黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

追悼・すぎやまこういち先生

ビクター SJV-721

フレッシュ・ヒット・フォーク

発売: 1974年10月

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ジャケット



A1 旅の宿 (吉田拓郎) 🅷

A2 闇夜の国から (井上陽水)

A3 あなた (小坂明子) 🅳

A4 もう一度 (小坂明子)

A5 結婚しようよ (吉田拓郎) 🅶

A6 襟裳岬 (森進一) 🅸

B1 心もよう (井上陽水) 🅸

B2 神田川 (かぐや姫) 🅷

B3 私は泣いています (りりィ) 🅲

B4 夏の夜は (うめまつり) 

B5 姫鏡台 (ガロ) 🅱

B6 君の誕生日 (ガロ) 🅶

 

演奏: サウンド・オブ・ドゥリーマース

編曲: 小谷充

定価: 2,000円

 

また一人、日本の大衆音楽界を引導した重要人物が亡くなりました。亜星さんの時も激しく動揺せずにいられなかったけれど、今回はまた、違った意味で複雑な気持になる…近年のすぎやま先生の思想を取り巻く意見の交錯とか、はたまたとある仕事を境にしたその評価軸の変化とか、そういったものに感情を振り回されると、どうしても素直に物事に対する見解が述べにくくなる。

3年前の先生の誕生日に、宗内の母体名義でコラムを書かせていただいた時も、きっと同じような感情に襲われていたに違いない。あの時書いた文章にさえ、今になれば自分の素直な思いを投影できたとは思っていない。

 

そんなわけで、結局は歌無歌謡脳に戻り、彼の偉業を称えるしかなくなる。もちろん、なかにし礼さんを筆頭とする、名作詞家達の貢献を抜きにして語れない名曲ばかりだけど、いずれにせよ皆、歌詞のない曲での仕事を率先して称えるのだろう。それはないよ、と内心思うけど。

でも、メロディーだけでも充分語るに値する曲ばかりだと思いませんか。「恋のフーガ」にせよ、「亜麻色の髪の乙女」にせよ。今月のある日に更新する準備をしていて急遽繰り上げることにした、このビクターのフォーク・ヒット・コレクションにも、最後に2曲、ガロに提供した名曲が控えている。「学生街の喫茶店」は数多の好解釈を産んでいるし、選択肢も幅広いけど、ここでさりげなくラストを飾っている2曲もエレガントに、時代の輝きを映している。「姫鏡台」なんて、リアルタイムで聴いた時はむしろ違和感しか感じなかったけど、こうして聴くとなんていい曲なんだろう。

「FLESH」とは実に雑な仕事ぶりだなと思うけれど(肉感的、という意味で捉えればいいのだろうか。おまけに裏ジャケでは「FQLK」なんて誤植も)、大ヒットを揃える中、さりげない自社推しにうめまつり「夏の夜は」なんてのを持ってきたりして、甘酸っぱさを感じさせるアルバム。同年、メロトロンズ『演歌の旅』(SJV-703)なんていう奇盤を手掛けてもいる小谷充氏も、ここでは若々しいフィーリングを捉えての手堅い仕事ぶりだ。「心もよう」でリズムが噛み合わないところが露呈したりもしているけど、「闇夜の国から」なんて爽快に飛ばしているし、襟裳岬もポップ感が前面に出ていて一味違う。

最後に、今まで紹介した歌無歌謡アルバムで聴けるすぎやま作品から決定的な1曲を選ぶとしたら、6月24日紹介『紅白歌謡ヒット・メロディー』に入っている「恋のロンド」とさせていただきたい。この曲が意味するものは大きすぎるのだ。謹んで、ご冥福をお祈りします。

今日は安倍理津子さんの誕生日なので

キング SKK-693

愛の終りに レオン・ポップス・ゴールデン・ヒッツ

発売: 1971年

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ジャケット



A1 地球は回るよ (トワ・エ・モア) 🅱

A2 戦争を知らない子供たち (ジローズ)

A3 さいはての女 (藤圭子) 🅱

A4 女の意地 (西田佐知子) 🅵

A5 ざんげの値打ちもない (北原ミレイ)

A6 二人の世界 (あおい輝彦)

A7 花のメルヘン (ダーク・ダックス)

B1 愛の終りに (布施明)

B2 雨がやんだら (朝丘雪路) 🅱

B3 何かいいことありそうな (ピンキーとキラーズ)

B4 愛のおもいで (安倍律子) 🅱

B5 空に太陽がある限り (にしきのあきら) 🅱

B6 さいはて慕情 (渚ゆう子) 🅱

B7 知床旅情 (加藤登紀子) 🅴

 

演奏: レオン・ポップス

編曲: 石川皓也

定価: 1,500円

 

「レオン・ポップス」はそれこそ50年代末期にまでルーツを遡ることのできる、キングの伝統あるオーケストラ名義。歌手のバックを務めた例も数多い。当初は洋楽のカヴァーや映画音楽、ホーム・ミュージックを中心に取り上げていたが、歌謡ワールドがポップに歩み寄る風潮を反映してか、68年から72年あたりまでは積極的に歌無歌謡にアプローチ。このアルバムでも、あまり泥臭くならない範囲内で71年初頭のヒット曲を取り上げ、軽妙に聴かせる。軽快に、ピースフルなノリで聴かせる「地球は回るよ」でアルバムのトーンは決定されている。多彩な楽器の音色が程よくブレンドされ、時にオルガンの切り込みでユーモラスな感触も。完成度も高く、これぞ和製ソフトロックの適切なインスト化だ。戦争を知らない子供たちはLPを45回転でかけた位スピードアップしており、原曲の無邪気なシニカル性をさらに軽くあしらっている(これが東芝から出たなんて、いかにもピースフルな時代であった…)。A面中盤は多少は泥臭い雰囲気に傾斜しているが、それでも「さいはての女」をここまで欧州風に料理してしまっているのには脱帽。分厚く敷き詰められたストリングスを中心に、洗練の極みを尽くした心地よいアルバムだ。こんなサウンドで聴くと、知床旅情の出処がよりはっきりと解ってしまうから、辛いところもあるけれど。

ジャケ、ものすごく魅力的なのですが、やはり帯をずらすしか術がないです(ちゃんと着てますよ…下の方は…汗)。あ、安倍さんまた地味に名前変えてますね…

今日は 「アッコにおまかせ」放映開始記念日

大映 G-4002-D

new hits in autumn 何があなたをそうさせた/私生活 

発売: 1970年10月

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ジャケット

 

A1 何があなたをそうさせた (いしだあゆみ) 🅲

A2 X+Y=LOVE (ちあきなおみ) 🅲

A3 わたしだけのもの (伊東ゆかり) 🅲

A4 泣きながら恋をして (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅲

A5 さすらいのブルース (和田アキ子)

A6 愛こそいちずに (小川知子) 🅲

A7 命預けます (藤圭子) 🅴

B1 私生活 (辺見マリ) 🅳

B2 ロダンの肖像 (弘田三枝子) 🅲

B3 手紙 (由紀さおり) 🅲

B4 噂の女 (内山田洋とクール・ファイブ) 🅵

B5 お嫁に行きたい (森山加代子) 🅱

B6 希望 (岸洋子) 🅳

B7 昨日のおんな (いしだあゆみ) 🅲

 

演奏: ザ・サウンズ・エース

編曲: 須磨あかし

定価: 1,500円

 

1970年、ディストリビューションをテイチクからコロムビアにスイッチ、再出発を図った大映レコード。結果的により地味な存在に追いやられ、派手なヒットは出せず仕舞いだったけれど、大胆に芸風を変えてきたことは、この歌無歌謡レコードの仕上がりからも容易に窺い知れる。計4枚リリースされたことが確認されている「New Hits」シリーズの第1作で、心なしか響きもテイチク色からコロムビア色へと衣替えしているようだ。アレンジャーは馴染みのない名前ではあるけれど、第1作から大胆なアプローチを試みている。ライナーで記されている通り、他のレコードでは滅多に使われていない、エレキ・サックス、エレキ・フルートを大フィーチャーしているのだ。

管楽器の電化といっても、それほどまでに大掛かりなものではなく、ピックアップからの出力を特殊なエフェクターに通して加工、アンプで再生するというもので、必然的にマイクで拾う音と違うカラーが出てくる。ある種のディストーションを通してオクターブ上ないし下の音を生成する、ジミヘンが多用した「オクタヴィア」と同じ原理のエフェクトであり、トーンの変化はそこまで大胆に行っていない。故に、こけおどし的効果はなく、全体のサウンドに程よく溶け込んでいる感じがする。やはり歌無歌謡、基本は慎重にといったところか。所々、プレイそのものが大胆な方向にはみ出すと、その分音色の変化も目立ってしまうところもあるけれど、それも個性というものか。「命預けます」のような仁侠的要素のあるメロディーをこなすと、かえって凄みさえ感じさせるエレキ・フルートの音色。「私生活」では一転してセクシーに迫る。息遣いよりアクセントの方が強調される、出音の構造故の感触だろうか。そういえば、男性ソロ・シンガーの曲だけ避けられているのも、思わせぶりかも。「生で勝負」の世界と思われたのかな(汗)。

大胆なサウンド故のロマンチシズムが異色の輝きを放つ1枚。昨今密かに話題を呼ぶエレキ・リコーダー=ELODYで歌無歌謡ってのもイケるかも。

歌謡フリー火曜日その26: 今日はビートルズ・デビュー記念日

ACE NA-006

ビートルズ・メロディ

発売: 197?年

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ジャケット



A1 エスタデイ 🅴

A2 レット・イット・ビー 🅴

A3 マジカル・ミステリー・ツアー 🅱

A4 ヘルプ 🅱→5/18

A5 ミッシェル 🅲

A6 ア・ハード・デイズ・ナイト 🅲

A7 オブラディ・オブラダ 🅳

A8 ガール 🅲

B1 ヘイ・ジュード 🅳

B2 フール・オン・ザ・ヒル 🅳

B3 サムシング 🅱

B4 レボリューション

B5 カム・トゥゲザー 🅳

B6 デイ・トリッパー 🅳

B7 アンド・アイ・ラヴ・ハー 🅲

 

演奏: グランド・シンフォニー・オーケストラ

編曲: 無記名

定価: 1,800円

 

『レット・イット・ビー』のデラックス盤発売、映画「ザ・ビートルズ: GET BACK」の公開も間近ということで、デビュー59周年を迎える今年の10月はますます盛り上がりそうなビートルズ月間。その辺の動きを巡る主観的なことは、宗内の母体がレコードショップ・芽瑠璃堂のサイト内で執筆しているコラム「大衆音楽秘境巡り」に色々と書き綴られる予定ですが、ここでは緩く、宗内的観点からビートルズに迫ってみたいと思います。

ビートルズ・オンリーのインスト盤を取り上げるのはこれで3枚目となりますが(実はあと1枚あるのですが、果たして取り上げられるのか否か?贔屓しすぎもよくないということで)、これはちょっと毛色の違う1枚。内容がではなくて、別の視点から、ですが。

例によってエルムの傘下レーベルから出た、怪しげな演奏アルバム。ではありますが、決してパチソン的観点から語れない1枚。これと同じ演奏を収録したと思われるアルバムも複数出回ったり、オムニバスものの演奏レコードに流用されるケースも数知れず(「ヘルプ」は『カーペンターズ・ヒット・メロディー』に同じテイクが収録されている!まるで違うアレンジでカヴァーしているのに)。そして、やたらよく見かける1枚でもあります。それだけ、食いつかれる頻度が高かったのでしょうか。そんな、ついつい食いついてしまった一人に、実は自分も含まれていたのです(汗)。

小学5年の頃からビートルズに尋常ない興味を抱いて、色々盤を集めてはいたけれど、こんな緩いインスト盤まで買っちゃうとは誰が思いますか?恐らく、家族と一緒にデパートの催し物会場でよく行われていた、レコード特売会かなんかにいて、「ビートルズや、買うか」なんて勢いで買っちゃったのではと思われます。こんなレコードを持ってた記憶はまるでなかったけど、なんと!当時録音した妙なテープの数々の中に、まさしくこのレコードに入っている「イエスタデイ」をバックに熱唱(?)した音源が残されていたんです。ま、まさか…そんなわけで、ジャンクヤードをディグっていた時、まさかの再会。裏ジャケに載せられた文章を読んで、「これだ!これを持ってたんだ!」と思い出して、100円と引き換えに再び手中に帰ってきました。

演奏がどうのこうのとか、解釈がどうおかしいのかとか、そういうのは抜きにして、聴いてた頃の感情がただひたすら蘇るのみ。歌無歌謡のレコードに対しては、絶対そんな態度では臨めません。「レリビー」「サムシング」のような、比較的攻めている演奏もあるけど(69~70年の洋楽インスト・カヴァー盤は、総じてこんな感じだったし)、この緩さには愛着さえあります。「マジカル・ミステリー・ツアー」はサイケ性を簡素化した挙句、エンディング部分で必要以上にフリークアウトしてしまうし、ここまでネジが緩んだ「レボリューション」も滅多に聴けるものではない。ひたすら、親しみやすい存在としてのビートルズを追求し、浄化の極みを尽くした1枚。これを早々と聴いてたからこそ、後々になって「ハピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン」や「アイ・アム・ザ・ウォルラス」を演っているオルゴール盤を手にして大喜びしたりするわけですよ。山内喜美子さんの『琴・ザ・ビートルズ』もなんとかしなきゃ…

今日は北島三郎さんの誕生日なので

クラウン GW-3139~40

ビッグ・ヒット歌謡ベスト36 カルメン'77・フィーリング

発売: 1977年

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ジャケット(裏)+帯

 

A1 フィーリング (ハイ・ファイ・セット)Ⓐ 🅳

A2 想い出のピアノ (森田公一とトップギャラン)Ⓑ 🅱

A3 俺たちの朝 (中村雅俊)Ⓒ

A4 どうぞこのまま (丸山圭子)Ⓓ 🅲

A5 思いで… (因幡晃)Ⓑ 🅱

A6 揺れるまなざし (小椋佳)Ⓒ 🅱

A7 愛する人へ (南こうせつ)Ⓔ

A8 青春時代 (森田公一とトップギャラン)Ⓔ 🅲

A9 あばよ (研ナオコ)Ⓓ 🅲

B1 カルメン'77 (ピンク・レディー)Ⓐ 🅳

B2 しあわせ未満 (太田裕美)Ⓑ

B3 ドリーム (岩崎宏美)Ⓒ

B4 ラストシーン (西城秀樹)Ⓔ

B5 横須賀ストーリー (山口百恵)Ⓒ 🅱→6/15

B6 初恋草紙 (山口百恵)Ⓔ

B7 むさしの詩人 (野口五郎)Ⓔ

B8 S.O.S. (ピンク・レディー)Ⓔ 🅱

B9 あなたのすべて (桜田淳子)Ⓐ

C1 私のいい人 (内藤やす子)Ⓐ 🅱

C2 ラスト・コンサート (アン・ルイス)Ⓐ

C3 メランコリー (梓みちよ)Ⓐ 🅲

C4 恋は紅いバラ (殿さまキングス)Ⓓ

C5 あなただけを (あおい輝彦)Ⓒ 🅲

C6 四季の歌 (いぬいゆみ)Ⓕ

C7 落葉が雪に (布施明)Ⓓ 🅱

C8 想い出ぼろぼろ (内藤やす子)Ⓕ 🅱

C9 北へ (小林旭)Ⓔ

D1 昔の名前で出ています (小林旭)Ⓖ 🅰→4/3

D2 歩 (北島三郎) 🅱

D3 おんな港町 (八代亜紀)Ⓑ 🅱

D4 逢いたくて北国へ (小柳ルミ子)Ⓒ

D5 女の河 (内山田洋とクール・ファイプ)Ⓓ

D6 雨の桟橋 (森進一)Ⓔ

D7 もう一度逢いたい (八代亜紀)Ⓒ 🅲

D8 北の宿から (都はるみ)Ⓒ 🅲→6/15

D9 どこへ帰る (五木ひろし)Ⓓ 🅱

演奏: クラウン・オーケストラ

編曲: 栗田俊夫Ⓐ、井上かつおⒷ、安形和巳Ⓒ、神山純Ⓓ、井上忠也Ⓔ、久冨ひろむⒻ、小杉仁三Ⓖ、安藤実親Ⓗ

定価: 3,000円

 

サブちゃんといえばクラウン、というわけで一文字シリーズの名曲「歩」が取り上げられている2枚組。いろんな意味で困ってしまう…が、まずジャケットが問題すぎる。どこをどう見せれば掲載可能になるのか、まじで悩みましたが、これで勘弁してということで…このジャケゆえ、美品ならとんでもない価格で売り買いされることもあるけれど、自分内では特に75年以降のクラウン盤の基準相場は100円ですので(汗)。ジャンク漁りを繰り返してるうちに、自然とクラウンの割合が増える結果になったのは否めないですよ。物凄い値段(っても、4桁を1円でも超えたら勇気を出す範疇)を出す時があるとすれば、主にとんでもない曲を最低2曲は演っている場合に限られますので。

この盤も、既に語った他の盤と3曲重なってますが、最終的にはもっともっとダブりが発覚するはず。ロングセラーとなった曲も相当数あるため、実に8人のアレンジャーの仕事が混在しており、そのためかバラエティーに富んだサウンドが楽しめる。というのを強引なメリットにしちゃいましょう(汗)。聞き流すにはちょうどいいけど、時折意表をつくサウンドが耳を逆立たせるのだ。全体的に主に無味乾燥な音で展開していくけれど、「あばよ」の中で自己主張し始める笛の音に耳が止まる。控え目なさえずりぶりのわりに低音部がぶっとい音で、リコーダーでこの音を出すとしたらかなりの技量が必要とされるが、曲の後半では普通にリコーダーを奏でてたりして、技の使い分けが心憎い。秀樹の「ラスト・シーン」でも、メロウ化の一翼を担う存在としてリコーダーが大活躍。当時の女の子のファンが、好んで吹いたような曲とは思えないけど。1ヶ所、オクターブ上に上がる段階でつまずくところに萌えまくる(汗)。「四季の歌」は名演「おまえに」の線上にあるエレガントなアレンジで、4種の楽器がそれぞれ1コーラス奏でており、リコーダーは「春を愛する人」の役だ。「初恋草紙」でも笛が大活躍していて、この盤の(それこそジャケットとは程遠い)清らかさの象徴になっている。

社会現象になる寸前状態だったピンク・レディーの当時の最新曲カルメン’77」はノリのいい演奏ではあるけれど、随所にディフォルメ化を行ったような形跡があって笑える。このヴァージョンは、当然の如くその後何度もリサイクルされているのだ。女性コーラスが活躍する「ドリーム」や、効果音の部分を始め随所でシンセが妙な存在感をアピールする「おんな港町」などもクラウンらしい、入ってなきゃ困っちゃうと思わせる演奏だ。「どこへ帰る」はアレンジのせいか、クラウン盤「恋人試験」(6/15参照)にやたらテイストが似てしまっているのが面白い。この曲でも聞かれるケーナ風で実はそうじゃない笛の音の謎は、来週あたりに解明のチャンスが演ってくるはず…

クラウンには珍しい、各サイド毎にカラーが分けられた構成で聴き手に優しいけど、いかにも当時らしい分け方だと思う…個人的には雑種入り混じっていた方が聴いててスリリングと思いますが…

今日は新谷のり子さんの誕生日なので

キング SKK-544 

フォークの世界

発売: 1969年

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ジャケット



A1 或る日突然 (トワ・エ・モア)☆ 🅵

A2 フランシーヌの場合 (新谷のり子) 🅲

A3 時には母のない子のように (カルメン・マキ) 🅸

A4 海はふるさと (親分&子分ズ)☆

A5 白いブランコ (ビリー・バンバン)☆ 🅵

A6 若者たち (ザ・ブロードサイド・フォー) 🅳

A7 この広い野原いっぱい (森山良子)☆ 🅳

B1 さすらい人の子守唄 (はしだのりひことシューベルツ) 🅲

B2 浜でギターを弾いてたら (藤野ひろ子)☆

B3 風 (はしだのりひことシューベルツ)☆ 🅷

B4 恋の花うらない (ビリー・バンバン)☆ 🅱

B5 鳩のいない村 (藤野ひろ子)

B6 坊や大きくならないで (マイケルズ)☆ 🅱

 

演奏: バロック・メイツ+スィンガーズ・スリー(☆)

編曲: 小川寛興

定価: 1,500円

 

地下地上構わず、フォークの風が吹き荒れた69年。過激にして内省的、現実主義にして現実逃避系と、捉え所のないイメージはあったけれど、ある部分を拾い上げると実に爽やかな印象が浮かび上がる。それを具象化して見せたのがこのアルバム。歌謡曲の下世話な部分とオーバーラップしない程度にポップな内容の曲を集め、メロウなサウンドで聴きやすいインストに仕上げている。またこの曲か、と呆れつつも、心にもたらす安らぎは並の歌無歌謡盤とは桁違い。さすが、職人・小川寛興先生の成せる技。

まず「或る日突然」。あの印象的なイントロを生かしつつ、チェンバロの響きで高貴感を強調。そこに吹き込んでくるシンガーズ・スリースキャット・コーラス。まさに職人芸。匿名性の高いコーラスとは一味も二味も違う。2コーラス目で伊集加代さんが奔放にさえずり始めると、フルートが絶妙に応える。見事すぎるヴァージョンである。自社推し枠のあっと驚く選曲もあり、「海はふるさと」はB級フォークなんて枠に入れるのがもったいない名演に昇華されているし、「浜でギターを弾いてたら」は改めて名曲だと再認識させてくれる。「恋の花うらない」モンキーズの「ホールド・オン・ガール」かと思わせるアレンジが効いている。コーラスの入っていない曲では、突如プログレ風な展開を見せる「さすらい人の子守唄」が聴きもの。唯一、原曲の持つメッセージ性を歌なしでさらに重厚に表現した「鳩のいない村」が異色(原曲は五木寛之の「恋歌」がベースになっている反戦メッセージ・ソング)。やはり、人の声に勝る楽器はないなと、時には思わさせられる1枚なのです。

1972年、今日の1位は「虹をわたって」

クラウン GW-5237 

魅惑のヒット歌謡ベスト18 雨・悲しみよこんにちは

発売: 1972年10月

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ジャケット



A1 虹をわたって (天地真理) 🅵

A2 京のにわか雨 (小柳ルミ子)Ⓐ 🅸

A3 狂わせたいの (山本リンダ)Ⓑ 🅳

A4 哀愁のページ (南沙織)Ⓓ 🅶

A5 旅の宿 (吉田拓郎)Ⓒ 🅶

A6 雨 (三善英史)Ⓑ 🅱

A7 古いお寺にただひとり (チェリッシュ)Ⓒ 🅱

A8 芽ばえ (麻丘めぐみ)Ⓐ 🅵

A9 夜汽車の女 (五木ひろし)Ⓑ 🅴

B1 あなたに賭ける (尾崎紀世彦)Ⓑ 🅲

B2 夜汽車 (欧陽菲菲)Ⓓ 🅶

B3 悲しみよこんにちは (麻丘めぐみ)Ⓑ 🅳

B4 雪国へおいで (石橋正次)Ⓑ

B5 陽のあたる場所 (奥村チヨ)Ⓒ 🅱

B6 耳をすましてごらん (本田路津子)Ⓑ

B7 ひまわりの小径 (チェリッシュ)Ⓐ 🅲

B8 一番列車の女 (美川憲一)Ⓑ

B9 さよならをするために (ビリー・バンバン)Ⓓ 🅳

演奏: まぶち・ゆうじろう’68オールスターズⒶ

いとう敏郎と’68オールスターズⒷ

ありたしんたろうとニュービートⒸ

栗林稔と彼のグループⒹ

編曲: 福山峯夫

定価: 1,500円

 

クラウン名物、3大メインディッシュにアクセントをちょっと盛り付けての美味しいコンパクトな1枚。何せ名曲目白押しな時期の作品だし、タイトルに選ばれたのが2曲共「上半期ベスト10」に選ばれた曲ゆえ、気合入れて比較作業したいところだが、このあたりからニュービートとそれ以外の温度差が顕著になり始めるのだ。まず1曲目「虹をわたって」からして、感触がそれまでと劇的に違う。ソリッドなリズムセクションが基盤になっているものの、ニューロックなギターが大胆に切り込み、ドラムもここぞという場面に左右チャンネルを奔放に行き交う。質感的にワーナー・ビートニックス的方向に舵を切ったサウンドに転回しているのだ。やはり水谷公生のギターだろうか、となると「トライブ」への道がいち早く開けたというわけだが…それで「京のにわか雨」になると、今まで通りまったりした演奏になる。クラウンらしい「黄昏の室内楽」だ。この温度差が、「編曲・福山峯夫」のクレジットの意味を曖昧化してしまう。なんというマジックだこと。狂わせたいのは狂騒感を出したいところが過剰な場末感が残ったおかげで、なんとも不思議なノリが形成されてしまっている。そこにエレガントな安息の場を流し込んでくれるのが、栗林稔のピアノなのだ。時に素っ頓狂な解釈を誘致してしまう「哀愁のページ」も、ここでは安心して聴けるアレンジだ。

そんな4つの色がバランスよく配されながら、カラフルな桃源郷に誘ってくれる。「旅の宿」なんて、大胆な解体ぶりでオリジナルのイメージはどこへやら。そのあとに「雨」が揺り返しを与えてくれるけれど、やはりビクター大正琴盤の攻めに攻めた解釈が恋しくなる…と思いながらも、ここでのアレンジもなかなかの大胆さだ。オリジナルが個性の塊すぎる「芽ばえ」「夜汽車の女」は、歌無歌謡のスタンダードに乗じた骨抜き加減で、むしろ憎めない出来だ。後者に「夜明けのスキャット」の要素を挟み込むなんて、藤本卓也的価値観では想像できない芸当も。

これこそクラウン、という世界観がわかりやすい形でまとめられている1枚。選曲的にも、これが基本という感じでちょうどいい。