黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その56: クインシーを忍び年越し踊らん

東芝 TP-72328~9

今宵踊らん E.T.のテーマ/黒い瞳のナタリー

発売: 1983年

 

ジャケット

A1 E.T.のテーマ 🅰→23/11/17

A2 炎のランナー

A3 素直になれなくて

A4 ブルー・ハワイ

A5 南国の夜

A6 プロテクション

A7 いそしぎ

B1 悲しき雨音 🅱

B2 ハワイの結婚の歌 🅱

B3 月の夜は

B4 小さな竹の橋

B5 サーフィン・U.S.A.

B6 ガール・イズ・マイン

B7 引き潮

C1 黒い瞳のナタリー 🅰→23/11/17

C2 愛と青春の旅だち

C3 オール・ライト

C4 港の灯り

C5 珊瑚礁の彼方

C6 夕陽に赤い帆

C7 🅱

D1 君の瞳に恋してる 🅱

D2 ニューヨーク・シティ・セレナーデ

D3 アレンタウン

D4 汚れた英雄

D5 マンイーター

D6 ハートブレーカー

D7 アロハ・オエ

 

演奏: 奥田宗宏とブルースカイ・ダンス・オーケストラ

編曲: 高野志津男、山本有信、五十嵐謙二

定価: 4,600円

 

1年を締めくくるのに相応しい「今宵踊らん」。82年末のヒット曲を中心に、洋楽のみでまとめた異色作で、ポップなイメージを醸し出すジャケットの割に、メインターゲットはいつもの客層、というか原曲自体もはや「おまけ」なんでしょうね。分裂症状としか思えない曲の配列、なのにちゃんとカラーが統一されていて、さすがこの長寿シリーズ。慣れた者には安堵感しか感じられません。早速踊ってみることにしましょうか。

まずは82年末に空前の大ヒットを記録したE.T.のテーマ…なんですけど、天空を駆けるというよりクイズ番組のテーマ、当たったら世界一周、みたいなイメージで、ペースセッターとしては文句なしなんだけど、映画に感じられたロマンはどこにいっちゃってるのでしょうか…炎のランナーもなんか、長閑に走っちゃってる感じだし、「素直になれなくて」にも脱力感が。そこから違和感なくハワイの自然に導かれていく。ハワイ音楽のファンとしては、どれも曲名が即答できるくらい親しみがある曲なので、そんなに憤りは感じないのだけど、全体の流れの中に馴染んでる感じがいまいちない。アウトドアで踊るには向いてないんだよね…そして、6曲目「プロテクション」。黄昏みゅうぢっくには初登場となるブルース・スプリングスティーン作品!と言っても、初登場は82年に出たドナ・サマーのアルバム。ディスコ経由で野暮ったい境地に着地していて、出だしがまるで「リバーサイド・ホテル」のように聴こえる。このドナ・ヴァージョンをプロデュースしたのが、本年度音楽界で最大の損失と言えるクインシー・ジョーンズだ。彼のプロデュース作品はもう一つ、ポール&マイケルの「ガール・イズ・マイン」も選ばれている。かのモンスター・アルバム「スリラー」からの第1弾シングルで、いまいち影が薄くなってしまったけれど、当時は大騒ぎしたものです。結果的には「ビートルズ著作権をめぐる歌」とさえ言われることになりましたが…ここでは仲良く踊ろうよ、って感じにアレンジされてますね。それに先立つのが、こちらも著作権関係で揉めた「サーフィン・U.S.A.」というのも皮肉。ここでは明らかにジミー竹内とわかるドラムが炸裂したイケイケアレンジ。その後もコンテンポラリー洋楽ヒットとハワイアン、スタンダードが入り乱れていきます。今年のSNSを舞台とした音楽関連の騒ぎの中で、具体的曲名が浮上して注目された曲の一つ「君の瞳に恋してる」も、メッセージ色の濃い「アレンタウン」も、淡白にアレンジされると余計JETを連想せずにいられなくなるマンイーターも、同じまな板の上で仲良く料理。ディレイ効果を使った「マンイーター」のサックス・ソロが再現されているところにはニヤリですね。そして、年の瀬を締めくくるに相応しい「アロハ・オエ」で大団円。もう、こんな風に踊りながら年を明かすなんて、それこそが真のピースフル・ワールドなはずなのに…誰もやろうとしなくなりましたね…いくら悲しい別れでも、新しい年の到来と共に新たな出会いとなり蘇るのです。「黄昏みゅうぢっく」も絶対、そんな風に。それでは、また逢う日まで…良いお年を…