黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

梅宮辰夫さんの誕生日は3月11日

テイチク SL-1319

京琴が奏でる 番長ブルース

発売: 1970年6月

ジャケット

A1 番長ブルース (梅宮辰夫)

A2 網走番外地 (高倉健)

A3 番長数え歌 (梅宮辰夫)

A4 唐獅子牡丹 (高倉健) 🅳

A5 番長小唄 (梅宮辰夫)

A6 関東流れもん (田端義夫)

A7 番長新宿仁義 (梅宮辰夫)

B1 極道ブルース (若山富三郎)

B2 極道子守唄 (若山富三郎)

B3 極道エレジー (若山富三郎)

B4 極道坊主 (若山富三郎)

B5 全極連ブルース (若山富三郎)

B6 極道渡世人 (若山富三郎)

B7 諸行無常 (若山富三郎)

 

演奏: 山内喜美子 (京琴)/セレクト・サムズ

編曲: 山倉たかし

定価: 1,500円

 

トレンディな歌謡曲であれば、いかなる方向性をも模索できる歌無レコード世界であるが、このアルバムほど「サグ」な1枚は他にないだろう。なんたって、辰兄ィと富三郎のゴールデン・カップリングである。いずれも当時テイチクにレコードを残していたから、不自然な流れではないのだけど、本人の強烈な存在感を消去してその世界をサウンドトラック化するというのは、並でない冒険精神を要求する行為だ。単なる癒し系BGMになっちゃいけない、かといって血の色を充満させる音楽になってもいけない。

そんな盤に起用されたのは案の定、女番長・山内喜美子だ。そのおしとやかな指業は、いかなる世界をも天然色に染め上げる。そして、演出を買って出たのは音の魔術師・山倉たかしだ。セレクト・サムズというバンド名は、当然その場の成り行きで付けたのだろうけど…上級の親指、ということはもろアレですか…

A面は辰っつぁんサイド、というよりその合間に古来の極道クラシックを挟む構成になっている。ちなみに「シンボルロック」は本盤の4ヶ月後リリースのため、当然選ばれていない(爆)。山内さんがどんな仕打ちをするか、聴いてみたかったものだが。最初の1音から凄みに凄むが、その裏に清涼感が潜んでいるのは彼女の為せる技。山倉サウンドも、「恋のバロック・ロック」で全開したチェンバロをフルに使い、クラシカルかつヘヴィという特殊な響きだ。クラシカル・エレガンスな色を帯びた網走番外地なんて、他のどこで聴けるか。時折息吹きまでも聞こえてくる超オンマイクな京琴の響きに、余計殺伐としたムードが浮かび上がる。

B面は曲名からして「極道」オンパレード。でも、この演奏だけ聴いていると、若山富三郎の顔が浮かんでくることはない。やはり歌手としてのイメージが希薄だからだろうか。洗練された山倉サウンドの魔術で、一種の優しささえ浮かび上がってくる。「極悪坊主」(この盤でのタイトルは意図的ミスクレジット、だろう)なんて、ブルースとしてかなり上出来だし、「極道渡世人も山倉節全開で快調。最も異色なのは諸行無常だが、これは山上路夫村井邦彦コンビの作品(!)。ピーター的な世界観、ちょっとサイケなタッチも加わり、この物語に絶妙のフィナーレを添えている。