黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

三好鉄生さんの誕生日は11月30日

コロムビア KZ-7123

オール・ヒット・ポップス 待つわ/Ya Ya (あの時代を忘れない)

発売: 1982年12月

ジャケット

A1 6番目のユ・ウ・ウ・ツ (沢田研二) 🅱

A2 哀愁のカサブランカ (郷ひろみ) 🅲

A3 夏をあきらめて (研ナオコ)☆ 🅱

A4 すみれSeptember Love (一風堂) 🅱

A5 誘惑スレスレ (田原俊彦)

A6 野ばらのエチュード (松田聖子) 🅱

A7 スローダンサー (ガンジー)☆☆ 🅱

A8 ガラスの花 (高田みづえ)

A9 もしかしてI Love You (ラッツ&スター)☆

A10 思い出さないで (岩崎宏美)

B1 涙をふいて (三好鉄生) 🅱

B2 待つわ (あみん) 🅲

B3 恋人も濡れる街角 (中村雅俊) 🅱

B4 ZIG ZAG セブンティーン (シブがき隊) 

B5 ゆうこ (村下孝蔵)

B6 ダンスはうまく踊れない (高樹澪) 🅲

B7 ホレたぜ! 乾杯 (近藤真彦)

B8 けんかをやめて (河合奈保子) 🅲

B9 風が吹いたら恋もうけ (中原理恵)☆

B10 Ya Ya (あの時代を忘れない) (サザンオールスターズ) 🅱

 

演奏: ラビー・エイズ・オーケストラ

編曲: 前田俊明、大川友章(☆)、淡野保昌(☆☆)

定価: 2,000円

 

82年型歌無歌謡に、何が期待できるか…この頃のコロムビアの演奏盤の主流というと、ANIMEXレーベルに残された「ジャム・トリップ」とか「デジタル・トリップ」とか、その辺のアニソンアレンジ盤がまず思い浮かぶ。まぁ、80年代中期のANIMEX全体がめちゃくちゃそそるのもあり、あまり多くを語らない方がいいかなと。その辺は、版権的な事情もあってか、決して合法的な再発見が進みそうもないのが難点でありますが。

それらと同じ感覚で当時のポップス歌謡を料理したのが、このアルバムと見ていいでしょうか。1曲だけながら、その手のファンにはたまらない淡野保昌氏のクレジットもあるし。このオーケストラ名義では、前年にも同じタイトルのアルバムが出ているが、手堅い歌無ニューミュージック盤というイメージだったその盤に比べると、ここではアイドル系も含めて幅広く選曲されているし、サウンドもよりカラフルになっている。個人的には中沢千鶴子「花売り娘」を代表仕事として推したい前田俊明氏の手腕が炸裂している。片面に10曲突っ込んでいる都合上、ほぼ全ての曲が手短にまとまっているが、その分スリルもいっぱいだ。まさか、カセットではフルヴァージョンが聴けたりとかするのだろうか…

トップの「6番目のユ・ウ・ウ・ツ」は、冒頭のボーカルなど病的要素が希薄な分滑稽な味わいが出ているが、それこそ歌無歌謡の王道解釈なわけで、なかなか楽しいペースセッターぶり。「哀愁のカサブランカは、70年代歌無歌謡ではまず使われなかったダルシマーが出てきて幻惑する。かと思えば、「すみれSeptember Love」では打ち込みを基調にしながら、「軽音楽」として妥当な世界に引き下げているし。二胡位使って欲しかったな…あと、いいところでフェイドアウトするのも惜しい。A面ラスト「思い出さないで」は、前作の「すみれ色の涙」に続き、オリジナルの島崎恵子盤(73年)を出したコロムビアからのエレガントな感謝状。アレンジもその盤をほぼ踏襲したものだ。

カラフルな音使いでA面が駆け抜けていった後、ハッとさせる瞬間が「待つわ」でやってくる。恥じらいがちなJD二人の心情を再現するリコーダー。ちゃんとオリジナル通りハモっているし、70年代アイドル曲に於ける笛の使用より、こちらの方が鮮やかかも。東芝のサックスヴァージョンが岡村孝子パートしか歌ってなかったのに比べても、ずっと上出来。ただし、フルコーラス演ってないのが残念なんだな…エディットしてフルコーラスにしたいところだけど、2番で多少表情を変えたりするのも歌無歌謡のいいところなんだよね。「けんかをやめて」は、70年代クラウン盤で聴けたようなケーナ風リコーダーから、色っぽいパンフルートへ引継ぎ、まさにバトルなんて似合わないピースフルな瞬間だ。終盤のグリッサンドがめちゃ快感。

続く「風が吹いたら恋もうけ」は、取り上げられたことそのものが快挙。歌無ナイアガラ曲の中でも最異端だろう。演奏的にはそれほど狂った部分はないのだけど、軽妙にこなしているところは買い。もし80年代に『はれんち!なんせんす』みたいな盤が作られたとしたら、この辺の曲は確実に入りそうだし、相応しいアレンジで聴いてみたいな。「うなずきマーチ」なんかも。サザンだと「I AM A P(以下略)」とかが選ばれるのかな。