黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は中村晃子さんの誕生日なので

CBSソニー 20AH-1038

最新ヒット歌謡ベスト18

発売: 1980年

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ジャケット

A1 さよならの向う側 (山口百恵)

A2 狂った果実 (アリス)

A3 トゥナイト (シャネルズ)

A4 哀愁でいと (田原俊彦)

A5 心のかたち (海援隊)

A6 Yes・No (オフコース) 🅱

A7 ダンシング・オールナイト (もんた&ブラザーズ) 🅱

A8 青い珊瑚礁 (松田聖子)

A9 RIDE ON TIME (山下達郎) 🅱

B1 ロックンロール・ウィドウ (山口百恵)

B2 恋の綱わたり (中村晃子)

B3 夜明けのタンゴ (松坂慶子)

B4 別れても好きな人 (ロス・インディオス&シルヴィア) 🅱

B5 昴 (谷村新司)

B6 雨の慕情 (八代亜紀)

B7 酒は男の子守唄 (渡哲也)

B8 俺たちの時代 (西城秀樹)

B9 ふたりはひとり (小林幸子)

演奏: クリスタル・サウンズ・オーケストラ

編曲: 無記名

定価: 2,000円

 

本当は「虹色の湖」とか、60年代の曲が入った盤を持ってきたかったんですけど…生憎手許になかったんですよね。時期的にも入手し辛いものが多いし。吉岡ファミリーが演奏する「涙の森の物語」が入った4曲入りの盤は持ってるのに。というわけで、復活ヒット「恋の綱わたり」をフィーチャーした80年の盤を。

80年代に入ると、クリスタル・サウンズの活動はカラオケの方に完全シフトしていた影響か、名義に「オーケストラ」を追加。70年代の軽量な音が嘘のような、サウンド全体を時流に近づける方向に転換しているが、時折発表される「純演奏盤」を聴くとやはり、この団体の演奏にはカラーがあるのだなと思わされる。80年後半のヒット曲を集めたこの盤もしかり。

1曲目から百恵さんの花道といえるラスト・シングル(その後の「一恵」は、あくまでもパーソナルなものとして捉えるべきかも)「さよならの向う側」。ポジショニング的には相応しくなさそうな曲調だが、ドラマティック演出としてはむしろトップの方が効果的かも。6分近いフルコーラス演奏を一人で先導するフルートの演奏が素晴らしすぎる。まるで音大を卒業する乙女の花道のような、初々しさと潔い決意が同居したような音色が、曲の主題を感動的に、言葉も無しに描き切る。最後の方で低い音混じりになるところなんて、感涙に咽びながら吹いているのが伝わってくるような…我が歌無歌謡レコード大賞、フルート部門金賞を与えたくなる名演。ただ、片面に37分近く入れる無茶振りがたたったのか、本来の音質で鳴っているとはとても思えない。

他の曲も、カラオケ対応のガチなバッキングに支えられ、フレッシュな演奏を主旋律にフィーチャーした曲が多く、小林幸子さんが「おもいで酒のイントロのギターは、大学生のバイト」と語っていたのに近いケースなのかもと妄想したり。狂った果実もトランペット2台のデュオでさりげなく聴かせるし、多くの曲で暗躍するコーラスも、職人芸的響きは希薄。色々と期待を抱かせるRIDE ON TIMEは完全にこけているが…しょうがないですよ。「恋の綱わたり」は一聴してリコーダーかと思わせる高音のフルートが艶かしく誘惑するが、「さよならの向う側」の演奏とカラーが違うので、別の人でしょう。「別れても好きな人」は、なんとパープル・シャドウズ盤を基調にしたシャッフル気味の演奏で、この盤では意表を突いてきた1曲。

問題作という点では「昴」にとどめを刺す。重厚なイントロと裏腹に、軽めの音のシンセがメロディーを奏で始め、重量感はどこへやら。2コーラス目の後半から、勇敢なコーラスが入ってきて曲に威厳を与えようとするが、それさえも滑稽に聴こえる。これが74年であれば、このコーラスを確実にメロトロンで再現したはずだ…そして、最強のヴァージョンに仕立て上げたはずなのに…

フリッパーズ・ギターを始め、音楽界に数々のランドマークを打ち立てたポリスターの第一回発売新譜として、記念碑的なこの曲でラストを飾って欲しかったという気もする。その後演歌3曲と、その間に挟み込まれた秀樹の曲があくまでもサービスとしか思えない。「俺たちの時代」のフルートは確実に「さよならの向う側」と同じ人の演奏で、秀樹が好きすぎて萎縮してるような音色に萌えるのだが…特にタイトルフレーズの超高音とか。なお、カセットは4曲多く、22曲収録で発売されている(やはり、CD1枚には入りきらない)。*2月3日修正追記