黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー特例日: 今日はフレディ・マーキュリーの誕生日なので

ポリドール MR-8191~2

ビューティフル・オルガン・アルバム ベスト・ポップスIV~そよ風の誘惑~

発売: 1975年8月

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ジャケット



A1 悪夢 (スティーヴィー・ワンダー)

A2 迷信 (スティーヴィー・ワンダー)

A3 サンシャイン (スティーヴィー・ワンダー)

A4 ダイナマイト (コモドアーズ)

A5 ザ・バンプ (コモドアーズ)

A6 マシンガン (コモドアーズ)

B1 愛の炎 (ルーファス)

B2 ジュニアズ・ファーム (ポール・マッカートニー&ウイングス)

B3 レゲ・ウーマン (スティーヴィー・ワンダー)

B4 ホワッツ・ゴーイン・オン (マーヴィン・ゲイ)

B5 ゲット・レディ (レア・アース)

B6 ピック・アップ・ザ・ピーセズ (アヴェレイジ・ホワイト・バンド)

C1 そよ風の誘惑 (オリヴィア・ニュートン=ジョン) 🅱

C2 プリーズ・ミスター・ポストマン (カーペンターズ) 🅲

C3 ママのファンキー・ロックンロール (スージー・クアトロ)

C4 キラー・クイーン (クイーン)

C5 タッチ・ミー・イン・ザ・モーニング (ダイアナ・ロス)

C6 哀しみのソレアード (ダニエル・センタクルツ・アンサンブル)

D1 ゴッドファーザーPart II (ニーノ・ロータ)

D2 チャイナ・タウン (ジェリー・ゴールドスミス)

D3 星の王子様 (フレデリック・ロウ)

D4 タワーリング・インフェルノ」より愛のテーマ (モーリン・マクガヴァン)

D5 さようならは言わないで (グロリア・ゲイナー)

D6 エヴリシング・マスト・チェンジ (クインシー・ジョーンズ)

 

演奏: 田代ユリ (ハモンド・オルガン、シンセサイザー)/ポリドール・オーケストラ

編曲: 田代ユリ

定価: 2,500円

 

あらゆる手を尽くして歌謡曲関連のテーマを日々にあてがい、それに関連する曲が収められている歌無歌謡アルバムを紹介している(但し火曜日を除く)「黄昏みゅうぢっく」ですが、多少苦し紛れのテーマでさえ関連付けを行えなかった日が、最低2日ありました。そのうちの一つが、今日9月5日です。いや、草刈正雄とか江藤博利とか、誕生日周りで該当しそうな人がいるにはいるんですけど…ごめんなさいということで。

それでも、音楽史的には超重要人物の誕生日ではないですか。他でもない、フレディ・マーキュリーさんです。というわけで、今日は特別に「歌謡フリー番外編」ということで、クイーンの曲が取り上げられている貴重なポップス・インスト・カヴァー盤を取り上げます。

女性の電子オルガン奏者としては、高橋レナさんと並ぶ第二世代の代表的な一人、田代ユリさん。70年にはクラウンから、当時のヒット歌謡に孤軍奮闘タックルしたアルバム『恋ひとすじ~哀愁のエレクトーン・ムード』をリリースしてもいますが、それはどちらかというと異色作で、モダンなセンスを生かしたポップ・フィーリング溢れる演奏が彼女の持ち味。フュージョン全盛時を迎えてからが、寧ろ彼女の個性全開という気がしますが、ロック・ソウル系の選曲が多いこのアルバムには、その萌芽が現れています。選曲的にもこれが彼女の本音という感じ?

何せオープニングからスティーヴィー・ワンダーの超名曲3連発。冒頭2曲の曲順が逆ならば、82年のベスト・アルバム『ミュージックエイリアム』と一緒になったのに、惜しいな。オルガンに加え、シンセで鋭角的な音を出すなど、まさに翔んでるレディ全開ですが、クラヴィネットも彼女の演奏なのかな。アレンジも自ら担当しているので、その線は強いですが、エレクトーンのお嬢さんなんてイメージが粉砕されます。まじでぶっとんでる。A面後半はファンク時代のコモドアーズの曲を連発。「ダイナマイト」とされてる曲は正確にはファースト収録の “Gonna Blow Your Mind”。小学生の頃めちゃ聞いたモータウンのオムニバステープに負けていない、重量級ファンクネスで迫ってますぜ。パトリース・ラッシェンもびっくり。

ミスクレジットといえば、B面トップの「愛の炎」バリー・ホワイトの “What Am I Gonna Do With You” であることを匂わせてますが、実際はルーファスの “Once You Get Started” が演奏されており、当時の法務部大丈夫だったんですかね。めちゃファンキーなその曲に続いて、ウイングスのまさかの「ジュニアズ・ファーム」がガチで演奏され、一時的にロックモードに突入。これとかジョンの「真夜中を突っ走れ」とかがカヴァーされてると、本当小躍りしてしまいますよ。B面残りは再びモータウン~ソウル方面へ。「ホワッツ・ゴーイン・オン」も意外とクールな演奏で、変な意味でのネタにはなってません。

C面のトップは思い切りポップに振れた「そよ風の誘惑」だけど、左チャンネルに不思議なシンセのオブリガートが入っていたりして一味違う。2曲おいて今日の主題となる「キラー・クイーン」。がんばりが見えてるけど、やっぱこれは歌無歌謡テイストが強い演奏だな。逆に、この曲をそのレベルまで持っていけることが凄いなと思い知らされるが、主にその色を出してるのはブラス・セクションなのだ。計算ずくだよな…ちなみにこの曲、肝心な「作曲: フレディ・マーキュリー」のクレジットが欠けています。のちに再収録された76年4月新譜『エレクトーン・ベスト・ポップス』(MR-8233~4)でも欠けたままだし、これはクレームレベルですよ…残りは普通にポピュラーのカヴァー集といった趣き。やっぱ「哀しみのソレアード」は、いくら洗練されたアレンジを得ても別の曲を連想してしまいますな…

全曲楽譜付となってますが、手許の盤では欠けています(涙)。前述した『エレクトーン・ベスト・ポップス』に付いてる楽譜は主旋律とコードネーム(一部の曲には未記載)のみで、エレクトーン奏者に対してはその場でアレンジするための試練という感じがする…むしろそれ以外のソロ楽器奏者の方に有難いですね。クレジット周りで残念さが目立ちまくるけど、力作です。ジャケはこれですけど…