黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

目標427枚目…三原綱木さんの誕生日は11月3日

アトランティック L-5045~6A

十五夜の君・ひとりっ子甘えっ子 華麗なるヒット・バラエティー・ベスト40 

発売: 1973年8月

ジャケット

A1 十五夜の君 (小柳ルミ子)Ⓐ 🅰→21/4/1

A2 草原の輝き (アグネス・チャン)Ⓑ 🅰→21/4/1

A3 伽草子 (吉田拓郎) 🅲

A4 君の誕生日 (天地真理)Ⓔ 🅰→21/4/1

A5 悪い奴 (和田アキ子)Ⓓ 🅰→21/4/1

A6 街の灯り (堺正章)Ⓐ 🅰→21/4/1

A7 夕顔の雨 (森昌子)Ⓑ 🅷

A8 傷つく世代 (南沙織)Ⓔ 🅰→21/4/1

A9 若葉のささやき (天地真理)Ⓓ 🅰→21/4/1

A10 妖精の詩 (アグネス・チャン)Ⓓ 🅵→2/11

B1 ひとりっ子甘えっ子 (浅田美代子)Ⓐ 🅰→21/4/1

B2 恋する夏の日 (天地真理)Ⓔ 🅰→21/4/1

B3 わたしの彼は左きき (麻丘めぐみ)Ⓓ 🅰→21/4/1

B4 燃えつきそう (山本リンダ)Ⓑ 🅸

B5 郵便局 (千葉紘子)Ⓐ

B6 かがやける愛の日に (尾崎紀世彦)Ⓔ 🅲→10/23

B7 ふたりの朝 (フォーリーブス)Ⓓ 🅰→21/4/1

B8 避暑地の恋 (チェリッシュ)Ⓑ 🅴

B9 坂の上のアパート (朝倉理恵)Ⓐ

B10 霧の出船 (五木ひろし)Ⓓ 🅵→2/11

C1 胸いっぱいの悲しみ (沢田研二)Ⓐ 🅰→21/4/1

C2 てんとう虫のサンバ (チェリッシュ)Ⓓ 🅰→21/4/1

C3 ジェット最終便 (朱里エイコ)Ⓔ 🅰→10/23

C4 ふるさと (五木ひろし)Ⓐ 🅰→21/4/1

C5 危険なふたり (沢田研二)Ⓑ 🅰→21/4/1

C6 情熱の嵐 (西城秀樹)Ⓓ 🅰→21/4/1

C7 渚にて (いしだあゆみ)Ⓔ 🅱→10/23

C8 なみだ恋 (八代亜紀)Ⓒ 🅰→21/4/1

C9 哀しい少女 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ)Ⓔ 🅰→10/23

C10 同棲時代 (大信田礼子)Ⓒ 🅴

D1 愛すべき僕たち (ビリー・バンバン)Ⓐ 🅲

D2 裸のビーナス (郷ひろみ)Ⓔ 🅰→21/4/1

D3 くちべに怨歌 (森進一)Ⓑ 🅹

D4 ふたり (つなき&みどり) 🅰→7/31

D5 出船 (内山田洋とクール・ファイブ)Ⓒ 🅰→21/4/1

D6 娘ごころ (水沢アキ)Ⓐ 🅲

D7 赤い風船 (浅田美代子)Ⓔ 🅰→21/4/1

D8 愛への出発 (郷ひろみ)Ⓓ 🅵→2/11

D9 恋にゆれて (小柳ルミ子)Ⓑ 🅰→21/4/1

D10 森を駆ける恋人たち (麻丘めぐみ)Ⓓ 🅰→21/4/1

[( )内は当時歌唱したオリジナルないし代表的ヒットアーティスト]

 

演奏: ブリリアント・ポップス77

featuring: 竜崎孝路 (シンセサイザー)Ⓐ/三笠輝彦 (テナー・サックス)ⒷⒸ

市原明彦 (ドラムス)Ⓓ/ツウィン・ギターズⒺ

編曲: 竜崎孝路Ⓐ、小谷充Ⓑ、原田良一ⒸⒹⒺ

定価: 3,000円

 

遂に、「目標・427枚」に到達しました…ぼちぼち、新ネタも増えていますが、ひとまず「黄昏みゅうぢっく」の本編更新は今日でおしまいです。最後の最後なので、こんなジャケットですがすみ塗りません。各自解像度を調節するなり煮たり焼くなりしていただければ幸いです。そして、クロージングはこのアルバムにしなければいけなかったのです。本来は3月31日に持って行きたかったけれど、千葉マリヤの曲が入っていないので断念しました(汗)。最初の1枚をアレに設定してしまったからには。

「最初の1枚」(まぁ、2枚組でしたが)と同様、40曲という黄昏最大級レベルの曲数がフィーチャーされているけれど、内30曲は何らかの形で既にここに登場したことがある。ディテールに関しては一旦置いといて、1曲目十五夜の君」に早速針を落とす…いきなり音場を埋め尽くすメロトロンストリングスの洪水…そして妙にモジュレーションが効きまくったシンセの音色。ワーナー・ビートニックス(一応ここではブリリアント・ポップス名義ではあるが)では唯一となる「シンセサイザー」メインの演奏がここに10曲。前年暮れにユニオンで『モーグサウンド・ナウ』を世に送った竜崎孝路氏を起用しての大胆な試みなのだが、20曲フル盤を作るに至らず、ワーナー歌無歌謡は店じまいしてしまった。その後どうなったかというと、もうここに答えが出ている。昨年4月1日の「最初の1枚」がそれだ。そう、開眼の1作『魅力のマーチ・小さな恋の物語/歌謡ヒット・ベスト40』。そこに収録された「十五夜の君」が、ものの見事にこのヴァージョンと同じだったのである。

そのトリオ盤と、既にワーナー・ビートニックスのアルバムで世に出たヴァージョンの数奇な関係は、その後もワーナー盤関連のエントリで少しづつ解き明かしていったけれど、この2枚組との出会いで決定的な謎が解けた。ノークレジットだったトリオ盤の妙なシンセ仕事は、全て竜崎氏の仕業だったというわけである…確かに、『モーグサウンド・ナウ』程の攻めは見せていないし、多少せこい感触ではあるけれど(「十五夜の君」の鍵盤慣れしていないようなプレイとか、竜崎氏のガチな姿勢と不釣り合いな感も)、当時のレベルでここまでシンセと一体化できた人となると、彼か穂口雄右氏のどちらかしか考えられない。確かに、5年前最初に聴いた時は穂口氏疑惑を覚えたような気が(汗)。松武秀樹氏は、ここでの制作には関わっていないのではなかろうか。

この曲以下、「街の灯り」「胸いっぱいの悲しみ」「ふるさと」(相当簡素化しているとはいえ、さすがに昨年4月1日の段階でセルフリアレンジであると読破するのは無理であった)、そしてあの超重要作、黄昏みゅうぢっく主題曲(?)「ひとりっ子甘えっ子」と計5曲が、後にトリオ盤に再登場して異彩を放ちまくるのだが、残る5曲も当然問題作揃いで、内3曲は滅多に取り上げられない筒美作品(「坂の上のアパート」!)だし、「伽草子」でもメロトロンが突如唸りをあげたり。一瞬だけ「誰にも云わないで」を連想させる「郵便局」もレア選曲だ。さながらミニモーグ(実際使われたのも、箪笥ではなくこちらかも)・スペシャルという感じの10曲で、テイチクのBEST&BESTシリーズだと思ってまとめ聴きするのがベストかも。

竜崎氏仕事以外にも、トリオ盤に使いまわされた曲が多数あり、延べ22曲にも及ぶ。何せ最初のエントリだったので、思いの丈をぶちまけるまでに至らなかったけれど、こちらを聴いてみてやっぱり重要ヴァージョンが目白押しだったんだなと、改めて思う。「草原の輝き」もそっちではノークレジットだったけれど、同じようなアレンジがブルーナイト・オールスターズの「’73・あき」盤に登場しておやっと思わせ、この盤のクレジットで小谷充氏仕事と判明して「ああ、なるほど」となったし、ツゥイン・ギターズなどの演奏とはっきり打ち出されることで、トリオ盤の存在を曖昧な方向に押しやる判断ができたのだから。いずれにせよ、最初に聴いたトリオ盤の衝撃は大きかったけど、道を開いたワーナーの仕事を軽視しちゃいけない。ここで、ついでながら『魅力のマーチ・小さな恋の物語』に収録された残り18曲の出自に関してもおさらいをしておきたい。

「海鳥の鳴く日に」「涙の太陽」「ぎらぎら燃えて」「人間模様」「色づく街」「白樺日記」「忍ぶ雨」「恋は燃えている」は、『恋は燃えている・白樺日記/華麗なるミラクル・ギター・ベスト・ヒット20』(今年4月12日)が初出。

「女のみち」「雨に消えた恋」は、『ふたりの日曜日・おきざりにした悲しみは/華麗なるヒット・バラエティー・ベスト20』と同じヴァージョンであるが、後者の初出は『雨のヨコハマ・ふたりの日曜日/華麗なるビート・ベース・ヒット』(QL-6073A)である。 

「絹の靴下」「ジョニイへの伝言」は『色づく街・白樺日記/華麗なるドラム・テナー・ベストヒット40』(L-5047~8A)が初出のはず。残る「魅力のマーチ」「冬の旅」「情熱の砂漠」「小さな恋の物語」「最後のくちづけ」「白いギター」の6曲はワーナーでの録音は確認されていない。これらのみがトリオ盤のために新たに録られた曲と思われる。6曲全て、フィーチャーされているサックスのトーンが見事に同じなのだ。「絹の靴下」「ジョニイへの伝言」を聴き比べても、三笠輝彦らしい感触がそれら6曲には希薄だし、恐らく大野氏のディレクションで新たに録られたものであろう。よって、これら6曲に限り、演奏者を「ザ・サウンド・メーカーズ」として定義したいと思う。願わくば島田雄三氏に、この辺の事情をお伺いする機会が訪れたらと…最近は明菜40周年で、活発に表舞台に出てくることが多いですけど…

 

内容そのものにほとんど触れずこんなに書いてしまったけれど(そうそう、「哀しい少女」の時のブルコメには、既に綱木さんはいません)、『魅力のマーチ・小さな恋の物語』で始まった壮大な旅の終着駅は、このアルバムでなければいけなかったのである。まさに、元いたところに戻ってきた…けど、歌無歌謡は「メビウスの輪」になり得ない。思いがけないところへと脱線を繰り返す、永遠の謎なのだ。「目標・427枚」を無事達成して、一旦はお開きとしますが、思い立ったら「続き」を書くことになるかもしれないし、他の機会でも歌無歌謡を語る気満々ではあるので、今後とも静かに見守っていただければ幸いです。

ひとまず3日ほどお休みを頂き、その後「おまけ」のパートに入りたいと思います。