黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は渚ゆう子さんの誕生日なので

テイチク BL-1037

ニュー・ヒット歌謡ベスト10 さいはて慕情

発売: 1971年

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ジャケット

 

A1 さいはて慕情 (渚ゆう子) 🅲

A2 あなたまかせの夜だから (大木英夫・二宮善子)

A3 慕情 天草の女 (森進一)

A4 よこはま・たそがれ (五木ひろし) 🅹

A5 憂愁 (黛ジュン)

B1 空に太陽がある限り (にしきのあきら) 🅲

B2 雨がやんだら (朝丘雪路) 🅲

B3 戦争を知らない子供たち (ジローズ) 🅱

B4 二人の世界 (あおい輝彦) 🅱

B5 僕にさわらせておくれ (ピンク・ピクルス) 🅱

演奏: カンノ・トオルとオーケストラ

編曲: 福島正二

定価: 1,000円

 

テイチクの10曲で1000円という手軽なシリーズ「BEST and BEST」。手軽なところが受けたのか、無駄がないというイメージを与えたのか、やたら市場に出回った感があるのだけど、やはり演奏時間が短い分、音質が良好に保たれたというのが最大のメリットだろう。いくら盤が劣化しようが、ある程度のクォリティを保って再生してくれるし、その分内容がダイレクトに伝わりやすい。この盤は、テイチクならではの場末感が濃厚に出てはいるけれど、それを生かしたナイス選曲に録音のよさで付き合いやすい。長い語らいのBGMにするにはちょっと役不足だが。

「さいはて慕情」ベンチャーズ歌謡でやっとブレイクした渚ゆう子が、筒美京平を起用しての第1作。一気に北欧へと駆け抜けたような曲調にも、わずかにベンチャーズ色が残り、その辺は技ものだが、このインストヴァージョンも多少せこいとはいえ、なかなかの出来だ。続く「あなたまかせの夜だから」は、ミノルフォンのベテラン大木英夫が、デュエットパートナーをNHKのど自慢出身の新鋭・二宮善子に代えての第一弾で、想定外の大ヒットになっている。このアーバン演歌的感覚、ここでもうまく再現されているのだが、もうちょっとカラフルなアレンジにしてもよかったかも。ラッシュジョブ故、そこまでの高望みは無駄足なんだろうけど…いい曲だなぁ。二宮さんがソロで出したその前の曲「美しすぎた歌」はもっと名曲なのだが。

よこはま・たそがれはその6番後に出たシングルで、65年デビュー以来3度の改名を経た五木ひろしを遂にブレイクさせた記念すべき1曲。これは最も早い歌無カヴァーではないだろうか。「空に太陽がある限り」は相対的にまったりした出来。戦争を知らない子供たちも、この流れだとむしろテンションを低める効果がある。ラストの自社推し枠は「僕にさわらせておくれ」。健全なタッチで綴られたおかげか、下品なニュアンスを逃れられ、今じゃ考えられない受け方をした曲ではあるけど、インスト化により完全に平面化したピースフルな世界へと落ち着いている。

自分が幼心に「これって流行歌かな」と意識して聴いていた最も初期の曲が集中していて、実に甘酸っぱい気分になる1枚。「雨がやんだら」のシングル、リアルタイムで聴きまくったもんな…B面も込みで(汗)。