黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日はデイビー・ジョーンズ、マイク・ネスミスの誕生日なので

テイチク SL-1246 

恋のバロック・ロック 花の首飾り

発売: 1968年9月

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ジャケット

A1 花の首飾り (ザ・タイガース) 🅲

A2 恋のときめき (小川知子) 🅳

A3 ワールド (ビー・ジーズ) 🅱

A4 幻の乙女 (ザ・スウィング・ウエスト)

A5 すてきなバレリ (ザ・モンキーズ)

A6 銀河のロマンス (ザ・タイガース)

B1 白鳥の歌 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅲

B2 バラの恋人 (ザ・ワイルド・ワンズ) 

B3 恋はみずいろ (ポール・モーリア) 🅳

B4 赤い花びら (ザ・ワンダース)

B5 老人と子供 (ジョルジュ・ドルリュー)

B6 天使の誘惑 (黛ジュン) 🅲

 

演奏: ル・コンセール・デュ・アラベスク

編曲: 山倉たかし

定価: 1,500円

 

何も言わず、「12月の旅人」を偲びたい日なのに、それに相応しいレコードがない…その代わりに、同じグループにいた誕生日が同じ二人を讃えようと、このレコードを準備していたけれど、既に帰らない人になってしまったデイビーの下へと、マイクも旅に出てしまった。清々しい気分で聴けるレコードではなくなってしまったけれど、これは大切な一枚だ。

67年のGSブームが何故か向かわせることになったバロック・ロック」なるムーブメント。元はと言えば、66年にビートルズが向かっていったクラシカル指向(単に彼らの多彩な「冒険」の極一部でしかなかったのだけど)が拡大解釈されて、レフト・バンク「いとしのルネ」のようなバロック的ムードをたたえた曲が英米で続出したのに端を発したのだけど、GSに於いてはファッショナブルな意味合いでの騎士的ムードを助長する響きとして、そうした古典音楽の影響が多用されたと思われる。音楽的には、ビートルズ以上にビー・ジーズ(初期の)の影響が色濃く反映し、特にオーケストレーションの色合いにそれが顕著に見られた。加えて、バロック時代に栄えたチェンバロの再発見。これは通常の歌謡界にも及び、その音をフィーチャーしたインストアルバムも多数作られたのである。ちなみに、こちらもバロック時代の花形楽器であったリコーダーの再発見までには、さらに5年ほどの時間を要したのだが、そこまでの詳しい道のりを語る余裕はここではない。

そんなわけで、GS時代のバロックムードを要約した華々しいアルバムがこちら。アレンジを担当したのは、この音響世界を涼川真里の「愛はあなただけ」で鮮やかに応用した山倉たかし。GS及び和製ポップスを中心に、きらびやかなチェンバロの音色が冴えるセレクションとなっている。テイチクならではの「押し込みすぎ」なミックスをもう少し控えれば、繊細な響きがもっと伝わりやすくなったに違いないし、経年による盤の劣化で余計素直に聴けない状態に追い込まれてしまったけど、元の録音はもっと綺麗な音だったはずだ。「花の首飾り」「銀河のロマンス」といった曲の耽美さは言うに及ばず、本作で最も歌謡曲の本流的な「恋のときめき」は涼川サウンドそのものでニヤリとさせるし(彼女のデビューは5ヶ月先のことである)、「幻の乙女」「赤い花びら」は選曲そのものが胸熱だ。オリジナルの尊厳さをフルート無しで見事に描き切った「バラの恋人」と、ハワイアン・ムード溢れる原曲が山倉マジックで欧風中世ムードに転じた「天使の誘惑」がベストトラック。あのアタックの強い「山倉印ストリングス」もこの曲で一気に炸裂する。ここまでくると「芸術」でしょう。

最後に「すてきなバレリ」。オリジナルのルイ・シェルトンによるギターのフレーズを、チェンバロで流暢に弾き切っているのが潔いし、歌謡的水平線に乗せれば「雨の御堂筋」がその先に自然に見えてくる(この2曲を結びつけるのが言うまでもなく、ジェリー・マギーである)。元々はTVショウで1度流れた未発表曲(実質的にデイビーのソロ録音だった)をファンからのラブコールに応えて発掘してリリースした6枚目のシングルであり、アーティスティックな意味での前進に手応えを感じていたマイクはこの選択に激昂して「我々のワースト・レコードだ」とまで豪語したのに、68年10月の来日公演では悠々とこのイントロを弾いていたとか…天国で再会した二人にとっては、もうどうでもいい思い出話でしょう。残されたミッキーには、力一杯生きていて欲しいと望みます。暗雲に包まれた2021年も、あと残すところ1日。