黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日はばんばひろふみさんの誕生日なので

東宝 AX-4043 

歌謡ベスト・ヒットCOLLECTION

発売: 1976年2月

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ジャケット

A1 めまい (小椋佳)☆ 🅴

A2 傾いた道しるべ (布施明) 🅴→2/12

A3 となりの町のお嬢さん (吉田拓郎)☆ 🅵

A4 時の過ぎゆくままに (沢田研二) 🅷→2/12

A5 白い一日 (小椋佳)☆ 🅱

A6 ささやかな欲望 (山口百恵) 🅶

A7 俺たちの旅 (中村雅俊) 🅶

A8 青空、ひとりきり (井上陽水)☆ 🅲

B1 センチメンタル (岩崎宏美) 🅵

B2 愚図 (研ナオコ) 🅳

B3 美しい愛のかけら (野口五郎) 🅴

B4 花車 (小柳ルミ子) 🅳→2/12

B5 面影 (嶋崎由理) 🅱

B6 御免 (井上陽水)☆

B7 シクラメンのかほり (布施明)☆ 🅸→11/14

B8 「いちご白書」をもう一度 (バンバン) 🅷→2/12

 

演奏: ミラクル・サウンズ・オーケストラ/ヒップキャンプス・バンド(☆)

編曲: 無記名

定価: 1,800円

 

1976年になると、東宝レコードはすっかり歌謡前線での存在感を失ったに等しく、通好みのリリースは目立っていたが(三浦友和のアルバムのようなサプライズ・ヒットはあったけれど)、74年以前のような執拗な歌無歌謡リリースはなくなり、そんな中地味に連発されていたのが、「ヒップキャンプス・バンド」名義によるフォーク/ニューミュージックの演奏ものアルバムだ。これらはメインメロディを絞ってカラオケ仕様にしたものも、「あなたが歌う◯◯の世界」という別途シリーズ化されており、そんな中の「井上陽水盤」をリアルタイムで持っていた形跡がある(汗)。陽水のシングルも何枚か買ったし、歌うほどはまっていた記憶はないのだけど…東宝はこの頃、URCの権利を獲得して、発掘音源や「新作」も含めて活発にリイシューを行ってもいたので、ニューミュージックには異常に力を注いでいたんでしょう。

そんな「ヒップキャンプス」名義で出たNM曲のセレクションに、鳴りを潜めていたはずの「ミラクル・サウンズ」名義による歌謡曲の演奏版を交え、久々に市場に送り込んだ歌無アルバム…であるが、どうやら怪しい。4曲目の「時の過ぎゆくままに」を聴いて、その怪しさの出所が明確になるのだ。途中までは、ありがちな演奏だなとしか思えないのだが、1コーラスの最後、「身体合わせる」の部分のメロディがすっぽり抜け落ちているのだ。この特徴は、8日前に紹介したユピテルの2枚組に入っているヴァージョンと共通するもので、更なる聴取の末、これら2つのヴァージョンが全く同じであることに気づくのである!さらに4曲(昨年11月12日紹介の「万札アルバム」が初出のシクラメンのかほりも含めて)、そのユピテル盤と全く同じヴァージョンが確認できた(曲目表参照)。まさか、ユピテル東宝が音源を共有していたなんて。両社共、ビクターに販売委託していた時期があるが、微妙にズレがあるし、両盤ともアレンジャークレジットがないので、同じ音源制作会社からのライセンスで使用している可能性もあるが(ワーナーとトリオ、マキシムとポリドールの前例もあるし)、確かに怪しい。栄光のミラクル・サウンズ名義を、そこにまで冠さなくとも…「となりの街のお嬢さん」はヒップキャンプス名義になっているので、ユピテル盤とテイクが違うが、「シクラメンのかほり」はそっち名義なのに同テイクだし…逆に「花車」和楽器の彩りが「演歌大全集」の印象に通じるので、ユピテル盤に入っている方に違和感を感じるし。まぁ、細かいことを気にせず制作を進めたとは思われるけど。

ミステリーも多いけど、全体的には妙な方向に寄り道せず(「となりの街の~」はさすがにユニークなムードを感じさせるが)、手堅く聴ける1枚だ。かつてのミラクル指導者・福井利雄氏はこの頃になるとブルーナイト・オールスターズに関わっており、両者の「センチメンタル」を聴き比べるとやはりカラーが違うので、ここには関わっていないはず。何が一番いいって、「面影」の女性スキャット(と言っても「あー」「うー」と言っているのみ)なのだが。この頃の歌無盤に限っては、「声」こそが安息の場所と言っていい。蛇足だが、ヒップキャンプスのユーミン曲演奏盤のスキャットには、かのサンディーが起用されており、もしかしたらこの曲のそれもそうかも?ミステリー・ナイルだ(違)。ジャケはナイス。