黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

西口久美子さんの誕生日は11月1日

コロムビア ALW-144~5

’72ヒット曲要覧

発売: 1972年11月

ジャケット

A1 瀬戸の花嫁 (小柳ルミ子) 🆂

A2 水色の恋 (天地真理) 🅹

A3 夜汽車 (欧陽菲菲) 🅼

A4 陽はまた昇る (伊東ゆかり) 🅵

A5 純潔 (南沙織) 🅼

A6 旅の宿 (吉田拓郎) 🅿︎

B1 ちいさな恋 (天地真理) 🅻

B2 雨のエア・ポート (欧陽菲菲) 🅼

B3 太陽がくれた季節 (青い三角定規) 🅶

B4 哀愁のページ (南沙織) 🅺

B5 ふたりは若かった (尾崎紀世彦) 🅽

B6 あなただけでいい (沢田研二) 🅷

C1 悪魔がにくい (平田隆夫とセルスターズ) 🅸

C2 虹をわたって (天地真理) 🅹

C3 恋の追跡 (欧陽菲菲) 🅾

C4 鉄橋を渡ると涙がはじまる (石橋正次) 🅵

C5 こころの炎燃やしただけで (尾崎紀世彦) 🅴

C6 別れの朝 (ペドロ&カプリシャス) 🅼

D1 京のにわか雨 (小柳ルミ子) 🅾

D2 ひとりじゃないの (天地真理) 🅽

D3 愛する人はひとり (尾崎紀世彦) 🅸

D4 素足の世代 (青い三角定規) 🅴

D5 誰も知らない (伊東ゆかり) 🅷

D6 終着駅 (奥村チヨ) 🅹

 

演奏: 稲垣次郎 (サックス、フルート)、木村好夫 (ギター)/コロムビア・ニュー・ビート

編曲: 河村利夫、荒川康男、土持城夫

定価: 2,700円

 

昨日予告した通り、まさかのダークホースと言える1セット。箱買いの中身で巡ってきたが、あまりの地味な外観についつい「後回し」にしてしまい、ある日某店で安値で売られているのを見つけた時危うく買いかけ、「そう言えば箱買いに入ってたな」と我に帰り(殆ど小遣いがない状態だったし)、じゃ聴くかと帰ってきて盤を回し始めて数分後、腰が抜けた。あの、メロトロン炸裂だけが際立ちすぎる『’74ヒット曲要覧』の2年前がこれかよ…

A面、なんとこれが19ヴァージョン目となる瀬戸の花嫁の、別世界としか思えないイントロ。ヴェンチュラ・ハイウェイを抜けてやってきたのは、段々畑…アーバンとはちょっと違う、洗練されたイメージに響き渡るサックス。こんな質感、コロムビアにあったっけ?「水色の恋」は好夫ギターの真髄と言えるフレージングが堪能できるけれど、奥行きのあるストリングスは場末感と対極の響き。そして「夜汽車」…疾走感あふれるジャズファンク。これはオリジナルに近いのでまぁいいとして、問題は「純潔」。よりアフリカン色を増したリズムに、ゴリゴリしたベースが絡み、テープフランジを生かしたホーンセクションが吠えまくる。イントロからBメロに直結する序盤の展開も意表突きまくり。なんなんだこれは…しかし、まだまだ序の口だった。

71年、ALS品番の歌無盤が一気に若返り政策に転じた『オール・ヒット・パーティ』シリーズ。その延長線上で『最新ヒット速報』シリーズが始まり、72年に数作リリースされたが、ピンではなかなか出てこないのだ。そこからのベスト抜粋で編まれたのがこの2枚組。従来の路線を踏襲する河村利夫、他社の歌無盤で慎重な仕事を見せまくる土持城夫各氏に並び、ここにクレジットされているのがソウル・メディアのベース奏者、荒川康男氏だ。ここでの「ぶっ飛んだアレンジ」と思われる曲は、全て彼の仕業と思っていいか。個別クレジットがないので、そう憶測するしかないが。今まで紹介した中では、昨日も言及した『KISSアルバム』に流用されている「喝采」が、彼のアレンジと明確にクレジットされていた。

B面に行くと、小粋な「ちいさな恋」が、北村英治盤に比べると遥かに真っ当とはいえなかなかのエッジの強さでいいイントロだ。ファンキーだけど山内版のサイケさを知ってる者には物足りない太陽がくれた季節や、過度のメロウさにとろけそうな「哀愁のページ」を経て、ラストに再び攻めまくりのアフロファンク「あなただけでいい」。ブラスの響きはストーンズの「魔王讃歌」を思わせるし、フランジャー効きまくりでジュリーの「許されない愛」へのリスペクトも伺える。さらに凄いのが、テリー・キャスも真っ青のギター(好夫ではない、だろう)が冴えまくる「恋の追跡」はほんの前戯とばかりに始まる「鉄橋を渡ると涙がはじまる」だ。常識をぶち破るヘヴィなサイケ・ファンク。当時ファンカデリックの国内盤を出したのは伊達じゃない、コロムビアの意地が爆発。「レッド」ゾーンに振り切れたベースを中心に、全ての音が弾けまくっている。この音の塊は、まず他社の歌無盤では味わえないし、ほんと恐れ入りました。

D面でも、ノリ的にはおとなしいが、奥行きのあるサウンドにエレキシタール(好夫流に言えば「印度ギター」!)が唸りちょっぴりサイケな「京のにわか雨」や、ビートルズの「ガット・トゥ・ゲット・ユー…」のサウンドを見事に反映させてみせた「ひとりじゃないの」など、全く手を緩めない。「素足の世代」はマキシム/ポリドール盤が良すぎるので、このファンク路線に馴染めない部分もあるけれど、演奏としては悪くないし、「別れの朝」「終着駅」のような「聴かせる」要素の強い曲も、ウィークスポットに化していない。寄せ集め盤とは言え、全編テンション高くておすすめである。

2019年7月に出た『歌謡ムード大作戦』では、この辺のヤバい曲が殆ど収録スルーされてたんだなぁ。というより、そのCDが出たことそのものが、そこから約1年間歌無歌謡への情熱を沈静させたことを、ここでこっそり明かしておかねばいけない。まぁ、いろいろ事情はあったのだけど。コロムビアの底力は、そんなもんじゃないんだよ。『ガールズ伝説』に関わった段階で、それに気づいていればよかったというだけの話。