黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

い・け・て・る歌無お色直しマジック

コロムビア KZ-7120

軽音楽 All Hit Pops 匂艶 The Night Club聖母たちのララバイ

発売: 1982年7月

ジャケット

A1 匂艶 The Night Club (サザンオールスターズ)Ⓐ 🅱

A2 聖母たちのララバイ (岩崎宏美)Ⓐ 🅲

A3 おまえにチェック・イン (沢田研二)Ⓐ

A4 気分は逆光線 (来生たかお)Ⓑ

A5 ふられてBANZAI (近藤真彦)Ⓐ

A6 心の色 (中村雅俊)Ⓒ 🅱

A7 赤道小町ドキッ (山下久美子)Ⓐ

A8 誘惑 (中島みゆき)Ⓒ

A9 南十字星 (西城秀樹)Ⓐ

A10 夜よ泣かないで (松山千春)Ⓑ

B1 シルエット・ロマンス (大橋純子)Ⓓ

B2 男であれ女であれ (郷ひろみ)Ⓐ

B3 君の国 (中村雅俊)Ⓐ

B4 どきどき旅行 (岩崎良美)Ⓐ

B5 原宿キッス (田原俊彦)Ⓔ

B6 YES MY LOVE (矢沢永吉)Ⓐ

B7 い・け・な・いルージュマジック (忌野清志郎&坂本龍一)Ⓐ 🅱

B8 渚のバルコニー (松田聖子)Ⓕ

B9 100%…SOかもね (シブがき隊)Ⓑ 🅱

B10 化石の荒野 (しばたはつみ)Ⓐ

 

演奏: ラビー・エイズ・オーケストラ

編曲: 前田俊明Ⓐ、山田良夫Ⓑ、坂下滉Ⓒ、鈴木成弘Ⓓ、久富ひろむⒺ、山田年秋Ⓕ

定価: 2,000円

 

過去、コロムビアから80年代に出た歌無アルバムを3枚紹介しましたが、それに等しい量の盤が一度に転がり込んできて、今日から3日間はそれらを紹介。さすがに80年代となると、内容そのものよりリアルタイムな感慨の方が優先されてしまいそうなので、それで容赦して。いいアレンジとか、その辺に熱を入れて語らせる要素が希薄になってくるのは避けられないのですよ。

82年12月に出た「オール・ヒット・ポップス」盤を2年前の5月31日に紹介しましたが、その前作として出されたもの。帯裏を見ると、前年に出たヒット曲集大成盤(21年11月4日紹介)を除く6枚、全て演歌系の歌無盤が紹介されており、アダルト・オリエンテッド面ではコロムビアが歌無市場独占状態だったことを物語っていますが、この辺でヤング方面にもアピールしておかなきゃ、と判断したのでしょうか。確かに、81年の盤はニューミュージック系に固まっているし、最もアイドル度が高い「まちぶせ」からして元は75年の曲、しかもユーミンの作品だし。「ハイスクールララバイ」の歌無盤とか聴きたかったなぁ。クリスタル・サウンズのレコード活動も、81年12月新譜を最後に停止しているし、その穴に食い込みたいという思惑は…多分なかったでしょう。

しかし、82年と言えば…芸能史屈指のアイドルルネッサンス年である。この年の前半デビューしたアイドルの顔ぶれの強力さといったら、今や伝説でしかない。それらのデビュー曲は、まだここに選ばれるには至っていない…けど、シブがき隊は入ってますね。やはり、事務所の強力な推しがあったのでしょうか。「スローモーション」や「私の16才」の純情あふれるインスト解釈、のちにそれぞれを単独で特集したインスト盤に収録されているけれど、こんな雑種な盤の一部として聴いてみたかったものです。そんなアイドル蜂起時代にもかかわらず、自分は当時、そんな動きに殆ど目を背けていました。

81年後半にデビューしたあるアイドルを、熱烈に応援していたのですが、ある日そのアイドルがあまりにも売れないことを揶揄され、自分史上最大レベルの大喧嘩に。めちゃ仲の良い友達故にそうなったのもしょうがないですが、その挙句、もうアイドルどころか邦楽全般を聴かないと強がり宣言をし、その友に誘われるように全米TOP40一辺倒の生活に突入するのです。未だに82年に6位から42位に転落した曲とか、6週連続21位を記録した曲のタイトルは、0.1秒以内に即答できますよ(瀧汗)。

それにも関わらず、ここに収められた曲の多くに、リアルタイムで親しみが持てたことは否定しません。普通に学生社会にいると、耳に飛び込んでしまうのがヒットソングだし、それに逆らうことでアウトサイダー気取りできるような環境にいませんでしたから。いたかったのはいたかったけど。逆に、そんな場に身を置いていたら、今自分は生きていたかどうか、確信が持てません。

そんな甘酸っぱい青春時代を蘇らせる20曲。いずれも簡潔にまとめられ、アルバム片面の演奏時間も30分以内に抑えられていますが、まだそんなことが許される時代だったのです。ジャケットが象徴する通り、70年代歌無歌謡特有の場末感は当然なくて、スムーズなサウンドの中に耳あたりの良い音色が響きます。聖母たちのララバイをはじめ、多くの曲で聴かれるフルートはガチな演奏というより、音大生バイトっぽい初々しさがあり、時々色気を出してくるところに若さが露呈したりしていますが、そんな演奏にお金を出したいのですよ自分としては。逆に、「気分は逆光線」などに登場するハーモニカはガチで、さすがにアカデミックな演奏というイメージは無し(汗)。その辺のバランスが、より親しみやすいイメージを強調しているアルバムです。そして、渚のバルコニーで聴けるパンフルート。84年盤の「雨音はショパンの調べ」ほど萌えないけれど(音色も若干硬めで、違う人のプレイかも)、この音はアイドルの純情を的確に表現してるなと思います。下世話な曲調には似合わないけれど、もっと吹く人が増えてほしいなと思わされる。

残る19曲と別の意味で注目すべき「い・け・な・いルージュマジック」は、一言だけ、歌いづらいキーだなと。キヨシローは原曲キー以外の解釈を認めたくないですね。「道端で泣いてる子供」のとこのメロディーもおかしなことになっているし。やはりこの時期は、教授、カート、ユッコ、プリンス、尾崎、hide、キヨシロー、テレサ・テンと、心に深く刻まれる訃報の思い出が相次ぎ辛くなります。