黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

安井かずみさんの誕生日は1月12日

東宝 AR-1003

YOUNG! YOUNG! 最新歌謡曲ヒット16

発売: 1972年2月

ジャケット

A1 愛する人はひとり (尾崎紀世彦) 🅹

A2 雨のバラード (湯原昌幸) 🅵

A3 お祭りの夜 (小柳ルミ子) 🅹

A4 長崎から船に乗って (五木ひろし) 🅹

A5 誰も知らない (伊東ゆかり) 🅸

A6 潮風のメロディー (南沙織) 🅵

A7 雨の御堂筋 (欧陽菲菲) 🅸

A8 悪魔がにくい (平田隆夫とセルスターズ) 🅹

B1 忘れな草をあなたに (菅原洋一) 🅴

B2 涙から明日へ (堺正章) 🅳

B3 ノアの箱舟 (平山三紀) 🅱

B4 ポーリュシカ・ポーレ (仲雅美) 🅵

B5 火の女 (森進一) 🅳

B6 遠くはなれて子守唄 (白川奈美) 🅵

B7 おもいでの長崎 (いしだあゆみ) 🅷

B8 さよならをもう一度 (尾崎紀世彦) 🅼

 

演奏: オーケストラ・ルミエール・ブルー

編曲: 無記名

定価: 1,500円

 

ワーナー・ビートニックスにも、ブルーナイト・オールスターズにも、クリスタル・サウンズにも「創設以前期」があったのと同じく、東宝のミラクル・サウンズ・オーケストラにもありました。よくわからない名義だし、アレンジャークレジットが記されていないけど、鮮やかに予想を裏切る音が飛び出してくる。あの福井利雄のミラクルサウンズじゃない…オーケストラってイメージの音でさえない…

トップの愛する人はひとり」筒美京平曲の中でも競合ヴァージョンが多い曲だけど、一際ユニークな響き。イントロからティンパニーが妙な音を響かせまくっているし、主旋律に絡むブラスの響きが、一言でいえばフリーキー。歌無歌謡の中でも、敢えて言うなら最もザッパ的というか、不思議なイメージを醸し出す。ギターも相当ハードな音で支えているし、ワーナー・ビートニックスと共通する音と定義したくもない。東宝のレコードでこんな音を聴くなんてと、爽やかに仰天させられるオープニング。続く「雨のバラード」も、淡々とした演奏がかえって妙味を感じさせるし、歌謡度数の高い曲も派手に盛り上げるというよりは、一種独特の味付けをしている。かと思えば「潮風のメロディー」はかなりテンポを上げていながら、爽快に飛ばしているし。「雨の御堂筋」、イントロに全然違う曲を持ってきててずるい!これこそ正当なベンチャーズ・リスペクトなのだろうか。最後のAメロの各楽器のバランスの取り方とか、相当マッドだし。この線だとポーリュシカ・ポーレもめちゃぶっ壊してるかなと思いきや、それほどでもなかった。

一体誰が黒幕なのだろう、ここまでやっちゃった歌無盤の。ただ、やはり試行錯誤の一環だったのか、ミラクル・サウンズにこの路線を継承しなかったのも納得。実験作だと思って聴きたい一作。このジャケ、マシュー・スウィート『ガールフレンド』に20年先んじている!元ネタのチューズデイ・ウェルドの写真を参考にでもしたのだろうか…

岩崎良美さんの誕生日は6月15日

ミノルフォン  KC-7101

‘80最新ヒット 《ポップス・フォーク&ロック編》

発売: 1980年11月

ジャケット

A1 ダンシング・オールナイト (もんた&ブラザーズ) 🅳

A2 防人の詩 (さだまさし)

A3 九月の色 (久保田早紀)

A4 いまのキミはピカピカに光って (斉藤哲夫)

A5 ヤング・ボーイ (河合奈保子) 🅱

A6 順子 (長渕剛) 🅱

A7 銀河伝説 (岩崎宏美)

B1 YES・NO (オフコース) 🅲

B2 ジェニーはご機嫌ななめ (ジューシー・フルーツ)

B3 哀愁でいと (田原俊彦) 🅲

B4 あなた色のマノン (岩崎良美)

B5 やさしさ紙芝居 (水谷豊)

B6 青い珊瑚礁 (松田聖子) 🅲

B7 昴 (谷村新司) 🅱

 

演奏: ミノルフォン・オーケストラ

編曲: 京建輔・神保正明

定価: 2,000円

 

9年振りにブルーナイト・オールスターズ名義を凍結させての、80年代対応歌無歌謡再出発作。帯裏で「上村一夫イラスト(ジャケ)・カラオケシリーズ」を大々的に告知しているとはいえ、カラフルな音を動員して、単なるカラオケ対応作の延長にしていないところに意地を感じるし、76年以降サボっていた(?)アレンジャークレジットも復活。さすがミノルフォン、歌無歌謡は終わったと見なしていない気合の入れ方。

メガヒットダンシング・オールナイトで軽く挨拶代わりに続いては、あまりにも重い防人の詩だが、メロディーがリコーダーで奏でられ始めた途端ときめきが…重さと童心を均等に孕んだ音色で曲にマッチしているし、曲が長いので(フル演奏すると7分越えるが、さすがにちょっと端折っている)じっくり聴ける。果たしてガチプレイヤーの演奏だろうか…さだまさしの曲といえば、「天までとどけ」のイントロをリコーダーで奏でたヴァージョンが昔、天気予報のBGMで流れていて、それを探し求めているのだがまだ出会っていない…

なんか他の曲もリコーダーで聴きたいなという選曲が多いのだが、笛天国はここでおしまい…ヴィヴィッドなCMのシーンを思い起こさせる「いまのキミはピカピカに光って」も然り。ドライなサウンドでダイレクトにハートを直撃するが、ちょっと前のクラウンだったらここに妙なコーラスを挟んできそうとか妄想する…あんな風に少年心をどっきりさせる仕草と笛の音は、なぜか直結するんですよね…あと、Bメロへのタックル振りがちょっと残念。70年代の歌無レコードで聴けない類のベースの音がでかいのは買える。「はい・いいえ」(違)はかなりせこいとはいえ、イントロを再現しようとはりきる様子が窺えるが、フルートがかなり硬いな。小田さんぽくない。続く「ジェニーはご機嫌ななめ」は、クラウンの「きりきり舞い」が好きな者にはたまんないかも。ソプラノサックスが主旋律を奏でているが、イリアのヴォーカルの壊れ方に肉薄してる部分もあり、アレンジもいい線行っている。ギターソロがフュージョン寄りなのだけが残念…「やさしさ紙芝居」は、イントロと間奏に控え目にリコーダーが再登場。青い珊瑚礁は、歌無盤は全体の音そのものはどれもいい線行ってるんだけどな。これもなかなかいい出来だけど、聖子の歌はそう簡単に演奏に置き換えられるものではない。最後の「昴」は、やはりコーラス入りのクリスタル・ヴァージョンに軍配が上がる。そして、脳内でその音をメロトロンに置き換えるのだ(爆)。

こうして聴くとやっぱり、80年の曲って思い出深いな。いくらレジデンツを発見して夢中になろうが、青春の根底にこれらの曲は確実にありました。

矢沢永吉さんの誕生日は9月14日

ポリドール MR-1525

歌謡ヒット最前線 LOVE(抱きしめたい)・絶体絶命

発売: 1978年10月

ジャケット

A1 LOVE [抱きしめたい] (沢田研二) 🅲

A2 透明人間 (ピンク・レディー) 🅲

A3 おもいで河 (中島みゆき) 🅱

A4 銃爪 (世良公則&ツイスト) 🅱

A5 グッド・ラック (野口五郎) 🅱

A6 窓ガラス (研ナオコ)

A7 君のひとみは10000ボルト (堀内孝雄) 🅳

A8 日暮れ坂 (渡哲也) 🅱

B1 絶体絶命 (山口百恵) 🅱

B2 20才になれば (桜田淳子) 🅱

B3 モンテカルロで乾杯 (庄野真代) 🅱

B4 ブルー (渡辺真知子) 🅱

B5 プレイバックPart 2 (山口百恵) 🅵

B6 東京ららばい (中原理恵) 🅳

B7 時間よ止まれ (矢沢永吉) 🅴

B8 ダーリング (沢田研二) 🅴

 

演奏: ポリドール・オーケストラ

編曲: 伊部晴美

定価: 1,500円

 

78年当時のトレンディな喫茶店は、丘サーファーと永ちゃんタオル愛用ピープルの溜まり場だった。永ちゃんも歌無歌謡で讃えるには勇気が要る人だなぁ。そう簡単に許可するとは思えないし、そもそもキャロル時代の曲の歌無盤さえクラウンの「夏の終わり」しかないと思われる…たまに発見して何かを感じれば貴重な体験と思うけど。78年の大ヒット曲が集合したこの盤では、「時間よ止まれ」が実に5番目のヴァージョンとなるけど、かなり軽い解釈とはいえ、普通に歌無歌謡の場に入れられてもなおどこか謎めいていて、特異な雰囲気を失わない。その曲以下、初期「ザ・ベストテン」の熱気が伝わってくる選曲。

ただ、アレンジ的にはちょっと前までのポリドールの雑種さが期待できない。普通にショッピングセンターのBGM的な感触。伊部さんが一人で健闘してるのはさすが職人だなと思えるけれど(但し、本人がギターを弾いている部分は皆無もしくはほとんどなし)。一部長い曲はちょっと端折ってTVサイズになっているし。ソニー盤が残念な出来だった「銃爪」は、ロック度的にはそれとどっこいどっこいだが、演っているだけでも救い(この曲のクラウン盤がないのは今もって歌無歌謡七不思議の一つ。「ザ・ベストテン」最長1位記録所持曲なのに…)。「グッド・ラック」は本家メーカーなのに相対的に軽いし。「君のひとみは10000ボルト」「20才になれば」も、クラウン盤の圧勝。駆け出しのTHE ALFEEが後ろでギターを弾いている光景を思い起こさせる「窓ガラス」「ブルー」で聴けるフルートも、若干色っぽく迫っているとはいえ、硬すぎという印象。「ダーリング」はやはり御本家だけあり、しっかりこなしている。左側に入っている木琴がいいアクセント。クラウン盤の完敗は確定だ。ただ、これまで端折る必要はなかったと思う…

茶店音楽としての歌無歌謡はもう終わったんだなというのを実感してしまう1枚なのは確か。インベーダーのテーブル筐体とフュージョンの風が、場末の色を完璧に褪せさせた。

中森明菜さんの誕生日は7月13日

東芝 TP-40173~74

ポップス最新ベスト・ヒット30

発売: 1983年

ジャケット

A1 探偵物語 (薬師丸ひろ子)

A2 天国のキッス (松田聖子)

A3 ちょっとなら媚薬 (柏原芳恵)

A4 純愛さがし (高田みづえ)☆

A5 夏色のナンシー (早見優)☆

A6 少女A (中森明菜)

A7 けんかをやめて (河合奈保子) 🅱

A8 哀愁のカサブランカ (郷ひろみ) 🅱

B1 すこしだけやさしく (薬師丸ひろ子)

B2 時をかける少女 (原田知世)

B3 ジェームス・ディーンみたいな女の子 (大沢逸美)

B4 だいじょうぶマイ・フレンド (加藤和彦) 🅰→4/16

B5 19:00の街 (野口五郎)

B6 脱・プラトニック (桑田靖子)

B7 夢・恋・人 (藤村美樹)

C1 めだかの兄妹 (わらべ)

C2 通りすぎた風 (高田みづえ)

C3 秘密の花園 (松田聖子)

C4 Invitation (河合奈保子)

C5 春なのに (柏原芳恵)

C6 セカンド・ラブ (中森明菜)

C7 花梨 (柏原芳恵)

C8 約束 (渡辺徹)

D1 1/2の神話 (中森明菜)

D2 恋人も濡れる街角 (中村雅俊)

D3 野ばらのエチュード (松田聖子)

D4 夏をあきらめて (研ナオコ)

D5 ラ・セゾン (アン・ルイス) 🅱

D6 小麦色のマーメイド (松田聖子) 🅱

D7 ダンスはうまく踊れない (高樹澪) 🅱

 

演奏: 東芝レコーディング・オーケストラ

編曲: 丸山恵市、薗広昭(☆)

定価: 3,000円

 

先月16日紹介した「ニューミュージック編」の姉妹編となる、アイドル中心の83年歌無ヒットグラフィー。時期的には同年5月新譜あたりまでがカバーされているので、明菜の「トワイライト」がギリギリ間に合わないという様子。もうちょっと遅かったら、NM編にTHE ALFEEのブレイク作「メリーアン」も入ってたに違いないし、それでも3月発売の「君に、胸キュン。」がいずれにも漏れたのは合点行かないな。とは言いつつも、黄昏始まって以来初めての明菜登場には心躍る。「スローモーション」以外の当時の全シングル曲が網羅されたのは、勢いの証以外のなんでもないし。

NM編の時に触れたけど、当時台頭していたアイドルに対しては、ほぼ醒めた視点しかなくて、それでも周りの環境故多少は意識せずにいられなかったのだ。友達の多くがそれぞれに「推し」を持っていたし。家にビデオデッキがないのに、早々とリリースされたVHSソフトを買った伊藤麻衣子ファンのM君が、それを持参して観るためにうちに遊びに来たり、お礼にイベントで撮影したつちやかおりの写真をもらったりしたなぁ。あと、親戚の絡みで距離感が縮まったのが堀ちえみ。彼女に対しては好感しかなかったけど、レコード買ったりにまでは至らず。そんな生温い状況が瓦解したのは、翌84年8月。遠くにいた好きな子への好感情がぶっ壊された時だ。その年にデビューしたユッコと桃子に、レコード購買者としても惹かれまくることになる。以上、恥ずかしい話だけど、自分史に於いては避けて通れない「ブロークン」な出来事。

そんなわけでのっけからフレッシュスターたちの古典的名曲が続く。のっけの探偵物語こそ、サックスでアンニュイなムードを出しているが(バックのオケもガチ。この辺は「まずカラオケありき」の成果だろう)、天国のキッスからはガーリーなフルートが先導。バックに妙なシンセドラムの音が入っているが、本当は歌いたかったのと言いたげな俯き加減の音が実に乙女だ。大瀧・細野ツートップで快調な滑り出し。「ちょっとなら媚薬」でちょっとデジタルな方向にひとっ飛びするが、フルートの響きは益々純情度を増していていい感じ。夏色のナンシーはしっかりコーラス入りで、フルートの音に「Yes!」と答えるのは滑稽としか思えない。この曲の元ネタはアメリカン・ブリードなんて暴論をかますのは、自分くらいしかいないだろう(汗)。「少女A」はさすがにサックスの方が似合うが、仁侠な音にはなっていない。「すこしだけやさしく」はやはりフルートでよかった。Aメロ(サビメロではなく)のこなし方を聴くと、リコーダーも合いそうって気がするな。それ以上に名曲だし。時をかける少女も知世ボーカルを見事にフルートで描写している。時に低い音混じりになるのがアンニュイでいいし。B面には83年組の貴重なカバーも2曲ある。KYON2やちえみより、純新人の方に遥かに期待がかかってたんでしょうな。今から振り返ると信じられないけど。「ジェームス・ディーン~」のフルートにはエフェクターがかまされていて、他の曲とちょっとタッチが違うが、硬さが残っているな。「だいじょうぶマイ・フレンド」は、当時出演俳優たちのレコードが競作された関係か(その内の一人が渡辺裕之さん…合掌)、唯一NM編と共通する選曲。1枚目のラストは再び細野作品「夢・恋・人」。元キャンディーズの意地が場の空気を引き締める。

2枚目のトップ「めだかの兄妹」はフルートで演られると本当「優等生のお姉さん」という感じになってしまうが、2コーラス目ではばっちり、あの言葉をコーラスが歌ってますよ。なんか恥ずかしそうに…2曲目から「セカンド・ラブ」まではサックスでスムーズに。「花梨」もリコーダーが合いそうな曲だけどなぁ。D面も手堅く進み、フルートが気怠く歌う「ダンスはうまく踊れない」で締める。人の声にニュアンスが近そうな楽器で統一したことで、カラオケにも役立つという主旨を打ち出したと読めるけれど、その分70年代の歌無盤のカラフルさの再現とはいかなかったな。ただ、時代がデジタルに飲み込まれる前の熱い息吹は、確かに感じられる。そういえばジャニーズ系の選曲がないけど、政治的なアレはあったのだろうか…『今宵踊らん』やその他の演奏盤では取り上げられているのに。

梅宮辰夫さんの誕生日は3月11日

テイチク SL-1319

京琴が奏でる 番長ブルース

発売: 1970年6月

ジャケット

A1 番長ブルース (梅宮辰夫)

A2 網走番外地 (高倉健)

A3 番長数え歌 (梅宮辰夫)

A4 唐獅子牡丹 (高倉健) 🅳

A5 番長小唄 (梅宮辰夫)

A6 関東流れもん (田端義夫)

A7 番長新宿仁義 (梅宮辰夫)

B1 極道ブルース (若山富三郎)

B2 極道子守唄 (若山富三郎)

B3 極道エレジー (若山富三郎)

B4 極道坊主 (若山富三郎)

B5 全極連ブルース (若山富三郎)

B6 極道渡世人 (若山富三郎)

B7 諸行無常 (若山富三郎)

 

演奏: 山内喜美子 (京琴)/セレクト・サムズ

編曲: 山倉たかし

定価: 1,500円

 

トレンディな歌謡曲であれば、いかなる方向性をも模索できる歌無レコード世界であるが、このアルバムほど「サグ」な1枚は他にないだろう。なんたって、辰兄ィと富三郎のゴールデン・カップリングである。いずれも当時テイチクにレコードを残していたから、不自然な流れではないのだけど、本人の強烈な存在感を消去してその世界をサウンドトラック化するというのは、並でない冒険精神を要求する行為だ。単なる癒し系BGMになっちゃいけない、かといって血の色を充満させる音楽になってもいけない。

そんな盤に起用されたのは案の定、女番長・山内喜美子だ。そのおしとやかな指業は、いかなる世界をも天然色に染め上げる。そして、演出を買って出たのは音の魔術師・山倉たかしだ。セレクト・サムズというバンド名は、当然その場の成り行きで付けたのだろうけど…上級の親指、ということはもろアレですか…

A面は辰っつぁんサイド、というよりその合間に古来の極道クラシックを挟む構成になっている。ちなみに「シンボルロック」は本盤の4ヶ月後リリースのため、当然選ばれていない(爆)。山内さんがどんな仕打ちをするか、聴いてみたかったものだが。最初の1音から凄みに凄むが、その裏に清涼感が潜んでいるのは彼女の為せる技。山倉サウンドも、「恋のバロック・ロック」で全開したチェンバロをフルに使い、クラシカルかつヘヴィという特殊な響きだ。クラシカル・エレガンスな色を帯びた網走番外地なんて、他のどこで聴けるか。時折息吹きまでも聞こえてくる超オンマイクな京琴の響きに、余計殺伐としたムードが浮かび上がる。

B面は曲名からして「極道」オンパレード。でも、この演奏だけ聴いていると、若山富三郎の顔が浮かんでくることはない。やはり歌手としてのイメージが希薄だからだろうか。洗練された山倉サウンドの魔術で、一種の優しささえ浮かび上がってくる。「極悪坊主」(この盤でのタイトルは意図的ミスクレジット、だろう)なんて、ブルースとしてかなり上出来だし、「極道渡世人も山倉節全開で快調。最も異色なのは諸行無常だが、これは山上路夫村井邦彦コンビの作品(!)。ピーター的な世界観、ちょっとサイケなタッチも加わり、この物語に絶妙のフィナーレを添えている。

今日は三木たかしさんを偲んで

キャニオン C-1094

ムード・サックス ヒット歌謡ベスト14 

発売: 1975年2月

ジャケット

A1 湯けむりの町 (森進一) 🅳

A2 旅愁 (西崎みどり) 🅴

A3 あじさいの雨 (渡哲也) 🅴

A4 愛ひとすじ (八代亜紀) 🅸

A5 わたし祈ってます (敏いとうとハッピー&ブルー) 🅴

A6 あなたにあげる (西川峰子) 🅵

A7 襟裳岬 (森進一) 🆀

B1 初めてのひと (西川峰子) 🅱

B2 火遊び (中条きよし) 🅲

B3 おんなの夢 (八代亜紀) 🅳

B4 冬の駅 (小柳ルミ子) 🅲

B5 はまなすの旅 (西崎みどり) 🅱

B6 くちなしの花 (渡哲也) 🅽

B7 さすらいの唄 (小沢深雪) 🅳

 

演奏: ボビー佐野 (アルト・サックス)/オーケストラ名未記載

編曲: 池多孝春

定価: 1,500円

 

黄昏では3枚目の登場となる「猫ジャケ」。エンケンのファースト・アルバムを彷彿とさせる構図ですが、内容は演歌中心。昨日に続いて、サックスのメロウな響きを堪能しまくれる1枚。ガチプレイヤーとしてジャズ界でブイブイ言わせたボビー佐野の、スムーズジャズとしての歌謡へのアプローチ。ドメスティックなメロディーが多いのに、泥臭さを感じさせず、気配りの効いたアレンジがさらにそれを強調している。そのアレンジャーは、池多孝春先生だ。

2002年発売された藤原彩代さんの「おさい銭」にめちゃはまって、その曲に対する称賛を繰り返すうちに、その作者である長谷川弓子さんとSNSで仲良くなってしまい、そのアレンジを手掛けた池多氏に対する賛辞の言葉を何度も目にしている間に、彼も帰らぬ人になってしまった。歌無歌謡にハマる前に逝かれてしまったのがほんと残念で、今ならいろいろ訊きたいことあったのに…そんな彼の歌無歌謡界での偉業といえば、やはりユピテル襟裳岬のメロトロンまみれアレンジだろう。この盤も、池多氏アレンジで「襟裳岬」収録となれば、即買い決定だったが、やはりここではアプローチをかなり変えてきている。同じユピテル盤でも、大正琴ヴァージョンでは全然カラーが変わっていたし、そこまで芸風を使い分けられるのも名アレンジャーの強みだろう。ここでは、イントロのトランペットのフレーズをヴァイオリンで奏でているのが特異。メロトロン版は、恐らく焦りの結果としてああなってしまったのではないか。だからこそ、異様な感触が出ていてたまらないのであるが(ジェイクのサックスも、ここでのボビーの演奏に比べるとファンク色充満だし)。他の曲では、ジャジーな色が出ている「冬の駅」が特にいい。そして、奇遇にも…「愛ひとすじ」は「死ね死ね団のテーマ」作者コンビの曲を、同曲のオリジナルアレンジャーが手がけるという結果になった。

夜のムードにはまった演奏でも、いかがわしさに直結しない。そんな潔さが全編を貫くアルバム。そりゃ猫を抱いて眠る時のお供にも最適ってものだ。

今日は山口洋子さんの誕生日なので

東宝  AX-2003

最新歌謡ヒット ゴールデン・サックス・アルバム

発売: 1972年12月

ジャケット

A1 漁火恋唄 (小柳ルミ子) 🅹

A2 哀愁のページ (南沙織) 🅼

A3 あなたに賭ける (尾崎紀世彦) 🅶

A4 同級生 (森昌子) 🅵

A5 小さな体験 (郷ひろみ) 🅳

A6 めぐり逢う青春 (野口五郎) 🅳

A7 死んでもいい (沢田研二) 🅳

B1 虹をわたって (天地真理) 🅻

B2 放浪船 (森進一) 🅶

B3 悲しみよこんにちは (麻丘めぐみ) 🅶

B4 夜汽車の女 (五木ひろし) 🅷

B5 狂わせたいの (山本リンダ) 🅷

B6 男の子女の子 (郷ひろみ) 🅲

B7 折鶴 (千葉紘子) 🅲

 

演奏: 宮沢昭 (サックス)/ミラクル・サウンズ・オーケストラ

編曲: 福井利雄

定価: 1,500円

 

AX-2000番台で本格スタートしてからは、毎月のように畳みかけ攻勢をかけるミラクル・サウンズの「最新ヒット歌謡」。背文字にその言葉だけがズラーっと並ぶと、自分が探しているアルバムがどれだか解り辛いので罪なものだが、今作はサックスをメインに押し出して区別化を図っている。と言えども、これもサブシリーズ化しており、正確なリリース点数を追うのは至難の技なのだが…

盤によって細かく表情を変える福井利雄アレンジだが、この盤は特に4チャンネル音場を意識したのか、立体的サウンド組み立てが効果的に行われており、どの曲も競合ヴァージョンが多いだけに特異なカラーを放ちやすい。守りに入ったプレイながらちょい走り気味の宮沢昭サックスも、単なるムードものと一味違うし。「哀愁のページ」は、出だしこそ多少せこく聴こえるけれど、かなり繊細な音作り。恐らくフルートも宮沢氏によるプレイだろう。ここまで大人のムードを出してしまっていいのか…といっても、いやらしさとは無縁だし、生まれながらの大人っぽさという感じか。「同級生」の「ピポピポー」は、ちょい微妙なフレージングながらリコーダーで奏でられている。それでいいのだ。A面後半は狂おしく、若々しくはじけまくり。「死んでもいい」の音場処理はかなり異色だ。4チャンネルデコードしたら、果たしてどうなるやら…B面もおなじみの曲が続くが、やはり悲しみよこんにちはで笛の音が恋しくなる…アレンジ的には「さわやかなヒット・メロディー」のヴァージョンにかなり近いから、余計そう感じるのだろうか。かと思えば「夜汽車の女」は完全に毒抜きされているし。どっちつかずなところがかえって落ち着きを与えてくれる1枚だ。それにしても「折鶴」はワーナー盤に負けず劣らず、エコーが深い。