黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

ゴールデンな微睡が君の瞳を満たす

CBSソニー SONL-56002 

時には母のない子のように ーヒット・アンド・ラッシュ’69ー

発売: 1969年7月

ジャケット

A1 時には母のない子のように (カルメン・マキ)☆ 🆄

A2 港町ブルース (森進一) 🆇

A3 美しき愛の掟 (ザ・タイガース) 🅳

A4 白いブランコ (ビリー・バンバン) 🆄

A5 京都・神戸・銀座 (橋幸夫) 🅶

A6 グッド・ナイト・ベイビー (ザ・キング・トーンズ) 🅺

A7 ブルー・ライト・ヨコハマ (いしだあゆみ) 🅿︎

B1 長崎は今日も雨だった (内山田洋とクール・ファイブ) 🆁

B2 夜明けのスキャット (由紀さおり) 🆂

B3 風 (はしだのりひことシューベルツ) 🆆

B4 知らなかったの (伊東ゆかり) 🅸

B5 七色のしあわせ (ピンキーとキラーズ) 🅾

B6 初恋のひと (小川知子) 🅸

B7 ミヨちゃん (雄ちゃん・英ちゃんと良ちゃん)☆☆ 🅲

 

演奏: ゴールデン・サウンズ

編曲: 大西修、山屋清(☆)、小谷充(☆☆)

定価: 1,500円

 

3日連続で登場するゴールデン・サウンズ…と言えども、このリリースは東芝ではなくCBSソニーから。「不思議な太陽」と「涙でいいの」のちょうど中間にあたるリリースではあるけれど、両者の間で話し合いが持たれて名義を貸し出した結果か、それとも無意識でそうなったのか、はっきりわからない部分がある。東芝盤の多くでライナーを書いている浅井英雄氏がここにも駆り出されていることを考えると、無意識という可能性はちょっとあり得ないし。アレンジャークレジットにはどっちかというとソニー寄りの人選である大西修氏の名前があるが、2曲だけ例外があり、そのいずれもが自社供給曲だ。「時には母のない子のように」の大ヒットの波に乗ろうとして、オリジナルのオケを使うことに固執したソニー側が、東芝に嘆願して「1枚だけ名前貸して下さい」と申し出た、というのは考えすぎか。当時としては若い会社同士故に、そんな話し合いさえできたのかもしれないし。コロムビアやビクターが絡んだりすると、そんな話ですまなくなるのだけど。グラモフォンが「涙でいいの」のレタリングを拝借した時でさえ、東芝は黙って見てるしかなかったのだろうし(まさか)。

色々とミステリーをかき立てられるアルバムですが、まずは問題の「時には~」を聴いてみると、正真正銘のオリジナルのオケ(効果音入りアルバム・ヴァージョンではない)に、不釣り合いなサックスやギター、トランペットの演奏が被ってくる。このディレクションに山屋清氏が直接関わっている可能性は低いと思われるが、作り手の政治力なんてそんなもんだったんでしょう。このアンバランス感が滑稽でたまらないのだ。問題は続く港町ブルースからで、ソニーの若くチャレンジングなイメージから考えられない場末的な演奏は、東芝のゴールデン・サウンズの音ではあり得ず、むしろ大西氏の古巣だったコロムビアの面影が濃い。「美しき愛の掟」もサイケ色が希薄で、ドラムの打ち方などかなりの野暮さ。まだまだ手応えを掴むには程遠い、手探り状態の音がかえって哀愁を生み出すのだ。「ブルー・ライト・ヨコハマ」「夜明けのスキャットの簡素化も、どちらかというとマイナー・レーベル的感触。後者のコード・チェンジはちゃんとやっているけれど。「風」「初恋のひと」も含めて、東芝じゃOKを出さないだろうなぁ。「知らなかったの」は逆に、野暮ったさがいい方に作用していて、これは曲本来の魅力だろう。

そんな訳でこちらもヒット・ヴァージョンを東芝のドリフが出していた「ミヨちゃん」に至るが、こちらはソニーから出た競合ヴァージョンのオケをそのまま使用。唯一ストリングスが登場するアレンジで幕引きをしっかりこなしている。この「良ちゃん」が、後にワーナー・ビートニックスを手がける大野良治氏であることを知る人は少ない…色々と細かいネタを提供してくれるアルバムですね。ドリフ盤のオケを使用したヴァージョンは、一昨年4月5日紹介した「雲にのりたい/恋のなごり」に収録されていますが、確かに…東芝があのアルバムでゴールデン・サウンズ色を否定した原因がなんか解明できたような気がします…発売同時期だし…

 

というわけで火曜日を1日残してますが、歌無歌謡ブログとしての黄昏みゅうぢっくはここで一旦お開き。既に1枚、主役級のネタを温存しているとは言え、次回復活までもう少し充電時間を頂きたいと思います。ただし、恒例の聴き比べ企画とかを突発的にやったりする可能性はあります…