黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

村井邦彦さんの誕生日は3月4日

ユニオン UPS-5219

愛して愛して

発売: 1969年8月

ジャケット

 

A1 愛して愛して (伊東ゆかり) 🅺

A2 ローマの灯 (中村晃子) 🅱

A3 雲にのりたい (黛ジュン) 🅹

A4 禁じられた恋 (森山良子) 🅿︎

A5 港町シャンソン (ザ・キャラクターズ) 🅵

A6 恋の奴隷 (奥村チヨ) 🅷

B1 星空のひとよ (鶴岡雅義と東京ロマンチカ) 🅱

B2 さすらい人の子守唄 (はしだのりひことシューベルツ) 🅻

B3 恋のなごり (小川知子) 🅷

B4 或る日突然 (トワ・エ・モワ) 🆂

B5 どしゃぶりの雨の中で (和田アキ子) 🅱

B6 大空の彼方 (加山雄三) 🅷

 

演奏: ユニオン・ニュー・ポップス・オーケストラ

編曲: 池田孝

定価: 1,700円

 

こっそり。このアンコール企画対象期間の間に、『愛して愛して』というタイトルのアルバムがもう1枚舞い込むはずだったのですが、どうやら有耶無耶になった模様。そんなに多くのお金を犠牲にしたわけでもないので、ダメージ的にはどうってことないのだけど。これは某オクあるあるですかね。まぁ今回のアンコール企画では、どちらかというと実店舗で買ったアルバムの割合が大きいとは書いておきますが。これもその1枚。寧ろジャンクハンティングに行く機会は少なくなったけれど、そうじゃない場所での歌無盤との出会いは、チャンスミーティングとしか言えません。

ユニオンの「シンギング・サウンド」名物、表ジャケに文字が一切入ってないという仕様。慣れてくると、これはシンギング・サウンドだなと瞬時ピンときます。帯の情報を元に新品を買った人は、この美麗な写真をフルに楽しみたくて、捨てちゃうというケースが多かったのでしょうか。今回のアルバムは、グレン・ミラー楽団のスタイルでアレンジされており、ユニオンには珍しく池田孝氏を起用。クラリネットを甘美に配してのブラス・サウンドが左右から飛びかかり、高価なドレスを着用しないと踊れない、そんなムードを醸し出す。最早数多の競合ヴァージョンを取り上げすぎている69年のヒット曲だけど(奇しくもこのアンコール月間では、さらに大量の69年盤を追加する予定)、このユニークなアレンジは聴き慣れた曲に新たな印象をもたらしている。

スウィンギンなブラスの合間にモダンなギターを配して、腰を揺らしまくるタイトル曲から、ムーディな「ローマの灯」へ。このコード付け、当時はオールド・ファッションに則ったというコンセプトだったはずなのに、昭和歌謡モードの中で聴くと実に斬新に聴こえるし、さりげなくベースも自己主張していて心憎い。一気にグルーヴィに引っ張っていく「雲にのりたい」、リズムを簡素化して健全な逢い引きモードへと場面展開する「禁じられた恋」など、こんなのあり?な発見の連続。「港町シャンソンも、好夫デノンの転調攻めヴァージョンに慣れすぎたので、これもありだなと新鮮に聴ける。ハードなサックスが不釣り合いどころかいいアクセントになっている「恋の奴隷」もいいし、溌剌かつまったりとまとまった「星空のひとよ」も、山倉ヴァージョン(3月10日)と一味違う。フォーク風に始まっておいて、意表を突いてムーディに展開していく「さすらい人の子守唄」、もろタンゴに味付けした「恋のなごり」ときて、「或る日突然」クラリネットをイントロに、甘美にまとまっている。「どしゃぶりの雨の中で」はさすが、ジャズファンクと呼ぶに相応しいアレンジで、「大空の彼方」の大団円へと導く。

やはり土台がいいからこそ、冒険的アレンジも許されるんだなというのがよく解る好盤。69年の歌無歌謡は、みんながしのぎを削りつつ、ピースフルに時代を色取っていたんだな。