黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は「テレビCMの日」というけれど…スペシャル企画(後編)

CBSソニー 25AH-401~02

’77~’78ヒット歌謡・ベスト30

発売: 1977年

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ジャケット



A1 ウォンテッド [指名手配] (ピンク・レディー)Ⓐ 🅱

A2 秋桜 (山口百恵)Ⓑ 🅱

A3 人間の証明のテーマ (ジョー山中)Ⓑ

A4 アン・ドゥ・トロワ (キャンディーズ)Ⓑ

A5 愛のメモリー (松崎しげる)

A6 憎みきれないろくでなし (沢田研二)Ⓑ

A7 愛の終着駅 (八代亜紀)Ⓑ

A8 灯りが欲しい (五木ひろし)Ⓑ

B1 コスモス街道 (狩人)Ⓐ

B2 九月の雨 (太田裕美)Ⓐ

B3 遠慮するなよ (清水健太郎)Ⓒ

B4 ワインカラーのときめき (新井満)

B5 津軽海峡冬景色 (石川さゆり)Ⓐ 🅳

B6 洪水の前 (郷ひろみ)Ⓒ

B7 勝手にしやがれ (沢田研二)Ⓑ

C1 イミテイション・ゴールド (山口百恵)Ⓑ

C2 渚のシンドバッド (ピンク・レディー)Ⓑ 🅱

C3 雨やどり (さだまさし)Ⓒ

C4 帰らない (清水健太郎)Ⓑ 🅱

C5 星の砂 (小柳ルミ子)Ⓓ

C6 暖流 (石川さゆり)Ⓐ 🅱

C7 硝子坂 (高田みづえ)Ⓑ

C8 熱帯魚 (岩崎宏美)Ⓒ

D1 夢先案内人 (山口百恵)Ⓐ 🅱

D2 季節風 (野口五郎)Ⓒ

D3 フィーリング (ハイ・ファイ・セット)Ⓐ 🅲→5/10

D4 だけど… (高田みづえ)Ⓑ

D5 酒と泪と男と女 (河島英五) 🅱

D6 暑中お見舞い申し上げます (キャンディーズ)Ⓑ

D7 カルメン'77 (ピンク・レディー)Ⓑ 🅲

 

演奏: クリスタル・サウンズ

編曲: 松井忠重Ⓐ、矢野立美Ⓑ、武市昌久Ⓒ、西崎進Ⓓ

定価: 2,500円

 

歌無歌謡的には冴えない今日の表題でありますが(実際CMに使用されブレイクした曲も最低3曲入っていますが)、これも好機と捉え、昨日に引き続き、今作でも5曲のアレンジを手掛けられた武市昌久さんへのヴァーチャル・インタビューをお届けします。もっと突っ込んで訊きたかったところでありますが、何せこんな世の中ということで…

 

S: 同業者の方の「歌無歌謡」仕事を意識されることはありましたでしょうか?

T: 意識はしておりません。

S: やはり(汗)。実際1曲あたりの編曲及び録音には、どの位の時間を費やされましたか?

T: 2時間から10時間程度でした。うろ覚えですが…

S: 今からすれば相当な早技でしたね。お疲れさまです。

『クリスタル・サウンズ』は律儀に編曲者名をクレジットする方でしたが、徳間さんの『ブルーナイト・オールスターズ』のようにクレジットを怠るメーカーも中にはありました。武市さんは徳間さんで寛平さんやアルルカンさんを手掛けられていましたが、徳間さんもしくは他のソニーさん以外のメーカーに「歌無歌謡」のお仕事を依頼されるケースはありましたでしょうか?

T: ユピテルレコードでアニメなどの主題歌をコピーアレンジした事があります。

S: ユピテルさんは75年ごろから編曲者名をジャケットに載せなくなってましたが…今後は注意して聴いてみたいと思います。さて、武市さんがご自身でサックスを演奏されたケースは、これらのレコードの中にありますでしょうか?

T: ありません。

S: そうでしたか…最早、演奏ものとして再生された流行歌は「味気ないもの」になってしまった感がありますが、昭和の歌無歌謡レコードは、まさに激動した時代の空気を封じ込めた立派な遺産だと思います。武市さんなりに「歌のない歌謡曲」の魅力を言い表すとしたら、どんな感じになるでしょうか?

T: 歌のある歌謡曲の方が好きです。歌のない歌謡曲の編曲の経験はありません。もともとインストルメンタルな曲のコピーアレンジがほとんどです。

S: 激動期経験者ならではのコメントありがとうございます。最後に今、最新のアプローチで「歌のない歌謡曲」の音源を制作するとしたら、どのようなものを作ろうと思われますか?

T: オリジナル楽曲を作っております。

S: いいですね。今後もいいオリジナル曲の誕生を期待しております。どうもありがとうございました。

 

ということで、個人的に歌無歌謡に感じるロマンと真っ向からぶつかったような感じで終わってしまいましたが、その辺りも眼中に入れつつ改めて聴いてみると、やっぱりガチ仕事人の思想は強いんだなと思わされてしまいます。

そんなわけで昨日に続きクリスタル・サウンズの、翌年にあたる77年ヒット集大成盤(ファンキーでギャラクティックなジャケットは歌無歌謡では珍しいけど、当時の音のカラーに相応しいかと)でありますが、やはり深い。決して手加減していない歌無歌謡の魅力が凝縮。このへんの曲になると、個人的にも歌われてる内容が読める年頃になったと感じながら、リアルタイムで殆どの曲に親しんだし、懐かしさと同時にどこに着眼して聴けばいいか、ちゃんと計算して聴ける。70年代初期の曲だとそうはいかないんですよ。この演奏鋭いなとか、このアレンジヤバいなとか、そういう言葉で片付けて終わりになりがちなので。その上、楽曲としての魅力が豊潤ときた。早くても85年以降の曲になると、こんな聴き方もまず無理になってしまう。

「ウォンテッド」なんて脳髄に染み渡ったはずの曲にしたって、右側で鳴っているピアノみたいな意表をつく要素に気をとられてしまうし、ラップ(?)の部分だけコーラスにやらせて、歌ありの要素を残しているのがニクい(「アラブの大富豪」だけせこい男性の声なのだが、アレンジャーの松井氏だろうか?)。続く秋桜が素晴らしい。百恵のオリジナルにないこそばゆい感触を加えながら、リリカルなフルートが先導。大人になりきった百恵さんのうつむきがちな表情を見事に捉えた音色で、「風に語りて」のようなサイドフルート(?)もしっかりその音を支えている。奏者の顔が見えてこないのが残念…人間の証明はシングルB面のヴァージョンのタッチをA面のアレンジに加味した印象。これは未だに愛唱歌の一つなので、思い入れ半端ないです。

小気味良い演奏の連続で、それぞれの楽曲について深く語れないのが惜しいけど、どうしても「雨やどり」で手が止まる。このムーディなサックス、武市さんの演奏ではなかったとは…昨日触れたような野外でのパーティで、主催者さんの精神に共鳴してその場でパフォーマンスをする参加者は多いのだけど、武市さんがサックスを持ち出した途端、周囲にいる人達との間の敷居が一気に低くなる光景が何度もありました。そして、その場で演奏の輪が広がり、新しい音楽が生まれると。最早、コロナ禍でそんな展開も夢の夢すぎ…ここで聴かれるサックスに耳を傾けながら、その事を思い出して嫌でもセンチメンタルになってしまいます。音楽で心を一つにできる日々がまた戻ってきますように…