黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

松田マミさん (チューインガム)の誕生日は7月5日

クラウン GW-8125~6

ビッグ・ヒット歌謡ベスト32 虹をわたって/哀愁のページ

発売: 1972年9月

ジャケット

A1 虹をわたって (天地真理)☆☆☆ 🅵→10/2

A2 雪国へおいで (石橋正次)☆☆☆☆ 🅱

A3 旅の宿 (吉田拓郎)☆☆☆ 🅶→10/2

A4 純潔 (南沙織)☆☆ 🅽

A5 夜汽車の女 (五木ひろし)☆☆☆ 🅹

A6 男の子女の子 (郷ひろみ)☆☆☆☆ 🅳

A7 ひまわりの小径 (チェリッシュ)☆ 🅲→10/2

A8 あなただけでいい (沢田研二)☆☆☆☆☆ 🅸

B1 哀愁のページ (南沙織)☆☆☆☆ 🅶→10/2

B2 どうにもとまらない (山本リンダ)☆☆☆ 🅵

B3 京のにわか雨 (小柳ルミ子)☆ 🅸→10/2

B4 旅路のはてに (森進一)☆☆☆☆ 🅵

B5 ふりむかないで (ハニー・ナイツ)☆☆ 🅵

B6 さよならをするために (ビリー・バンバン)☆☆☆☆ 🅳→10/2

B7 勲章なんかほしくない (青い三角定規)☆☆☆☆ 🅱

B8 雨 (三善英史)☆☆☆ 🅶

C1 芽ばえ (麻丘めぐみ)☆☆☆ 🅹

C2 ひとりじゃないの (天地真理)☆☆☆☆☆☆ 🅰→21/4/17

C3 陽のあたる場所 (奥村チヨ)☆☆☆ 🅱→10/2

C4 夢ならさめて (にしきのあきら)☆☆☆☆ 🅳

C5 BABY (平田隆夫とセルスターズ)☆☆ 🅸

C6 別れの旅 (藤圭子)☆ 🅲

C7 待っている女 (五木ひろし)☆☆ 🅸

C8 ふたりは奇跡の中で (仲雅美)☆☆☆☆

D1 夜汽車 (欧陽菲菲)☆☆☆☆ 🅶→10/2

D2 古いお寺にただひとり (チェリッシュ)☆☆☆ 🅱→10/2

D3 瀬戸の花嫁 (小柳ルミ子)☆☆☆☆☆☆ 🅰→21/4/17

D4 心の痛み (朱里エイコ)☆☆☆☆ 🅶

D5 まるで飛べない小鳥のように (いしだあゆみ)☆ 🅵

D6 愛したいなら今 (西郷輝彦)☆☆☆

D7 風と落葉と旅びと (チューインガム)☆☆☆☆ 🅱

D8 風の日のバラード (渚ゆう子)☆ 🅸

 

演奏: まぶち・ゆうじろう’74オールスターズ☆

いとう敏郎と’68オールスターズ☆☆

ありたしんたろうとニュービート☆☆☆

栗林稔と彼のグループ☆☆☆☆

クニ河内と彼のグループ☆☆☆☆☆

山下洋治とハワイアン・オールスターズ☆☆☆☆☆☆

編曲: 福山峯夫、クニ河内(☆☆☆☆☆)、山下洋治(☆☆☆☆☆☆)

定価: 2,400円

 

72年のクラウン要素をコンパクトに楽しめる2枚組。選択肢としては2枚組の方が遥かにコスパが高いし、その方がよく売れたのは間違いない。けど、この時期の歌無歌謡のヘヴィユーザーという概念が、いまいち理解できないのだな。特に個人のレコード収集家となれば。まぁ、ジャケットが重要な釣り要素になるのは否定しようがないですが…これなんか、きわどい要素も希薄だし、クラウンにしてはナイスアピール点満点ですね。

前月出た1枚もの『雨・悲しみよこんにちは』の半数を引き継いでおり、その盤のエクスパンデッド版という見方もできるが、曲によってはヴァージョンを変えており、両方持ってても損はしない。のっけからクラウンの多種多様なカラーをバランスよく配して、飽きさせない展開。適度にニューロック化した「虹をわたって」から、まったりとエレガントな「雪国へおいで」へ。さらに場末ムードを出しながら、若々しい個性を加えて見せる「純潔」へと導かれる。コロムビアの『’72ヒット曲要覧』が同じような選曲ながら過激な色合いを出していたのに比べると、安定感というか、クラウンの「安心のブランド」ぶりが伺えるのだ。かと思えば、『雨・悲しみよこんにちは』ではまったりといとう敏郎の演奏で聴かせた「夜汽車の女」は、ここではありたしんたろうのドラムを軸に、激しく駆け抜ける。他のありた曲のようにドラムを激しくパンさせる代わりに、フランジャーをさりげなく使い、不思議なサウンド演出。「男の子女の子」では、本家筒美京平のインスト作を彷彿とさせる奔放なピアノプレイで独特の味を演出。かと思えば、「ひまわりの小径」は鄙びすぎた印象で、この段差がいかにもクラウン。サックスの咆哮は、この曲のロマンティシズムに不似合いだけど、そこがいいのだ。

ニューロックといえば、この時期のクラウン歌無歌謡としては異色すぎの1枚で、さりげなくCD再発もされたクニ河内の『ベイビー~ロック・ヒット・ロック』(GW-5229)から「あなただけでいい」が抜粋されており、ナイスアクセント。野心的作品に多く取り組んでいたこの時期、1日でちょちょいとやっつけた仕事ではあるが、彼ならではの歌謡へのアプローチが窺い知れるなかなかの力作。もうちょっと選んでくれてもよかったと思う…その分、ニュービートの作品群がいいスパイスとなっているようだ。「どうにもとまらない」では、リバーブを深くかけまくり、サウンド演出を楽しみまくる。これはトライデント卓導入への伏線とするべきだろうか?この時期のジミー竹内のアルバムでは、それどころじゃない大胆な演出が試みられまくってったので、対抗意識もある程度はあったのかも。その次が「京のにわか雨」でまったり落とすところまで、大胆な冒険だ。「雨」もニュービート・ヴァージョンなのだが、ハードなギターをフィーチャーしているものの、ロック度としてはやはりビクターの大正琴ヴァージョンに及ばない。トータルに攻めに入りすぎてるからね。

2枚目でも、山下洋治のハワイアン・サウンドも交えつつ、緩急取り混ぜ進んでいくが、「愛したいなら今」の選曲に耳が止まる。この辺りのロック対応路線が、翌年出る「ローリング・ストーンズは来なかった」に結実したのだろうか。同曲の歌無盤も聴きたかったところ。本日の主役マミちゃんを擁するチューインガム「風と落葉と旅びと」は、はちの巣のリコーダー盤以来の登場で、ここでのピアノのエレガントな音もなかなかの調和ぶり。コロムビアに残された「岡田さんの手紙」の歌無盤も聴きたいところ…最後、何が起こったのかと驚愕させるイントロの「風の日のバラード」がソウルフルな余韻を残し、アルバムを締めくくる。