黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日はいしだあゆみさんの誕生日なので

テイチク ST-195~6

コンピューターが選んだヒット歌謡ベスト・24

発売: 1969年

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ジャケット

A1 天使のスキャット (由紀さおり)Ⓐ 🅲

A2 山羊にひかれて (カルメン・マキ)Ⓑ 🅴

A3 雲にのりたい (黛ジュン)Ⓒ 🅶

A4 七色のしあわせ (ピンキーとキラーズ)Ⓔ 🅶

A5 恋の奴隷 (奥村チヨ)Ⓕ 🅲→1/18

A6 君は心の妻だから (鶴岡雅義と東京ロマンチカ)Ⓖ 🅸→3/10

B1 禁じられた恋 (森山良子)Ⓑ 🅺

B2 或る日突然 (トワ・エ・モワ)Ⓓ 🅾

B3 港町ブルース (森進一)Ⓘ 🅳→6/9

B4 さすらい人の子守唄 (はしだのりひことシューベルツ)Ⓕ 🅵→1/18

B5 長崎は今日も雨だった (内山田洋とクール・ファイブ)Ⓗ 🅼→3/10

B6 粋なうわさ (ヒデとロザンナ)Ⓔ 🅵

C1 夜明けのスキャット (由紀さおり)Ⓘ 🅼

C2 おんな (森進一)Ⓑ 🅴

C3 愛して愛して (伊東ゆかり)Ⓒ 🅷

C4 涙の中を歩いてる (いしだあゆみ) 🅷

C5 涙の季節 (ピンキーとキラーズ)Ⓕ 🅵

C6 時には母のない子のように (カルメン・マキ)Ⓗ 🅽→3/10

D1 ブルー・ライト・ヨコハマ (いしだあゆみ) 🅶

D2 大空の彼方 (加山雄三)Ⓓ 🅴

D3 フランシーヌの場合 (新谷のり子)Ⓐ 🅵

D4 知らなかったの (伊東ゆかり)Ⓕ 🅲

D5 星空のひとよ (鶴岡雅義と東京ロマンチカ)Ⓗ 🅰→3/10

D6 グッド・ナイト・ベイビー (ザ・キング・トーンズ)Ⓔ 🅵

 

演奏: 松浦ヤスノブ (テナー・サックス)/テイチク・レコーディング・オーケストラⒶ

カンノ・トオル (ギター)/テイチク・ニュー・サウンズ・オーケストラⒷ

有馬徹とノーチェ・クバーナⒸⒹ

バッキー白片とアロハ・ハワイアンズ

藤田都志 (第一琴)/久保茂、上参郷輝美枝 (第二琴)/山内喜美子 (京琴)/杵屋定之丞、杵屋定二 (三味線)/テイチク・レコーディング・オーケストラⒻ

鶴岡雅義 (レキント・ギター)/テイチク・レコーディング・オーケストラⒼⒽ

松浦ヤスノブ (テナー・サックス)/ユニオン・コンサート・オーケストラⒾ

編曲: 山倉たかしⒶⒽⒾ、福島正二ⒷⒼ、小泉宏Ⓒ、今泉俊昭Ⓓ、バッキー白片Ⓔ、山田栄一

定価: 2,400円

 

1969年当時の「コンピューター」のイメージとは…当然、自分が今叩いているノートパソコンとは全然規模的に違うし、当時既にそのメカニカルな機能を活かした電子音響作品が、現代音楽の分野で作られてはいたものの、決して人の耳に快適に響くものではなかった。ましてや、人間の生活を脅かすほどの存在になるなんて誰が思ったのか…ただ単に、文明の利器でさえない、「夢の機械」でしかなかった頃だ。大阪万博を翌年に控えた1969年、テイチクは大胆にも、そんな夢の機械に歌無歌謡アルバムの選曲を任せてしまった。その年を代表する曲のレコード売り上げとかラジオリクエストとか、その他諸々の要素をなんとなく打ち込んで、吐き出されたのがこの24曲、と思われる。人為的な贔屓目とか恐らくなし。「こんなにこんなに愛してる」が収録されるはずもない。入ってたとしたら、24年後の自分が介入してバグらせたせいだ(爆)。もっとも、曲順とかヴァージョン選択とかは、人がやったとしか思えないのだが。それなりに面白い構成が取られているからだ。

全て、69年にリリースされた歌無アルバムからの寄せ集めではあるが、既にここで紹介した盤は『琴と三味線による おんな』と『鶴岡雅義 魅惑のレキント・ギター/星空のひとよ』から、それぞれ2曲と4曲選ばれているのみ。「山羊にひかれて」は、演奏者とアレンジャーが同じとはいえ『フォーク歌謡ベスト12』とヴァージョンが違い、より「こんなにこんなに愛してる」的なサウンドになっている(やはり同じミュージシャンを使うと、印象が似るものだろうか)。かと思えば、港町ブルースは、オーケストラ名義が違うものの、6月9日に紹介した同名アルバムと同じ演奏であり、これは単にコピペミスか。それだけ、テイチクの層が厚すぎたのか、この時期でさえ月に4~5枚のペースで歌無盤を出してましたからね。片面に6曲しか入れない制作ポリシーを有難がらない人もいますけど、その分音質的不満がなくなることを、メリットと思わなかったんでしょうか(もっとも、マスタリングの段階で押し込み気味の音作りは、テイチクの短所と思われても不思議ではない気もしますが)。A面なんて18分強しか演奏時間がないのに、クリスタル・サウンズでさえあり得ない程内周ギリギリまで溝を切ってますしね。

コンピューター任せにしたにしては、1曲目の「天使のスキャットが弱いという印象が拭えないけど、山倉マジックが堪能できるという意味ではこの配置は成功。エレガント性と通俗性が、いいバランスで融合した名演。

「夜明けのスキャットの方は、6月9日に紹介した盤と別のテイクで、こちらの方が「こんなにこんなに愛してる」へと直結する要素が強いアレンジ。同ヴァージョンとはエンディングのフレーズが共通している。先の「山羊にひかれて」を経て、「雲にのりたい」でハッとなる。ここに選ばれたノーチェ・クバーナの演奏(SL-1287『歌のない歌謡曲ベスト・ヒット12/恋の奴隷』からの抜粋)は、どれもグイグイ来る、ジャズ・ファンクの真髄的サウンド「愛して愛して」なんて、同曲のイメージを覆すヒップさに彩られている。それ以前のラテン色濃厚グルーヴとも、「メタル・グゥルー」のぬるぬる維持中サウンドとも全然違う。いい感じで「脱・山倉」を体現した名演ばかりだ。これ、盤そのものは相当高くなってるかもしれないな…。バッキー白片のハワイアン・サウンドはいつものような安定ぶりで、本当はもっと深く掘り下げたいところだけど、ムフフですよ(謎)。「七色のしあわせ」のエンディングなんか、実にキュートだ。そこから純和風サウンドに落とすところも。この凸凹加減が、テイチクの冒険性をコンパクトに伝えてくれる。ポピュラリティだけを基準に、全てコンピューター任せにしたら、こんな曲順になるわけない。機械的アルゴリズムに揺さぶられる人間の心理なんて、こういう盤を聴いていたらほんと無意味に思えてきますね。最後に控える「グッドナイト・ベイビー」の出だしが、ここから先の50数年間増え続けるばかりの、悩める人類への鎮魂歌のように響いている。

そんな盤ではあるけれど、ジャケットを手に取るとかなりの重量感で、その理由は恐らく回収したと思しき既存盤のジャケットをリサイクルして2枚並べて、その上に新たに印刷したスリックを綴じ合わせているためである。70年代にはBL品番や「LOVER CREATION」シリーズなどで、節約色の濃いジャケット作りを試みていたテイチクだけど、その先駆けみたいなものか。スリックの下からザ・フゥー『マイ・ジェネレイション』が現れるなんてミラクルも、もしかしたらあったりして(まさか)。