黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1970年、今日の1位は「逢わずに愛して」

東芝 TP-7400

恋狂い/ヴェルベット・サックス・ムード 

発売: 1970年3月

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ジャケット+関係ない盤

A1 恋狂い (奥村チヨ) 🅵

A2 おんな道 (浜真二)

A3 別れても (黒木憲) 🅱

A4 ヘッドライト (黒沢明ロス・プリモス) 🅱

A5 とまらない汽車 (中山千夏) 🅲

A6 別れのサンバ (長谷川きよし) 🅲

A7 ひとり寝の子守唄 (加藤登紀子) 🅱

B1 知らないで愛されて (佐良直美) 🅳

B2 恋人 (森山良子) 🅺

B3 喧嘩のあとでくちづけを (いしだあゆみ) 🅵

B4 私が死んだら (弘田三枝子) 🅷

B5 その時私に何が起ったの? (和田アキ子) 🅱

B6 土曜の夜何かが起きる (黛ジュン) 🅶

B7 逢わずに愛して (内山田洋とクール・ファイブ) 🅷

 

演奏: 岡ひろし (サックス)/ヴェルベット・サウンズ

編曲: 荒木圭男

定価: 1,500円

 

1枚でアルト、テナー、バリトンの各サックスが楽しめる歌無歌謡アルバムは、そうあるものではない。何せサム・テイラー松浦ヤスノブで「テナー」が超主流に躍り出てしまったから、それ以外のサックスが蔑ろにされがちなのもしょうがないが、それぞれに別のカラーがあって、あらゆる曲調に個性を発揮できる。ただ単に、夜のムードに野性味を与えるだけではないのだ。そんな柔軟な魅力を「ヴェルベット・サウンズ」という斬新な形容に包んだ70年の新機軸。ほんと、東芝は次々と思いつきますなぁ。同じようなミュージシャンが演奏していても、レコードによって全然印象が違う演奏が聞こえてくるから、もはやブランディング・マジックとしか言いようがない。まぁ、表記的にははっきりせいやという感想しかないですけど…見た目の印象づけを狙ったんでしょうか。

トップからはっきりしたサウンドポリシーが貫かれている。アルトサックスが主旋律を奏でている場合、ソプラノかと思う位思いっきりのいい高音を生かしているし、テナーなのかなと思ってよく聴いたら、バリトンならではのふくよかさが出ていたりする。イントロとか2コーラス目で他の楽器にリードを譲っている合間にも、適度な柔らかさでささやき続け、まさにムーディな効果を醸し出しているし、こういうサックスにイチコロだったんでしょうね当時のJDは。ぶっ放しの魅力だけじゃない、ソフトな緊縛力のようなものが現れたサウンドで、支える演奏も安定の東芝色。特に「ひとり寝の子守唄」がさりげなく凄い。地味な凝り方なのだけど、この音の配し方に途轍もない演出力を感じる。1曲目と2曲目をこの順番で並べたのは運命的すぎたか(浜真二=浜圭介、後の奥村チヨの旦那様である)。B面には4日~5日に取り上げたエレクトーン盤に選曲された曲が並んでいるが、こちらの肉体感溢れる音と比べてみるのも乙なものだ。やはり「土曜の夜何かが起きる」は御本家の解釈が最もキマってるな。全曲、違う作曲家の作品でいいバランスが取れてると思ったら、鈴木邦彦さんだけ2曲入ってる。ほんと、この時期の彼は無敵だったと思います。

ジャケ、はっきり見えてないけどガイドラインに引っかかりそうだし、せっかくの赤盤だから隠すかと思ってレーベルを見たら青くなかった(汗)…しゃあない、シングル盤でカムフラージュするという新機軸に打って出ます。