黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1975年、今日の1位は「私鉄沿線」(3週目)

CBSソニー SOLU-36

歌謡ワイド・スペシャ

発売: 1975年4月

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ジャケット

A1 湖の決心 (山口百恵)Ⓐ 🅴

A2 少女恋唄 (浅田美代子)Ⓑ

A3 哀愁のレイン・レイン (チェリッシュ)Ⓐ 🅳

A4 水色のページ (麻丘めぐみ)Ⓐ

A5 哀恋記 (五木ひろし)Ⓑ 🅲

A6 おんなの夢 (八代亜紀)Ⓑ 🅱

A7 火遊び (中条きよし)Ⓑ 🅱

A8 私鉄沿線 (野口五郎) 🅳

B1 白い部屋 (沢田研二)Ⓐ 🅲

B2 黄昏の街 (小柳ルミ子)Ⓐ 🅲

B3 ひとり歩き (桜田淳子)Ⓑ 🅳

B4 愛は手さぐり (麻生よう子)Ⓑ

B5 湯けむりの町 (森進一)Ⓑ 🅲

B6 この愛のときめき (西城秀樹)Ⓐ 🅳

B7 浮草の宿 (殿さまキングス)Ⓐ 🅲

B8 愛のアルバム (天地真理)Ⓑ 🅲

 

演奏: クリスタル・サウンズ

編曲: 矢野立美Ⓐ、渡辺博史

定価: 1,500円

 

昨日誕生日を祝えなかったので、今日も五郎を称えるチャンス…本当、新御三家の中では、姉が夢中になっていたおかげで距離感が一番近かったような気がします。こんな日に引っ張り出したのが、恐らくクリスタル・サウンズのアルバムの中では傑作ベスト3に確実に入るのではと思われるこの作品。例によってタイトルは全部同じだし、番号で語るのもややこしいので(これについては、別の回に譲るとします)、さしずめ「ピンクの乙女アルバム」とでも…いや、これはオープニングを飾る「湖の決心」がとにかく素晴らしいので、「湖の決心アルバム」でいいような気がします(FC盤とか、このヴァージョンを収録した盤は他にもあるに違いないですが)。

オリジナル通りリリカルに始まり、リードメロディは(恐らく)ヴィオラで奏でられている。そこにファンシーな彩りをフルートとヴァイブが加える傍で、どこからともなく「あの音」が歩み寄ってくる…Bメロに入ると、イントロを奏でたマンドリンと、ちょっとぶきっちょなハーモニカが絡み合う中、「あの音」が存在感を増し、背後にそびえ立つのだ。そう、あの音の正体はメロトロンコーラスだった!フルートのグリッサンドを合図に、あの音の壁が崩れ去り、取り残されたハーモニカが寂しくうごめく。見事すぎるドラマだ。特に、なんかいやいや吹いてそうなハーモニカの表情がものすごく乙女っぽくて、原色の恥じらいを感じさせる。百恵の曲の歌無盤中、ここまで見事な出来を示したものは、同じくクリスタルの「さよならの向う側」を除くと他にない。

続く「少女恋唄」浅田美代子が和風乙女ぶりを示した新機軸曲で、他社ではあまり取り上げられていないが、リヴァーブが強くかけられたヴァイオリンが思わずメロトロンかと幻聴を促す、ロマンティックな演奏ぶり。2コーラス目では、「わたしの宵待草」から格段に大人になった印象のリコーダーが誘惑する。めちゃいい曲だ。リアルタイムでは「姫鏡台」や「恋の大予言」と同様、相当戸惑った記憶があるけど。このロマンティシズムから、「哀愁のレイン・レイン」で一気に軽いムードに。Bメロ以降メランコリックな側面を強調するのは、再度登場のリコーダーだ。アルト2本でデュエットしているが、Bメロ後半以降の音色が特に魅力的。違う感触の笛が2本、ユニゾンで奏でられると意外にいい効果をもたらすのだ。

冒頭3曲が鮮やかすぎて、あとの展開はいまいち地味に感じるけど、「哀恋記」の不思議とロッキンなムード(森ミドリ盤の「愛さずにいられない」に近い感じ)や、「私鉄沿線」のこなしぶりなど、クリスタルにしては意外に硬派な面を感じさせる展開があったり、「白い部屋」にまたまたメロトロンが登場したり、「ひとり歩き」のイントロが他社に負けないストレンジさをシンセで醸し出していたり、聴きどころが多い。リヴァーブ処理のおかげでドラマティック度を高めているのも、クリスタルとしては異色だ。さらに、「白い部屋」「ひとり歩き」のそれぞれ同名異曲を歌った歌手の曲も揃って選曲されているのも面白い。後者なんて背中合わせでややこしくなる…「愛のアルバム」のフルートを聴くと、リコーダーもこの人の演奏なのかなと勝手に憶測させてくれる、そんな音色なんですよね。