黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1972年、今日の1位は「虹をわたって」

クラウン GW-5237 

魅惑のヒット歌謡ベスト18 雨・悲しみよこんにちは

発売: 1972年10月

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ジャケット



A1 虹をわたって (天地真理) 🅵

A2 京のにわか雨 (小柳ルミ子)Ⓐ 🅸

A3 狂わせたいの (山本リンダ)Ⓑ 🅳

A4 哀愁のページ (南沙織)Ⓓ 🅶

A5 旅の宿 (吉田拓郎)Ⓒ 🅶

A6 雨 (三善英史)Ⓑ 🅱

A7 古いお寺にただひとり (チェリッシュ)Ⓒ 🅱

A8 芽ばえ (麻丘めぐみ)Ⓐ 🅵

A9 夜汽車の女 (五木ひろし)Ⓑ 🅴

B1 あなたに賭ける (尾崎紀世彦)Ⓑ 🅲

B2 夜汽車 (欧陽菲菲)Ⓓ 🅶

B3 悲しみよこんにちは (麻丘めぐみ)Ⓑ 🅳

B4 雪国へおいで (石橋正次)Ⓑ

B5 陽のあたる場所 (奥村チヨ)Ⓒ 🅱

B6 耳をすましてごらん (本田路津子)Ⓑ

B7 ひまわりの小径 (チェリッシュ)Ⓐ 🅲

B8 一番列車の女 (美川憲一)Ⓑ

B9 さよならをするために (ビリー・バンバン)Ⓓ 🅳

演奏: まぶち・ゆうじろう’68オールスターズⒶ

いとう敏郎と’68オールスターズⒷ

ありたしんたろうとニュービートⒸ

栗林稔と彼のグループⒹ

編曲: 福山峯夫

定価: 1,500円

 

クラウン名物、3大メインディッシュにアクセントをちょっと盛り付けての美味しいコンパクトな1枚。何せ名曲目白押しな時期の作品だし、タイトルに選ばれたのが2曲共「上半期ベスト10」に選ばれた曲ゆえ、気合入れて比較作業したいところだが、このあたりからニュービートとそれ以外の温度差が顕著になり始めるのだ。まず1曲目「虹をわたって」からして、感触がそれまでと劇的に違う。ソリッドなリズムセクションが基盤になっているものの、ニューロックなギターが大胆に切り込み、ドラムもここぞという場面に左右チャンネルを奔放に行き交う。質感的にワーナー・ビートニックス的方向に舵を切ったサウンドに転回しているのだ。やはり水谷公生のギターだろうか、となると「トライブ」への道がいち早く開けたというわけだが…それで「京のにわか雨」になると、今まで通りまったりした演奏になる。クラウンらしい「黄昏の室内楽」だ。この温度差が、「編曲・福山峯夫」のクレジットの意味を曖昧化してしまう。なんというマジックだこと。狂わせたいのは狂騒感を出したいところが過剰な場末感が残ったおかげで、なんとも不思議なノリが形成されてしまっている。そこにエレガントな安息の場を流し込んでくれるのが、栗林稔のピアノなのだ。時に素っ頓狂な解釈を誘致してしまう「哀愁のページ」も、ここでは安心して聴けるアレンジだ。

そんな4つの色がバランスよく配されながら、カラフルな桃源郷に誘ってくれる。「旅の宿」なんて、大胆な解体ぶりでオリジナルのイメージはどこへやら。そのあとに「雨」が揺り返しを与えてくれるけれど、やはりビクター大正琴盤の攻めに攻めた解釈が恋しくなる…と思いながらも、ここでのアレンジもなかなかの大胆さだ。オリジナルが個性の塊すぎる「芽ばえ」「夜汽車の女」は、歌無歌謡のスタンダードに乗じた骨抜き加減で、むしろ憎めない出来だ。後者に「夜明けのスキャット」の要素を挟み込むなんて、藤本卓也的価値観では想像できない芸当も。

これこそクラウン、という世界観がわかりやすい形でまとめられている1枚。選曲的にも、これが基本という感じでちょうどいい。