黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は田中星児さんの誕生日ですけど…スペシャル企画(前編)

CBSソニー 25AH-49~50

‘76最新ヒット歌謡ベスト32

発売: 1976年8月

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ジャケット



A1 横須賀ストーリー (山口百恵)Ⓐ 🅵

A2 赤いハイヒール (太田裕美)Ⓐ 🅳

A3 20才の微熱 (郷ひろみ)Ⓐ

A4 青春に恥じないように (南沙織)Ⓐ

A5 ウインクでさよなら (沢田研二)Ⓐ 🅱

A6 きみ可愛いね (伊藤咲子)Ⓓ 🅱

A7 オー・マリヤーナ (田中星児) 🅱

A8 未来 (岩崎宏美)Ⓐ 🅱

B1 夏にご用心 (桜田淳子)Ⓐ 🅳

B2 ジャガー (西城秀樹)Ⓐ

B3 陽ざしの中で (布施明)Ⓐ 🅱

B4 恋岬 (小柳ルミ子)Ⓐ 🅱

B5 ふたりづれ (八代亜紀)Ⓑ 🅱

B6 俺たちの旅 (中村雅俊)Ⓑ 🅴

B7 北の宿から (都はるみ)Ⓑ 🅶

B8 春一番 (キャンディーズ)Ⓑ

C1 ビューティフル・サンデー (ダニエル・ブーン) 🅱

C2 木綿のハンカチーフ (太田裕美)Ⓓ 🅳

C3 君よ抱かれて熱くなれ (西城秀樹)Ⓐ 🅱

C4 愛に走って (山口百恵)Ⓑ 🅳

C5 ファンタジー (岩崎宏美)Ⓒ 🅱

C6 北酒場 (五木ひろし)Ⓑ 🅲

C7 泣かないわ (桜田淳子)Ⓑ 🅲

C8 なごり雪 (イルカ)Ⓑ 🅱→5/10

D1 夏が来た! (キャンディーズ)Ⓐ

D2 つくり花 (森進一)Ⓐ 🅱

D3 花水仙 (八代亜紀)Ⓒ

D4 恋の弱味 (郷ひろみ)Ⓒ

D5 弟よ (内藤やす子)Ⓒ 🅲

D6 明日に向って走れ (吉田拓郎)Ⓑ

D7 わかって下さい (因幡晃)Ⓑ 🅱→5/10

D8 きらめき (野口五郎)Ⓐ 🅲

 

演奏: クリスタル・サウンズ

編曲: 新井英治Ⓐ、矢野立美Ⓑ、神保正明Ⓒ、武市昌久Ⓓ、いしだかつのりⒺ

定価: 2,500円

 

本日と明日の二日間に渡って、黄昏みゅうぢっく初のスペシャル企画ということで、当時歌無歌謡の制作に実際関わったスタッフさんの一人に、貴重なお話を伺うことができました。こんな世の中になってしまった故、お茶を呑みながらディープなお話をという訳にいきませんでしたが、これを入り口としてさらなるチャンスを広げることができればと思っています。

 

武市昌久さんは、75年のノヴェルティ・ヒット曲「ひらけ!チューリップ」(間寛平)や、THE ALFEE幻の発禁曲「府中捕物控」を筆頭とする山本正之氏作品の常駐ブレーンの一人として、アニメ「タイムボカン」シリーズの劇伴など幅広く手掛けられ、近年も長山洋子さんの最近作など現役バリバリの作編曲家として活躍なさっています。宗内(の母体)の友人であるコンテンポラリー・ダンサー兼マルチアーティスト(イベントで歌無歌謡DJプレイに合わせて踊ってくださったことも)が、彼の奥さんのヴォーカルの先生であることが縁で、彼女が主催する野外でのパーティで何度かご一緒したことがあり、その際にこのクリスタル・サウンズのアルバムを持参してお話を伺うチャンスを狙っていたのですが、未遂に終わり…そんなわけで、田中星児さんの誕生日をテーマにこのアルバムの紹介と相成ったので、内容はさておき、まずヴァーチャルなインタビューを再現させていただきます。

 

S: 76年、「クリスタル・サウンズ」のレコードを手掛けられた頃には、既に「ひらけ!チューリップ」がヒットしたり、歌謡界での活動を盛んにされていましたが、「歌のない歌謡曲」のお仕事を手掛けられたのは、レコード会社のディレクターさんからのご依頼があってでしょうか。

T: はいそうです。

S: 実際既存の曲の編曲に取り掛かる際、リード譜面もしくはオリジナル曲のレコード(発売前の曲の場合テープ)を受け取る場合が普通と思われますが、どちらの方が頻度が高かったでしょうか?

T: オリジナル曲のレコードでした。

S: なるほど。他社のレコードを聴くと、タイムラグが短い場合など、オリジナル1コーラス分程度しか参考にしていないようなヴァージョンもありましたが、ソニーさんはしっかりなさってたんですね。

ディレクターさんから頂く指示はどの程度の範囲内でしたか?例えば、曲の尺とか楽器の選択に関してです。

T: オリジナル楽曲と同じ様にアレンジするように言われました。いわゆるコピーアレンジですね。

S: 75、カラオケがレジャーとして注目を浴び始めてからは、特にその傾向が強くなったという印象です。

スタジオでのレコーディング現場には常に顔を出されましたか?実際、演奏者側とのコミュニケーションはされる方でしたか?

T: 常に顔を出しました。他の方はどうされたか存じませんが、必要だと思えばミュージシャンとコンタクトを取りました。

S: 個人的印象だと、『クリスタル・サウンズ』の演奏には熟練音楽家集団というより若々しさを感じるのですが、実際の演奏者の顔ぶれの印象はどうでしたでしょうか?

T: 昔のことなので覚えておりません。

S: なるほど。この話は、ディレクターさんと知り合う機会ができれば、直接ディープに伺ってみたいと思います。

 

もう少し質問が続きますが、残りは明日のお楽しみということで、早速レコードを聴いてみましょう。76年の夏を飾るヒット曲がいっぱい、ほんといい時代でしたね。自社4大アーティストのパワーが炸裂する冒頭4曲から飛ばしに飛ばす。「原曲に忠実なアレンジ」でありながら、各アレンジャーのやる気が輝いていて、時々耳が逆立ちますが、武市さんアレンジの「きみ可愛いね」も例外ではなく、女性コーラスのフレッシュな息吹が右の耳から飛び込んでくるし、リズムセクションも生き生きと録られている。この時期ならではのいきの良さがありますね。対して「未来」は飛ばしまくりの演奏なのはいいんだけど、Cメロの一部でちょっとネジが緩まるのが惜しい。新井氏のキャパがオリジナルのそれを抱擁できなかったのかなぁ。筒美先生の曲だししょうがない。「北の宿から」はオリジナルに倣って使用されているリコーダーと、大正琴の対比がなんとも言えない(これは「あの二人」の演奏ではなさそう)。

2枚目では武市さんアレンジの木綿のハンカチーフが、こちらはオリジナルに肉薄する仕上がり(横内さんアレンジでさえ残念感あったからね)。フルートを2声で、こんな風に打ち出すとは…爽やかな技もの。やはり自社曲ですからね…もうひと方の正之ブレーン・神保氏も負けちゃいません。「弟よ」ではイントロ以外にも2コーラス目にまでリコーダーを持ってきて、意外にもメルヘンチックな仕上がり。アレンジャー関係なしに、フルートの演奏に鮮やかな個性が出た曲が多くて(リコーダー兼任の可能性も?)、奏者の顔が見えてこないのが残念。フレッシュな現役音大生の仕業だと読んでいたのだけど…(汗)。ベースやドラムはガチなジャズ/ロック勢と思われるけど、それほど出しゃばってないし。張り切ってるけど無色、それがクリスタル・サウンズの魅力なのですよ。明日もこの調子で、お楽しみに。