黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は小坂明子さんの誕生日なので

クラウン GW-3011~12

ビッグ・ヒット歌謡ベスト36 恋のアメリカン・フットボール/もう一度

発売: 1974年6月

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ジャケット

 

A1 もう一度 (小坂明子) 🅲

A2 ひと夏の経験 (山口百恵)Ⓑ 🅲

A3 薔薇の鎖 (西城秀樹)Ⓓ 🅳

A4 さらば友よ (森進一)Ⓔ 🅳→11/28

A5 バラのかげり (南沙織)Ⓖ 🅲→11/28

A6 虹の架け橋 (浅田美代子)Ⓐ 🅱

A7 夫婦鏡 (殿さまキングス)Ⓑ 🅵

A8 恋は邪魔もの (沢田研二)Ⓔ 🅴

A9 突然の愛 (あべ静江)Ⓓ 🅲→11/28

B1 恋のアメリカン・フットボール (フィンガー5)Ⓑ 🅱

B2 白い部屋 (麻丘めぐみ)Ⓔ 🅰→11/28

B3 黄色いリボン (桜田淳子)Ⓐ 🅱

B4 星に願いを (アグネス・チャン)Ⓗ 🅴

B5 恋人たちの港 (天地真理)Ⓔ 🅳

B6 別れの鐘の音 (五木ひろし)Ⓓ 🅴

B7 なみだの操 (殿さまキングス)Ⓕ 🅺

B8 学園天国 (フィンガー5)Ⓒ 🅳→12/24

B9 ひとり囃子 (小柳ルミ子)Ⓐ 🅱

C1 ふたりの急行列車 (チェリッシュ)Ⓔ 🅱→11/28

C2 うそ (中条きよし)Ⓑ 🅷

C3 わたしは旅人 (ペドロ&カプリシャス)Ⓐ

C4 闇夜の国から (井上陽水)Ⓖ 🅱→11/28

C5 若草の季節 (森昌子)Ⓓ 🅱

C6 激しい恋 (西城秀樹)Ⓔ 🅲→11/28

C7 姫鏡台 (ガロ)Ⓒ 🅳→12/24

C8 透きとおった哀しみ (あべ静江)Ⓔ 🅰→11/28

C9 灰色の瞳 (加藤登紀子長谷川きよし)Ⓐ 🅲

D1 妹 (かぐや姫)Ⓔ 🅰→11/28

D2 紅い花 (五木ひろし)Ⓑ 🅱

D3 逃避行 (麻生よう子)Ⓔ 🅰→11/28

D4 花とみつばち (郷ひろみ)Ⓗ 🅲→11/28

D5 シンデレラは6月生まれ (あいざき進也)Ⓑ

D6 告白 (野口五郎)Ⓔ 🅰→11/28

D7 しあわせの予感 (小椋ひろ子)Ⓐ

D8 花のようにひそやかに (小柳ルミ子)Ⓒ 🅲→12/24

D9 あなた (小坂明子) 🅵→11/28

演奏: 山下洋治と’74オールスターズⒶ

まぶち・ゆうじろう’68オールスターズⒷⒸ

江草啓介と’74オールスターズⒹ

いとう敏郎と’68オールスターズⒺⒻ

ありたしんたろうとニュービートⒼⒽ

編曲: 井上忠也Ⓐ、さいとう・とおるⒷⒼ、福山峯夫ⒸⒻ、新井英治Ⓓ、小杉仁三Ⓔ、青木望

定価: 3,000円

 

3000番台初期のクラウンの2枚組は、一気にライト層を狙ったというか、女の子向けのファッション雑誌のカタログページから持ってきたようなジャケ写で攻めてきてましたが、石油ショック後のイメージ刷新を図ったのでしょうか。これの選曲を全体的に見ても、森進一と殿キンを除くとそんな感じで、若返りの色を強めている。しかし、流れ出る音は今まで通り安定のクラウンサウンドだ。当然、トライデントの卓導入などで、2、3年前からは程遠い音になってはいるけれど。このブランディングこそが決め手だったんでしょうね。一部、前月発売の『妹・ふたりの急行列車』から引き継がれた曲もあるが、それでも全体の半分以下。いきいきと新曲が市場に送り込まれまくり、そんな活気を反映した選曲になっている。塩化ビニールの確保が思うようにいかないなんて、流行り歌の世界とは無縁の現象だったんでしょう。テレビがありましたからね。今はサブスクがその位置に立っているようなものですから。

いつもの顔ぶれによる安定の展開で、クリスタル・サウンズのような「次に何が出てくるか読めない」わくわくさは期待できないけれど、当時の歌謡界をクラウンの視点でどう鳥瞰したかが伝わってくるサウンド。トップとラストが小坂明子曲というのが、当時の彼女に対する期待度を物語っている。ドラマティックなピアノヴァージョンの「あなた」は前作からの引き継ぎだけど、「もう一度」の方はロマンティックなオーケストレーションにスチールが華麗に乗る。しかし、サビに行くと「裸のビーナス」(いとう版)などでおなじみのオペラティックな怪唱が独自の色を加える。タイトルフレーズだけ、言葉を歌っているのがまた不思議。ダニエル・リカーリ的な味を出しているのだろうけど、そのガチさがかえって滑稽に聴こえるのだ。「ひと夏の経験」は初々しい喪失感をサウンド面の軽量化で、見事に再現している。そこにテナー・サックスが乗ると、なんかいけないところを覗き見しているような感覚に襲われるのだ。特に2回目の「経験するのよ」でオクターブ下げて出てくるところなど、もろそれ。「薔薇の鎖」はフレッシュなピアノのタッチが、不思議とロック色を醸し出す。と思えば「夫婦鏡」は完全場末ワールドで、女性コーラスも飲み屋のねーちゃん的響き。ここからコペルニクス的に変換してしまう水谷公生&トライブヴァージョンに、次のリリースですげ替えられてしまうのは痛快だ。「恋は邪魔もの」は軽い演奏だなと思ってたら、不意打ちでシンセが登場。ちょっと前なら暴れていたかもしれないベースは、めちゃおとなしいプレイだ。B面中盤のアイドル曲連発は流石にファンシーさ足りない感があるが、「星に願いを」の「バンド・オン・ザ・ラン」的なシンセには意表を突かれた。ありたしんたろうのプレイは控えめではあるが。全体的にがんばりが伝わってくるのが江草啓介氏の演奏で、他の名義の曲のピアノでも活躍していると思われる。

ウイングスといえば「しあわせの予感」…いや、こちらは自社推し組の小椋ひろ子の曲の方。さすがに歌を抜いてしまうと印象に残りづらい。この頃の女性新人アイドルの曲って、歌無歌謡でも聴いてみたい曲がいくらでもあるから、それらを探すより実践してみたい、という気持ちに火が付くのですが。もちろん、フレッシュなプレイヤーを探してきてね。「白い羽根」とか「薔薇物語」とか「小人のひとり旅」とか…(敢えて歌手名は記しません)

今日は尾崎紀世彦さんの誕生日なので

ポリドール MR-3180

伊部晴美のゴールデン・ギター: また逢う日まで/暗い港のブルース

発売: 1971年7月

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ジャケット(裏)

A1 また逢う日まで (尾崎紀世彦) 🅲

A2 ナオミの夢 (ヘドバとダビデ) 🅲

A3 戦争を知らない子供たち (ジローズ) 🅴

A4 女のくやしさ (内山田洋とクール・ファイブ)

A5 銀座の子守唄 (にしきのあきら)

A6 クスリ・ルンバ (アントニオ・コガ)

A7 おんなの朝 (美川憲一) 🅲

A8 雨がやんだら (朝丘雪路) 🅳

B1 暗い港のブルース (ザ・キング・トーンズ)

B2 さいはて慕情 (渚ゆう子) 🅳

B3 雪が降る (アダモ) 🅱

B4 さだめのように川は流れる (杏真理子) 🅱

B5 棄てるものがあるうちはいい (北原ミレイ) 🅲

B6 ある愛の詩 (フランシス・レイ) 🅲

B7 月光仮面は誰でしょう (池田頼光・繁久)

B8 慕情 天草の女 (森進一) 🅱

演奏: 伊部晴美 (ギター)とオールスターズ

編曲: 伊部晴美

定価: 1,700円

 

あけましておめでとうございます!

特に昨年12月後半は個人的にもあまりの慌ただしさで、黄昏みゅうぢっくも予め大量に書き溜め、律儀に更新していたのですが、さすがに新年一発目はその手を使うわけにはいきません。新しい気持で臨まなきゃ、ということで。

本題に入る前に、昨年3月31日のエントリで「隠しポリシー」としたことについて、明かしても良いタイミングが来たと判断したので、明かすことにします。

実に他愛ないことですが、購入から3ヶ月以内のレコードを取り上げることはしません。それだけです。

実は12月、そのポリシーに訳あって3回ほど逆らったのですが、いずれも訳あってのことで。要するに、手に入れて間もないレコードを取り上げることは、ある意味リスクを負うことでもあり、Digする立場としてはデリケートな影響を被りかねないのです。そんなわけで、この先入手するレコードを「黄昏みゅうぢっく」で取り上げることは絶対にありません。一応、4月以降の更新については、現段階では眼中にありませんので。まぁ、それが絶対的な真実であるとは限りません、と言っておきます。

 

そんなわけで、本題に入ります。昨年のお正月も、この曲を流すことからスタートしました。名曲また逢う日までから始まる、伊部晴美御大のゴールデン・ギター・アルバム。例によって、ジャケットは陰りある印象だけどあれがばっちりのため、裏を載せますが、この写真もめちゃ風情あっていいですね。いつもの伊部サウンドに比べてカラフルな印象があるのは、原田寛治の前田憲男アレンジ作品に頻繁に登場するのと同じ響きの、女性コーラスがフィーチャーされまくっているためでしょうか。不思議なことに、ここでのドラムには寛治的なニュアンスが希薄。ただ、憲男サウンドのタッチを気に入って、アレンジャーとしての伊部さんが取り入れたという線は考えられますね。特に「女のくやしさ」ではりきりが目立ちまくり、クール・ファイブと一味違う爽やかさを与えています。最後の「わー!」が特に突き抜けている。「銀座の子守唄」でのハモリも格別。「おんなの朝」にもラブリー色が加わり、異色の出来に。なぜかエディ稲垣の「心臓破りの恋」と共通する響きもある。

通常の歌謡曲最新ヒットに加え、当時既にスタンダードの領域に入っていた「雪が降る」などのポピュラー系選曲が色を添えていますが、異色と言えるのが「クスリ・ルンバ」。歌を抜いてしまえば早い話が「コーヒー・ルンバ」そのものですが、こんなカタログソング改変が許されたのもピースフル時代の賜物でしょうか。クラウンにも歌無盤がありますが、実は未聴…2枚組の欠けている盤の方に入ってるからなのですよ(汗)。西田佐知子にリスペクトを評しての冴えたプレイがはじけまくってます。

もっと異色なのが月光仮面。当時、なぜか突然「月光仮面」ブームが再来し、モップスノベルティ・ヴァージョン(川内康範先生はめちゃ乗り気だったらしく、この話を後年の森進一が聞いたらどう思っただろうか…)が大ヒットしたのに加え、シャープ・ファイブが変名でノベルティ盤をリリースしたり、石川晶が自ら歌うマッシュアップ曲「月光仮面の妻だから」をリリース寸前まで行くも中止になったり…そしてポリドールからは、ブルーベル・シンガーズのカヴァー盤と、深夜番組でのエアプレイを目的に自主録音された学生兄弟コンビ、池田頼光・繁久による実験的インスト・ヴァージョンの2種類のシングルがリリースされました。それもあって、ここに選ばれたと思われますが、前曲ある愛の詩のスウィートなムードを打ち破るように、喧騒感たっぷりに奏でられるヴァージョンになっている。こんな妙なポジショニングに於いてさえ、決してプロ意識を緩めない御大のプレイが流石。

「さだめのように川は流れる」「棄てるものがあるうちはいい」という阿久悠のダークサイド2連発は、昨年7月18日取り上げた稲垣次郎盤と同様の現象で、制作者の波長が交錯したのだろうか。女性コーラスの響きがファンシーな要素をもたらしたのは、皮肉にも前者の方のみだった。杏真理子さんの悲痛な運命と裏腹に。そして、「また逢う日まで」はここでは明朗に、オリジナルに忠実に聴かせる。よって、「ひとりの悲しみ」の歌無盤としても聴ける(汗)。本年もこの調子で、よろしくお願いします。

今日は高木麻早さんの誕生日なので

東芝 TP-7748 

星に願いを/薔薇の鎖

発売: 1974年

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ジャケット

A1 花のようにひそやかに (小柳ルミ子) 🅳

A2 薔薇の鎖 (西城秀樹) 🅱→8/12

A3 あなた (小坂明子) 🅲→8/12

A4 しあわせの一番星 (浅田美代子) 🅲→8/12

A5 姫鏡台 (ガロ)  🅴

A6 赤ちょうちん (かぐや姫) 🅱→8/12

A7 襟裳岬 (森進一) 🅶→8/12

A8 あぶら地獄 (内田あかり)

B1 星に願いを (アグネス・チャン) 🅳

B2 バラのかげり (南沙織) 🅳

B3 こころの叫び (野口五郎) 🅲

B4 春風のいたずら (山口百恵) 🅱

B5 しのび恋 (八代亜紀) 🅳→8/12

B6 君はエンジェル (城みちる)

B7 想い出が多すぎて (高木麻早)

B8 波止場エレジー (金井克子)

 

演奏: ホット・エキスプレス

編曲: 斎藤恒夫

定価: 1,500円

 

壮大なハッタリかましとして4月スタートした「黄昏みゅうぢっく」も、なんとか更新を休むことなく(実を言うと1夜だけ、自宅以外の場所で明かした夜があったのですが、そんな遠出でなかったので、律儀に義務を果たせました)2021年いっぱい連日やり遂げることができました。このどえらい時期の中、自分内で完結する愛を放出することで、閉塞感を何とか断てはしましたが、出口は見えたようでまだまだ見えていません。あと3ヶ月の間に全てが元に戻るなんて、絶対的にあり得ないと思いますが、その間に語るべきアルバムは充分にあるので、もうしばらくお付き合いいただければ幸いです。

一年の最後に相応しく、74年のトップスターの曲が華々しく並ぶホットなアルバムを。7月16日に取り上げた『歌謡ワイドワイドスペシャル』と同じく、2016年11月28日に静岡のリサイクルショップから救い上げた3枚のアルバムの中の1枚で、これで何かが始まった色濃厚なアルバム。時期的に自分が親しみまくった曲が多かったことが、これに目が止まった最大の理由でしたが、『ワイドワイド』ほど心に訴えかける内容ではなく、ただ単に自分にとってのノスタルジアを満たしてくれる作品。サウンド的にもそこまでの小細工も、呆れるほどの場末感もなく、いい調子で耳に入ってくるし、やはり曲がいいからね。「姫鏡台」もここで思いがけず再会したことで、もっと再評価しなけりゃという気分になったし。ここではトロンボーンがソロをとるという意表を付いたアレンジで、ストリングスの響きが「ブラザー・ルイ」に通じるものがある。「あなた」「赤ちょうちん」「襟裳岬など、はまり込んでいくうちに「メロトロン幻聴曲」というレッテルが貼られることになってしまった(爆)曲とも、この盤での再会が馴れ初めだったし、逆に「あぶら地獄」(これはちゃんとリアルタイムで鮮烈に記憶してた曲!名曲)や「想い出が多すぎて」(前作「ひとりぼっちの部屋」はそれこそ、リアルタイムでレコード持ってました)など、その後入手した盤でスルーされがちな曲の存在は貴重。前者は実は「古巣リベンジ」でした(大形久仁子!)。全体を無難ながらカラフルにまとめたアレンジャーは、あの珍盤『はれんち!なんせんす』を手掛けた斎藤恒夫氏だ。両面ラストを今年亡くなった偉人の一人、川口真氏の楽曲で締め括ったところが、いかにも運命的といえそうだけど、亡くなる前から既にスケジューリングしていたので…

 

最後に、レコード大賞に負けじと、現段階までに当ブログに登場した回数が多い曲TOP20をカウントダウンして、今年の締め括りとさせていただきます。

⑱或る日突然 10ヴァージョン

白いブランコ 10ヴァージョン

よこはま・たそがれ 10ヴァージョン

⑰夜明けのスキャット 10ヴァージョン(11枚)

⑭女のみち 10ヴァージョン(12枚)

神田川 10ヴァージョン(12枚)

なみだの操 10ヴァージョン(12枚)

⑬裸のビーナス 10ヴァージョン(13枚)

⑪夜汽車 10ヴァージョン(14枚)

心もよう 10ヴァージョン(14枚)

⑧くちなしの花 11ヴァージョン(14枚)

旅の宿 11ヴァージョン(12枚)

長崎は今日も雨だった 11ヴァージョン(12枚)

⑦ひとりじゃないの 12ヴァージョン

④京のにわか雨 12ヴァージョン(14枚)

草原の輝き 12ヴァージョン(14枚)

時には母のない子のように 12ヴァージョン(14枚)

瀬戸の花嫁 13ヴァージョン

襟裳岬 13ヴァージョン(14枚)

①風 14ヴァージョン

 

それでは皆様、良いお年を…

今日はデイビー・ジョーンズ、マイク・ネスミスの誕生日なので

テイチク SL-1246 

恋のバロック・ロック 花の首飾り

発売: 1968年9月

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ジャケット

A1 花の首飾り (ザ・タイガース) 🅲

A2 恋のときめき (小川知子) 🅳

A3 ワールド (ビー・ジーズ) 🅱

A4 幻の乙女 (ザ・スウィング・ウエスト)

A5 すてきなバレリ (ザ・モンキーズ)

A6 銀河のロマンス (ザ・タイガース)

B1 白鳥の歌 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅲

B2 バラの恋人 (ザ・ワイルド・ワンズ) 

B3 恋はみずいろ (ポール・モーリア) 🅳

B4 赤い花びら (ザ・ワンダース)

B5 老人と子供 (ジョルジュ・ドルリュー)

B6 天使の誘惑 (黛ジュン) 🅲

 

演奏: ル・コンセール・デュ・アラベスク

編曲: 山倉たかし

定価: 1,500円

 

何も言わず、「12月の旅人」を偲びたい日なのに、それに相応しいレコードがない…その代わりに、同じグループにいた誕生日が同じ二人を讃えようと、このレコードを準備していたけれど、既に帰らない人になってしまったデイビーの下へと、マイクも旅に出てしまった。清々しい気分で聴けるレコードではなくなってしまったけれど、これは大切な一枚だ。

67年のGSブームが何故か向かわせることになったバロック・ロック」なるムーブメント。元はと言えば、66年にビートルズが向かっていったクラシカル指向(単に彼らの多彩な「冒険」の極一部でしかなかったのだけど)が拡大解釈されて、レフト・バンク「いとしのルネ」のようなバロック的ムードをたたえた曲が英米で続出したのに端を発したのだけど、GSに於いてはファッショナブルな意味合いでの騎士的ムードを助長する響きとして、そうした古典音楽の影響が多用されたと思われる。音楽的には、ビートルズ以上にビー・ジーズ(初期の)の影響が色濃く反映し、特にオーケストレーションの色合いにそれが顕著に見られた。加えて、バロック時代に栄えたチェンバロの再発見。これは通常の歌謡界にも及び、その音をフィーチャーしたインストアルバムも多数作られたのである。ちなみに、こちらもバロック時代の花形楽器であったリコーダーの再発見までには、さらに5年ほどの時間を要したのだが、そこまでの詳しい道のりを語る余裕はここではない。

そんなわけで、GS時代のバロックムードを要約した華々しいアルバムがこちら。アレンジを担当したのは、この音響世界を涼川真里の「愛はあなただけ」で鮮やかに応用した山倉たかし。GS及び和製ポップスを中心に、きらびやかなチェンバロの音色が冴えるセレクションとなっている。テイチクならではの「押し込みすぎ」なミックスをもう少し控えれば、繊細な響きがもっと伝わりやすくなったに違いないし、経年による盤の劣化で余計素直に聴けない状態に追い込まれてしまったけど、元の録音はもっと綺麗な音だったはずだ。「花の首飾り」「銀河のロマンス」といった曲の耽美さは言うに及ばず、本作で最も歌謡曲の本流的な「恋のときめき」は涼川サウンドそのものでニヤリとさせるし(彼女のデビューは5ヶ月先のことである)、「幻の乙女」「赤い花びら」は選曲そのものが胸熱だ。オリジナルの尊厳さをフルート無しで見事に描き切った「バラの恋人」と、ハワイアン・ムード溢れる原曲が山倉マジックで欧風中世ムードに転じた「天使の誘惑」がベストトラック。あのアタックの強い「山倉印ストリングス」もこの曲で一気に炸裂する。ここまでくると「芸術」でしょう。

最後に「すてきなバレリ」。オリジナルのルイ・シェルトンによるギターのフレーズを、チェンバロで流暢に弾き切っているのが潔いし、歌謡的水平線に乗せれば「雨の御堂筋」がその先に自然に見えてくる(この2曲を結びつけるのが言うまでもなく、ジェリー・マギーである)。元々はTVショウで1度流れた未発表曲(実質的にデイビーのソロ録音だった)をファンからのラブコールに応えて発掘してリリースした6枚目のシングルであり、アーティスティックな意味での前進に手応えを感じていたマイクはこの選択に激昂して「我々のワースト・レコードだ」とまで豪語したのに、68年10月の来日公演では悠々とこのイントロを弾いていたとか…天国で再会した二人にとっては、もうどうでもいい思い出話でしょう。残されたミッキーには、力一杯生きていて欲しいと望みます。暗雲に包まれた2021年も、あと残すところ1日。

今日は中津川みなみさんの誕生日なので

クラウン GW-8155~6 

魅惑のヒット歌謡ベスト36 魅せられた夜/モナリザの秘密

発売: 1973年12月

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ジャケット

A1 魅せられた夜 (沢田研二)Ⓐ 🅶→12/24

A2 神田川 (かぐや姫)Ⓑ 🅹

A3 心もよう (井上陽水)Ⓓ 🅷→9/24

A4 草原の輝き (アグネス・チャン)Ⓑ 🅹→10/10

A5 空いっぱいの幸せ (天地真理)Ⓐ 🅳

A6 十五夜の君 (小柳ルミ子)Ⓔ 🅱→5/2

A7 君が美しすぎて (野口五郎)Ⓑ 🅴

A8 ちぎれた愛 (西城秀樹)Ⓓ 🅱→9/24

A9 朝霧の晴れるまえに (石橋正次)Ⓐ

B1 モナリザの秘密 (郷ひろみ)Ⓐ 🅲→12/24

B2 白樺日記 (森昌子)Ⓑ 🅶

B3 愛さずにいられない (野口五郎)Ⓓ 🅰→9/24

B4 小さな恋の物語 (アグネス・チャン)Ⓐ 🅳

B5 わたしの宵待草 (浅田美代子)Ⓑ 🅲

B6 心の旅 (チューリップ)Ⓒ 🅰→5/2

B7 愛のくらし (加藤登紀子)Ⓐ

B8 記念樹 (森昌子)Ⓓ 🅱→9/24

B9 ミカンが実る頃 (藍美代子)Ⓑ 🅱

C1 みずいろの手紙 (あべ静江)Ⓑ 🅱

C2 恋の雪別れ (小柳ルミ子)Ⓐ 🅵

C3 夏色のおもいで (チューリップ)Ⓒ 🅱→6/21

C4 わかれの夜道 (三善英史)Ⓐ 🅱

C5 裸足の女王 (夏木マリ)Ⓓ 🅱→9/24

C6 わたしの彼は左きき (麻丘めぐみ)Ⓒ 🅲→5/2

C7 魅力のマーチ (郷ひろみ)Ⓑ 🅳

C8 冬の旅 (森進一)Ⓐ 🅴

C9 胸いっぱいの悲しみ (沢田研二)Ⓑ 🅷→10/10

D1 アルプスの少女 (麻丘めぐみ)Ⓐ 🅳

D2 ロマンス (ガロ)Ⓑ 🅳

D3 一枚の楽譜 (ガロ)Ⓒ 🅲→6/21

D4 夢の世界に帰りたい (中津川みなみ)

D5 コーヒーショップで (あべ静江)Ⓔ 🅰→5/2

D6 白いギター (チェリッシュ)Ⓑ 🅷

D7 風の慕情 (奥村チヨ)Ⓓ 🅰→9/24

D8 色づく街 (南沙織)Ⓑ 🅶

D9 ひとかけらの純情 (南沙織)Ⓐ 🅴

 

演奏: まぶち・ゆうじろう’68オールスターズⒶ

いとう敏郎と’68オールスターズⒷ

ありたしんたろうとニュービートⒸ

まぶち/いとう/ありた’68オールスターズⒹ

栗林稔と彼のグループⒺ

編曲: 福山峯夫ⒶⒷⒹ、青木望小杉仁三Ⓔ

定価: 2,400円

 

クラウンの歌無盤をつぶさに聴いていると、自社推し組以外にもあっと驚く歌手のまさかな曲が選択されているのに驚愕することがよくありますが、さすがに「中津川みなみ」にはびっくらこきました。「夢の世界に帰りたい」オリコン48位にまで達しているので、結構なヒットになったのは確かだけど、自分にとってはリアルタイムでの記憶にないし。2004年に『テイチク70sアイドル・コレクション』の編纂に関わった時、この曲を選曲したのだが、肝心の彼女のプロフィールを調べるのに限界があり、今となっては反省しかない。あれから20年近くの間にネット社会も様変わりして、何とか彼女のプロフィールに辿り着けた。54年12月29日、神奈川県生まれ。

そんなわけで、この貴重な曲を含むこのアルバムを、一旦この日にスケジューリングしたのだが、彼女よりちょうど2歳年上の浜田省吾の曲が入っている歌無アルバムが手元に巡ってきて、そっちの方が重要じゃんと一旦スクラップしたのだ。その矢先、12月5日に取り上げるつもりだった作品にとんでもない欠陥が発覚…結果、その浜省曲入りアルバムを繰り上げて、目出度く今日は中津川みなみさんを讃える日になりました。一件落着。こういう練り直しのプロセスがスリリングなのです、黄昏みゅうぢっくは。

前置きが長くなったが、恒例のクラウン特有現象により、既に語ったファクターがいっぱいである。8000番台最後の1セットということで、黄金ラインナップに特化。それぞれの既発アルバムからの選曲に加え、9月24日に取り上げた3大巨頭揃い踏みアルバムからも6曲が選ばれている。今回初めて出てくるのは主にまぶち・いとう盤からの選曲だけど、何せ競合ヴァージョンに強力なものが溢れていた時期故に、改めてクラウンの強みを感じさせるテイクが多い。録音も一気にシャープさを増して、従来より重厚に迫っているのだ。神田川は自社を真剣に潤わせた曲故、様々なヴァージョンが残されているが、いとう敏郎盤は特にムーディさを際立たせた出来で、何故か使われたコルネット・ヴァイオリンが意外にはまっている。「わたしの宵待草」「ミカンが実る頃」はやはり他社のリコーダー・ヴァージョンに負けるけど、両方ともムーディにこなしているし、フルートがさりげなくラブリーさを強調していて悪くない。ニュービート曲はメロトロン全開の「夏色のおもいで」「一枚の楽譜」が選ばれているので、さりげないカラーの変更に一役買っている感じだが、全体的にパーセンテージが少ないので寂しい気も。「アルプスの少女」はやっぱり残念賞もの…この曲に勝つのは難しいのかな。「ひとかけらの純情」はそんなことないのに。「色づく街」はいとう敏郎にしては珍しく、エフェクトを派手にかまして、比較的がんばっているヴァージョン。問題の「夢の世界に帰りたい」は、取り上げられただけでも快挙、それでおしまい。

歌謡フリー火曜日その38: 一旦お開き

キング SKK-607

夢みる人/ギター合奏ファミリー・コンサート

発売: 1970年   

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ジャケット

A1 夢みる人Ⓐ

A2 花 (滝廉太郎)Ⓐ 🅵

A3 セレナーデ (シューベルト)Ⓑ

A4 舟唄Ⓒ

A5 久しき昔Ⓐ

A6 子守歌 (タウベルト)Ⓑ

A7 望郷Ⓐ

B1 楽しき農夫Ⓑ

B2 雪山讃歌

B3 子守歌 (フリース)Ⓑ

B4 村の娘Ⓑ

B5 旅愁

B6 故郷を離るる歌Ⓑ

 

演奏: ザ・ドリマーズ

編曲: 新堀美根子Ⓐ、新堀寛己Ⓑ、宮島寅次Ⓒ、菊地俊一Ⓓ

定価: 1,500円

 

突然ですが…

歌無歌謡ブログに多少の彩りを、ということで毎週火曜日にお送りしてまいりました「歌謡フリー火曜日」は、今回をもって一旦お開きとすることになりました。ブログの構想を開始した時は、52週分充分ネタを用意できていたのですが、ブログ開始以降もコンスタントに歌無歌謡ネタが増え続け、歌無歌謡ではないレコード以上に語るべきネタに恵まれすぎたからというのが、その最大の理由です。些細なポピュラー盤でさえ、語る価値を見出したいという個人的な気持をスポイルするのもなんなのですが、それだけ歌無歌謡が深すぎるからしょうがありません。

と言いつつ、語り損ねた14枚以上のネタに触れる機会が完全に失われたとは敢えて言いませんので、今後3ヶ月間の黄昏みゅうぢっくの行方を見守っていただければ幸いです。来週からは、火曜日も通常のテーマに基づいた歌無歌謡盤語りに専念したいと思います。

 

最後に相応しく、まったり聴けるレコードを。「日本のメロディー」と称して、童謡・唱歌の類を取り上げたレコードを何枚か紹介しましたが、なら「世界のメロディー」があっちゃいけないのか?セミクラシックと言ってしまえばおしまいですが、普通にオーケストラやソロ楽器で演奏した盤じゃなければ、別にいいじゃないですか。というわけで、おなじみ「新堀ギター音楽院」の門下生により結成された女性だけのギター・アンサンブルが奏でる、世界の愛唱歌セレクションがこれ。

ギター合奏関連のインスト盤というと、普通に売られているレコードよりも、所謂「身内音楽」に属するものの方に遥かに愛着を感じていて、中でも宮城県の某女子高ギター部が79年に行ったリサイタルの模様を記録した『龍宮城』は愛しすぎる名盤。ゲストのフルート奏者(女子ではない)を招いたバッハ曲のガチな演奏もあるが、大半はポピュラー系の曲を力を込めて演奏していて、中でも「ヘイ・ジュード」が最高すぎ。律儀なアンサンブルをより突っ走らせるドタドタしたドラムといい、エンディングでの大斉唱といい、瑞々しすぎて抱きしめたくなる(汗)。さだまさしの「天までとどけ」が演奏される中行われる、リサイタルならではのまさかのパフォーマンス(?)も聴きものだし。この前年のリサイタル盤で聴けるサンタナの「哀愁のヨーロッパ」も熱すぎる、テヘペロなプレイに何かがほとばしらずにいられなくなる(瀧汗)。まぁ、ギターや吹奏楽、さらには合唱ものより、愛しいやつは当然ありますけどね(撃沈)。

めちゃ話が逸れたけど、このレコードの響きは当然そんなもんじゃない。みっちり専門教育を受けた奏者たちの瑞々しい演奏が、メジャーならではの音できちんと記録されている。女性だけの演奏らしい優しい響きが随所に聴かれるし、B面では通常のギターに音域的改良を加えた特殊な楽器を導入して、幅広い音域でのアンサンブルが展開されている。他の楽器の音さえ幻聴しそうだ。ギターの響きって、何故ここまでにも心の奥まで揺さぶるのだろうか…木村好夫こそ全てなんて言ってられない、こういう世界に立ち戻ってみなきゃいけない。「舟唄」「望郷」旅愁も、歌謡曲よりこちらの方が、当然「初めにありき」だ。

今日は加藤登紀子さんの誕生日なので

クラウン GW-5140

魅惑のヒット歌謡16集 女のブルース

発売: 1970年4月

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ジャケット

A1 恋ひとすじ (森進一)Ⓐ 🅵

A2 女のブルース (藤圭子)Ⓑ 🅶

A3 恋人 (森山良子)Ⓓ 🅶

A4 恋狂い (奥村チヨ)Ⓐ 🅲

A5 白い鳥にのって (はしだのりひことシューベルツ)Ⓑ 🅱

A6 国際線待合室 (青江三奈)Ⓔ 🅳

A7 あなたならどうする (いしだあゆみ)Ⓐ 🅴

A8 帰りたい帰れない (加藤登紀子)

B1 白い蝶のサンバ (森山加代子)Ⓐ 🅴

B2 女の子 (メチャ&ベチャ)Ⓑ

B3 私が死んだら (弘田三枝子)Ⓓ 🅲

B4 愛の美学 (ピーター)Ⓐ 🅲

B5 生まれかわれるものならば (じゅん&ネネ)Ⓑ

B6 大阪の夜 (美川憲一)Ⓔ

B7 土曜の夜何かが起きる (黛ジュン)Ⓐ 🅳

B8 花のように (ベッツイ&クリス)Ⓒ 🅳

 

演奏: まぶち・ゆうじろう’68オールスターズⒶ

山下洋治と’68オールスターズⒷⒸ

いとう敏郎と’68オールスターズⒹ

あらおまさのぶと’68オールスターズⒺ

編曲: 福山峯夫ⒶⒸⒹⒺ、小杉仁三Ⓑ

定価: 1,500円

 

ポール・マッカートニービートルズ脱退宣言という、音楽史に残る転換期となった70年4月を彩った歌謡名曲集。例によってクラウンの主役級総出(ありたしんたろうとニュービートは、まだここに食い込むには新参勢力すぎた)で畳みかけてきますが、かえって安定の色があり、この激動期を伝えてくれるにはちょうどいい。様々な歌無盤が市場に溢れていたけれど、最も美味しいつまみ食いができたシリーズに違いない。それに相応しいジャケットも用意してくれてるし(汗)。

76年以降の歌無盤では「昔の名前で出ています」の人というイメージしか浮かばない(爆)小杉仁三氏だが、当時のクラウンの通常歌謡では大車輪の活躍を見せており、ここでも辛うじて4曲、福山峯夫氏の領域に食い込んでいる。重厚な「女のブルース」と比較して、フォーク系ノベルティソング「女の子」では軽いタッチ。この曲を選んだところがクラウンの意地という感じだけど、正直な話、初期パナムレーベルは興味深いリリースが多くて、アンソロジーのリリースを切望している。この曲の極一部、ジョージ・ハリスン的なコード使いが出てくるところとか、ほんとたまりませんね。「生まれかわれるものならば」は、2年後にいしだあゆみが同名の曲をリリースしており、歌無歌謡界で最も長い「タイトル被り」の例になっている。どっちかというとテイチク的なサウンドですね、これは。

あと、ウクレレとエーメンブレイクが出会う「白い鳥のように」を加えたこれら4曲を除くと、例によってこの頃のクラウン特有の場末ノリに覆われており、昭和喫茶の雰囲気が充満。やはり「土曜の夜何かが起きる」が傑出した出来。この曲はどう料理しようが、「正解」になってしまうようだ。「帰りたい帰れない」のクラシカルなムードもいいけど、個人的には加藤登紀子曲のインスト盤の極め付けは、トイ・マジック・オーケストラの「時には昔の話をってことになりますね(汗…これを出したのも、実はクラウン)。ユニオン盤の「知床旅情」と違った意味で、ね。