曲: 荒木圭男) 22/5/2

🅹の別ミックス的ニュアンスを漂わせながら、ストリングスできらびやかな世界に誘う。フルートの綺麗な音もこの曲の世界観と異質ながら、非常に魅力的。あと、ワウの高音部を異常に高く設定しているのも地味に面白い。

🅾キャニオン・ポップ・サウンズ (編曲: 小杉仁三) 22/5/19

ちょっと深い霧の中に消えていきそうなタッチが窺えるサウンドで、その割にテンポが相当速い。ドラムが結構慌ててそうだ。

🅿︎松浦ヤスノブ/オーケストラ・プラッツ (編曲: 柳ヶ瀬太郎) 23/11/15

この名義故に相当危険なサウンドを期待したらちょっと肩透かしを喰らう。つまり、普通によくできている。所々テンションが不安定になる展開もあるけれど、これでいいのだ。

 

以上、16ヴァージョン (22枚収録)。決定的に勝ちと言えるヴァージョンは思いつかないな…

紅白歌無TOP40・第26幕

この曲をCCRの「雨を見たかい」と並列に語るのは罪なことですか…(汗

 

14位

長崎は今日も雨だった

歌: 内山田洋とクール・ファイブ

作曲: 彩木雅夫

作詞: 永田貴子

編曲: 森岡賢一郎

69年2月1日発売/オリコン最高位2位

 

↑セルフリメイクヴァージョン。クール・ファイブのオリジナルくらい早く聴けるようにしてほしい…

 

🅰ユニオン・シンギング・オーケストラ (編曲: 中山順一郎、河屋薫) 21/4/16

いきなりテイストの違うイントロで強烈な印象を与えるブラスの響き。隙間の多いサウンドがかえって新鮮味を醸し出す。薄く切ったオレンジをアイスティーに…(違)

🅱ユピテル・グランド・オーケストラ (編曲: ?) 21/4/23

77年以降の録音と思われる。歯切れのいいドラムサウンドにちょっぴり違和感が…ベースも若干暴れ気味。

🅲スターライト・オーケストラ (編曲: ?) 21/4/28、21/7/25

これも新しめの録音だが、アレンジ的に場末色が濃くて違和感がない。好夫タッチながら若干カミールギターっぽい響き。キーが高いのも影響してるけど、好夫だとしたら異色過ぎる演奏だ。

🅳秋山実とニューサウンド・グループ (編曲: 竹村次郎) 21/6/2

リアルタイムヴァージョンを聴いてもそんなに前の二つとの違和感を感じない。12弦ギターのせいか、これも若干カミールっぽい。変速録音は絶対してないと思うが…

🅴Dovecot Sounds (編曲: 柳刀太) 21/6/6

これまた78年録音でモダンなサウンドだが、何ゆえにキー高めなんだろう。これは純粋なカラオケユースのヴァージョンなのに。コードが簡素化されていて、ガチで歌う気分になれない。

『不滅のムードコーラス・ベスト12』

🅵ゴールデン・ポップス・オーケストラ (編曲: 森岡賢一郎) 21/7/9

これは原曲アレンジャー仕事なのでガチなサウンド。ただ、コーラスを欠くだけで相当色彩が違って聴こえる。

🅶吉岡錦正、吉岡錦英/クラウン・オーケストラ (編曲: 福山峯夫) 21/7/14

イントロのフレーズから大正琴が炸裂。チージーなオルガンで色付けを行い意表を突いてくる。歌い出しが「あなたひとーりー」(「に」は無し)という感じになっていてかなり悲しい…その直前の鉄琴がなんかいい感じ故にね…

🅷いとう敏郎と’68オールスターズ (編曲: 福山峯夫) 21/8/2

同じく福山峯夫アレンジなので、繋いでも全然違和感ないが、こっちはちゃんと原曲の譜割で演奏しているので素直に聴ける。でもやっぱキーが高めなんだな…

🅸木村好夫/レインボー・オーケストラ (編曲: 大柿隆) 21/9/25

サブスクにあるポニー扱いのヴァージョンと同じだが、若干音響処理が違うような気がする。レコード化されているこのミックスの方がエコーが強め。好夫ギターの真髄的プレイに、鍵ハモがエモく寄り添う。

🅹クリスタル・サウンズ (編曲: ?) 21/11/3

これまた相当後の録音。原曲の響きを研究し尽くした跡が窺えるが、薄くコンガが入っているのが面白い処置。Bメロの走り方も70年代ロックっぽい。

🅺荒尾正伸/オールスターズ・レオン (編曲: 小谷充) 21/12/18

トランペットで始まると正統派ムード歌謡という雰囲気が充満する。ストリングスが重厚に盛り上げロマンティック。

🅻稲垣次郎コロムビア・オーケストラ (編曲: ?) 22/2/14

山田書院らしく若干せこさがあるが、分厚くストリングスが入っていてゴージャスなサウンド。2番はコルネットヴァイオリン。しかし、稲垣次郎さんの居場所がない…間奏にちょっとだけ…

🅼鶴岡雅義/テイチク・レコーディング・オーケストラ (編曲: 山倉たかし) 22/3/10、22/3/26

山倉マジックはそれほど大胆に効かせず、ギターを聴かせることに重点をおいたアレンジ。歯切れの良いサウンド作りでギターが味わえる。3コーラスフルに使って、微妙な変化を楽しませてくれるが、タイトルフレーズの後ろに入っているオルガンは不安感を煽る…

🅽ゴールデン・サウンズ (編曲: 荒木圭男) 22/4/17

ゴールデン・サウンズらしく特に色を感じさせないサウンド。まぁそれでいいのだけど。原曲のよさを忠実に再現。

🅾松本英彦と彼のグループ・ウィズ・ストリングス (編曲: ?) 22/5/18

かなりテンポを上げている。ダイエー・マイパックらしく、マイナー録音を借りたと思われるが、リアルタイム録音でない可能性も。Bメロの始まりでちょっとリズムに変化を加えているのが面白い。

🅿︎ヒット・キット・アイランダース (編曲: ?) 23/11/29

まったりとしたノリにハワイアンの味わい。このポルタメント攻撃が加わるだけで、イメージがかなり変わってくる。オッパチさんのプレイ(多分)からはカントリー色も多少浮かび上がってくるのだ。

 

以上、16ヴァージョン (18枚収録)。今回は平行線でしたね…

紅白歌無TOP40・第25幕

元が洋楽のため、「歌謡フリー火曜日」で語ったアルバムから2ヴァージョンが援護射撃しました。

 

15位

別れの朝

歌: ペドロ&カプリシャス

作詞・作曲: Joachim Fuchsberger、Udo Jurgens

訳詞: なかにし礼

編曲: 前田憲男

71年10月25日発売/オリコン最高位1位 (4週)

オリジナル: ウド・ユルゲンス (「夕映えのふたり」)

71年11月10日日本盤シングル発売/オリコン最高位17位

 

🅰MCAサウンド・オーケストラ (編曲: 土持城夫) 21/4/10、22/1/10

MCAのコンソールアルバム2作にまたがって収録されているため、第1作の段階で強固なサウンドポリシーが築かれていて、そのスタンスを第2作でも保っていることを証明した1曲。オリジナルの良さを生かしながら、若干ノリがよくなっている。左側にいるディストーションギターの気まぐれさがなかなか効果的。ライバル、セルスターズ仕事でブイブイ言わせた土持氏の熱い眼差しが窺える。

🅱チコ菊池とイージー・ライダーズ (編曲: 舩木謙一) 21/6/13

イントロからダイナミックなドラムで爆走。密度の濃いサウンドはMCAのアルバムから受け継がれたものだろう。ベースも爆裂。意識的にギターを排除したところも効果的。「雨」を聴くまでは、『流行歌ヒット年鑑』で最大の衝撃を感じたヴァージョンだった…イージー・ライダーズのフルアルバムはもはや4000円越え当たり前なので、安く買えがちなこの2枚組は救い。

🅲西村ユリ (編曲: 西村ユリ・クニ河内) 21/8/10

天才少女のリリシズムが炸裂。控えめに支えつつ派手さを時折見せる寺川・石川リズムセクションに乗せて、淡々と鍵盤を弄る。恐らくダビングはしてないはず。狂気の極み「心の扉をあけよう」と好対照なお嬢様イズムは、ジャケットのイメージそのもの。

『エレクトーン・ファンタスティック ラブ/愛するハーモニー』

🅳三笠輝彦/ブリリアント・ポップス77 (編曲: 穂口雄右) 21/8/22

オーソドックスなアレンジながら、サックスの咆哮でちょっと下世話な方向に導いている。ギターを敢えて派手な方向に持っていってないところとか、隙間を埋めるオルガンなど、穂口さんならではの意表のつき方が伺えるし、地味ながら完成度の高いオーケストレーション

🅴奥田宗宏とブルースカイ・ダンス・オーケストラ (編曲: 岩井直溥) 21/9/11

チーク向きになっていると思いきや、スインギーで乗れる。ベースも全然イケイケではない2つ打ちプレイで、いかにも全世代対応。これが「今宵踊らん」だ。

🅵マーキュリー・メモリアル・サウンズ・オーケストラ (編曲: ?) 21/10/19

珍演「ブラック、ドッグ」で悪名高い洋楽カバー盤よりの1曲。カプリシャス色がない、原曲通りBメロへの道のりが長い構成になっているが、マーキュリーのレーベルカラーのせいでしっかり「マイナー歌のない歌謡曲」になっているのだ。そのBメロでベースが全然自己主張せず、異常に低い音に走っているのがいかにも、地方ビッグバンドという感じ。しかも音量でかいし。エンディングも鄙びた駅前キャバレーの雰囲気だ。

🅶前川元/堀口博雄とエマンストリングス (編曲: 竜崎孝路) 21/11/22

マーキュリーと比べると同時期のローヤルは実に気合の入ったサウンド。下世話さも取り入れつつ、原曲の洗練されたタッチをしっかりキープしている。その割にアルバムの演奏者クレジットはいい加減になっているが…

🅷木村好夫とオーケストラ (編曲: ?) 21/11/26

フォークをテーマにしたアルバムにサービスのように入れられたヴァージョンだが、全然フォークっぽいニュアンスがない、洗練されたポップサウンド。誰の仕業か読めないところがいかにもRCAだが、響き的には最初の2つのビクターサウンドに共通するもの。サイドギターディストーションをかけず、好夫節で統一しているのに意地を感じる。

🅸マーキュリー・スタジオ・オーケストラ (編曲: ?) 22/1/25

🅵とは別ヴァージョンとなっていて、こちらはカプリシャスに準じたアレンジ。せこいところはよく似ているけれど、ギターに気まぐれ色が出ていたり、ピアノが自己主張したりしていて、むしろこっちの方が洋楽色が濃いのではないか。ベースが控えめな音量だが、こちらの方はより行き先を見失ったプレイになっている。なんかおかしいと思った原因は、Bメロのストリングスなんだな。追い討ちをかけるようにエンディングのトランペットも。シャープとフラットをはっきりさせてよ…

🅹前田憲男とそのグループ (編曲: 前田憲男) 22/3/20

いきなり相当アヴァンギャルドなオープニング…そして、クラリネットをフィーチャーしてのスインギーな演奏へ。ディストーションギターもアコーディオンに置き換え。ヴァイブも間奏で炸裂している。そして終盤、一瞬大爆走モードへ。オリジナルアレンジャーがここまで気前よく破壊している例は、恐らく他にないだろう。

🅺北村英治/ビクター・オーケストラ (編曲: 近藤進) 22/4/22

こちらもガチジャズで迫るかと思いきや、通常のアレンジで演っているが、さすが職人のプレイだけあって物凄く説得力が高い。さわやかな女性コーラスと共に耳をとらえる、異様なエフェクトギターは何者なのだ…モーグかと思ったじゃないか…

🅻山内喜美子 (編曲: ?) 22/4/23

イントロなしでいきなり琴が語り始める。テンポも若干落としており、これこそが「癒し系」ヴァージョンの極み。サウンド全体も抑え気味。テイチクであれば、間奏でアドリブしたり、より実験的な演奏に走ってたかもしれないが、この淡々さはセッション終盤という色を匂わせている。ラスト、間違って1小節早く弾き始めたところが絞られていないのにお茶目さを感じてしまう…本人、確認する余裕もないほど忙しかったんでしょうな…

🅼木村好夫/コロムビア・ニュー・ビート (編曲: 河村利夫 or 土持城夫) 22/5/1

例のヤバい『’72ヒット曲要覧』に於いては緊張感が緩まるひととき。リズムセクションのシャープな響きは荒川仕事を継承するものだが、ベースのフレーズなんかはかなり抑えている。好夫ギターも通常の好夫節という感じで始まり、2番を過ぎると結構本領発揮に走る。

🅽こだまたかし/ワーナー・ビートニックス (編曲: 原田良一) 22/11/16

思えばワーナーは自社しかも自レーベルだし、力が入るのも当然(何故か市原ヴァージョンをまだ手に入れてない…)。おとなし目に始まった口笛がBメロで超高周波攻撃に転じ、Aメロ繰り返しでレズリー処理されて幻想的世界に誘う。そこで終わるわけですよビートニックスだから…

🅾ありたしんたろうとニュービート (編曲: 福山峯夫) 22/11/25

普通のイントロで始まりながら、歌い出しで加速してロックンロールに転じる。キーボードを中心に派手なサウンドになっているが、堅実なリズムセクションでドラムのパターンを微妙に変えている。最後の長いドラムソロがオーディオシステムの性能を試す。

🅿︎ツゥイン・ギターズ/ワーナー・ビートニックス (編曲: 原田良一) 23/6/23

こちらも口笛盤のオケをベースにギターに置き換えたヴァージョンになっていて、通常のギターとマイルド気味のディストーションの絡みがアンバランスな響き。ツゥイン・ギターズ向きにするなら、もっと大胆なアレンジを期待してしまうのに…

 

以上、16ヴァージョン (17枚収録)。いいヴァージョンが多いのだけど、意表を突くという点では🅹と🅾の一騎討ちですな。

紅白歌無TOP40・第24幕

今年のクリスマスを「くちなしの花」と共に過ごすとは誰が予想したか…?

 

16位

くちなしの花

歌: 渡哲也

作曲: 遠藤実

作詞: 水木かおる

編曲: 斉藤恒夫

73年8月21日発売/オリコン最高位4位

 

🅰稲垣次郎/ゴールデン・ポップス (編曲: 山屋清) 21/4/22 

いきなり炸裂するメロトロン!そして場末色濃いサウンドの中に溶け込んでいくサックスの咽び泣き。まじで異次元としか思えないサウンド。これを最初に聴いてしまうと、以下何が襲ってくるか実に不安になってしまう…それにしても、『’74ヒット曲要覧』に収められているメロトロン曲4曲の初出盤の情報が未だ把握できない… 

🅱ユピテル・グランド・オーケストラ (編曲: ?) 21/4/23

同じようなスナックムード濃厚な演奏ではあるが、メロトロンではなくオルガンを使用。サックスも明朗な音色で咽び泣く。

🅲スターライト・オーケストラ (編曲: ?) 21/4/28、21/7/25、22/10/9

「昭和演歌」はまだいいとして、「なつメロ大行進」に昭和20~30年代の曲に混じって収録されているのが異様だよね…軽めの演奏なのだけど、せこさはそこまででもなく、チェレスタの音色が可憐。

🅳村岡実、山内喜美子/ミラクル・サウンズ・オーケストラ (編曲: 福井利雄) 21/5/20 

イントロのフルートにメロトロンを幻聴…する間もなく、琴が高鳴り、尺八が深い闇に誘うジャパネスクヴァージョン。例によってエコーも深く、ちょっとロック色もあってなかなかアシッドだ。

🅴ホット・エキスプレス (編曲: 斎藤恒夫) 21/8/12

普通にリアルタイムのヒット曲として扱ってるのはかえって珍しいかも、というかセルフリアレンジか。エレピやオルガン、アコーディオンなどをブレンドさせて、結果的にメロトロンを幻聴させる(汗)。

🅵T. Jeorge/ニュー・サン・ポップス・オーケストラ (編曲: T. Hanaoka) 21/8/29

国文社第2期の盤なので「ちょい懐メロ」的なタイミング。それっぽくモダンな色も出ているし、やはりサックスが達者だな。

🅶クラウン・オーケストラ (編曲: 湯野カオル) 21/9/18

クラウンとテイチクは「古巣リベンジ」であるが、特に74年以降の前者に複数ヴァージョンがあるのは異例で、それだけ怨みが深かったのか(汗)。これはリアルタイムヴァージョンではなさそうで、達者なギターは誰のプレイなのか、全く読めない。好夫じゃ絶対なさそう。タメ方がちょい違うんだよね。

🅷ブルーナイト・オールスターズ (編曲: 京健輔) 21/10/28、23/6/5

ミノルフォンも遠藤先生のことを考えると「古巣リベンジ」かも。落ち着いた夜の色が濃いアレンジ。

🅸クリスタル・サウンズ (編曲: 池田正城) 21/11/3、21/11/15、23/6/3

ちょっと洗練色を出して、都会の盛場というイメージ。ヤング層でも近寄れる感じを出したかったのだろうか。

🅹吉岡錦正/ブルー・サウンズ・オーケストラ (編曲: 池多孝春) 21/11/10

🅱に比べると遥かにせこいイメージ。イントロ5小節目から大正琴が入っているが、思い切りメロディが違っていて倒れる…まぁ、意図的に変えた可能性もあるけれど、思い切りのいい演奏だとめちゃ気になるのだ…

🅺いとう敏郎と’68オールスターズ (編曲: 福山峯夫) 21/11/28、22/1/28、22/11/2

いとう敏郎時代の最後っ屁。イントロのエフェクト深いギターが不安感を煽るが、曲に入ると例の調子で、68年から続く黄金律を堪能できる。

🅻Dovecot Sounds (編曲: 柳刀太) 22/1/11

ヨーカドーのカラオケ盤なので、再現度は高い。イントロに入るチージーなシンセ音がさすが78年という感じ。曲に入るとガイドメロがフルートだが、Bメロから似たような音のシンセに入れ替わっていて、その魔法に歌ってる人は気付かないだろう。2番はその逆。不思議なアレンジだ。

🅼奥田宗宏とブルースカイ・ダンス・オーケストラ (編曲: 斎藤恒夫) 22/4/29 

イケイケなルンバアレンジ。イントロを半分にするとかえって踊りづらいかも。やはり、🅴と決定的に顔を変えてきている。

🅽ボビー佐野 (編曲: 池多孝春) 22/5/11

🅹のようなイントロのメロ違いがない…やはりアレンジャーのせいではなかったか。かなり軽いノリで、サックスにも色気が希薄。猫ジャケのアルバムにふさわしいサウンド

『ムード・サックス ヒット歌謡ベスト14 』

🅾フローラル・ポップス’74 (編曲: 伊藤辰雄) 22/11/13

ゴージャスなアレンジで格の違いを見せるシンフォニック・サウンド。リズムの方はかなりライトだが。クラウンがこの曲でここまで多面性を見せつけるとは意外。「昔の名前で出ています」は50回ほどリサイクルしたくせして…

 

以上、15ヴァージョン(22枚収録)。ワーナー・ビートニックスが演るこの曲も妄想してみたいもの、というわけでやっぱ🅰の一人勝ち。メロトロン万歳!