黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は財津和夫さんの誕生日なので

東芝 TP-70003 

ポケットいっぱいの秘密/夫婦鏡 

発売: 1974年

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ジャケット

A1 ポケットいっぱいの秘密 (アグネス・チャン) 🅱→8/12

A2 恋と海とTシャツと (天地真理) 🅱→8/12

A3 もう一度 (小坂明子) 🅳

A4 激しい恋 (西城秀樹) 🅰→8/12

A5 青春の影 (チューリップ)

A6 虹の架け橋 (浅田美代子) 🅲

A7 君は特別 (郷ひろみ) 🅲

A8 夢みる頃 (伊藤咲子) 🅱

B1 夫婦鏡 (殿さまキングス) 🅳→8/12

B2 なみだの操 (殿さまキングス)☆ 🅵→8/12

B3 うそ (中条きよし)☆ 🅳→8/12

B4 ひとり囃子 (小柳ルミ子) 🅲

B5 さらば友よ (森進一) 🅵

B6 夏の感情 (南沙織)

B7 私は泣いています (りりィ) 🅰→8/12

B8 二人でお酒を (梓みちよ) 🅵→8/12

 

演奏: ホット・エキスプレス

編曲: 荒木圭男、斎藤恒夫(☆)

定価: 1,800円

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「ゴールデン・サウンズ」のムーディ路線から軽量化に切り替えての「ホット・エキスプレス」第2作アルバム。帯裏にはご覧の通り「お客様アンケートカード」が印刷されており、返送した人には「特製フォーク&ロック読本」が進呈されることになっていたが、相当の人が答えたのだろうなと思われる…幸い、帯付きの状態で手元に巡ってきたのだけど、盤の状態もいいし、恐らく新品のままどこかに埋蔵されてしまっていたのでは?最早、ゴールデン時代のようなジャケ買いの要素を、企画者本人も期待していたとは思えないし、カラオケユースにもこの選曲からすれば時期的にまだ早いと言えよう。それらを読んでいた結果としてのアンケートであれば鋭い。最早、フォーク&ロックを期待する世代に、歌無歌謡を押し付ける時代ではなくなったのでしょうか。翌年のゴールデン・サウンズ回帰は一気に若返り、しかも「猫ジャケ」だったことを思うと、このアンケートには効果があったと思われる。みんな、頂けるものは頂く主義だったんでしょうな。「特製フォーク&ロック読本」にはきっと、ブラウン・ライスやクロニクルあたりまで載っていたと思われるけど、それらの売れ行きにまでは影響しなかったようで。そんなもんです。

内容の方は、やはりクリスタル・サウンズに通じる軽量化の波の影響が現れているけれど、サウンドのシャープさはさすがに東芝というか、チューリップや伊藤咲子で英国録音を試みていた当時らしい、繊細な気遣いが聴き取れる(演奏時間的にも無理していないし)。「ポケットいっぱいの秘密」からして、最早「ニューミュージック」の域に達した音が響いているし、「激しい恋」のベースも寺川爆走時代と一線を画した、鋭角的な音だ。青春の影になるとさすがに、野暮ったい音に聴こえてしまうが、ドラムはなかなか攻撃的な演奏。「虹の架け橋」「夢みる頃」にもっとファンシーな色を持ち込んで欲しかった感もあるけれど、両曲ともアコーディオンがなかなかのアクセントになっている。後者はオリジナルが笛全開故、軽量化しすぎなのが残念な。B面前半では、ポップなものを求める聴衆に演歌を迎合させるようなふりをせず、いつもの軽いノリでまとめているが、これもアンケートの答えを求める一環だったんでしょうか。「なみだの操」も、思いっきりメロトロンを幻聴するが、ちゃんと本物のフルートを使っている。「ひとり囃子」でやっとリコーダーが出てくるが、この軽い音作りの中だとより冴える響きだ。エレピのさりげないバックアップぶりもいい。

さて問題は、昨年8月12日紹介した2枚組に入っているホット・エキスプレス名義の曲と8曲重なっており(「夢みる頃」はエキサイターズ盤が収録されていたので、当然別テイク)、全て同じヴァージョンなのだが、内5曲のアレンジャークレジットが両者で異なっているのだ。二人の名前を取り違えたのみではあるのだが、最早どちらが正しいのかは迷宮入り状態…当然こちらの方が発売が早いので、こちらが正しいということにしましょう。歌無歌謡盤では、この手のコピペミスはよくあることだが、当然手作業ですからね当時は…慌ただしい制作状況故、二重チェックの余裕なんてなかったんでしょう。大体「恋と海とTシャツと」の曲名さえ間違って転記されてましたからね…この辺の謎解きのスリルも、慣れると最早楽しくさえあります。