黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

ダメよ…ダメダメ…そこまでしちゃ

クラウン GW-5063 

年上の女 哀愁のバリトン・サックス・ムード

発売: 1969年2月

これで勘弁して(汗)

A1 年上の女 (森進一) 🅻

A2 朝のくちづけ (伊東ゆかり) 🅵

A3 夕月 (黛ジュン) 🅹

A4 星は濡れている (瀬川瑛子) 🅱

A5 今は幸せかい (佐川満男) 🅷

A6 忘れるものか (石原裕次郎) 🅴

A7 釧路の夜 (美川憲一) 🅵

B1 川反ブルース (村井健二)

B2 霧にむせぶ夜 (黒木憲) 🅶

B3 花と蝶 (森進一) 🅻

B4 霧のバラード (美川憲一) 🅱

B5 さよならのあとで (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅱

B6 花はまぼろし (黒木憲) 🅵

B7 知りすぎたのね (ロス・インディオス) 🅸

 

演奏: あしだ・ヤスシと’68オールスターズ

編曲: 福山峯夫

定価: 1,500円

 

一昨年12月11日取り上げた原田忠幸のアルバム以来となる、バリトン・サックスが縦横無尽に暴れ回る盤の登場。やはりサックスとなると音域毎にカラーがかなり違ってくる故、まぶち・ゆうじろうの盤で味をしめたクラウンがその気になるのも当然のことで、サイトウ・タツヤのアルト・サックス盤と好対照な野性味が全編を埋め尽くす。色気相手となるとテナーが最もバランスが取れるというのも妙に納得だけど、たとえジャケでエロスを強調されようが、この音を前にすると雌フェロモンも秒速で萎縮してしまいそう。普段の10倍くらい場末色が強調されるバックの演奏が、その凄みにさらなるハッパをかけている。選曲的にも、A面前半に並ぶ3曲の女っぽさが完璧に霞む、窒息しそうなほどのむさ苦しさが強調されている。こんなアルバム、少なくとも72年を過ぎるとまず作れなかっただろう。

オープニングの「年上の女」からして、あり得ない程テンポを落とし、このレコードは45回転なのかと一瞬思わせもするが、高周波を効かせたオルガンの音が余計非現実ムードを加速させ、そこにサックスの下世話な調べが乗ってくる。夜の危険な駆け引きとかよりも、盛り場の不純な空気そのものの音場化だ。最もフェミニンな選曲と言えそうな「朝のくちづけ」もご覧の通り。のりはいいのに、なぜか突き放してくるような感触がある。「夕月」のイントロはオルガンで奏でられ、その分サイケさとシュールさに彩られる。「今は幸せかい」はオクターブを無視して音律を行ったり来たり、その気まぐれさが安堵感を与えない。B面に行くと、完全に場末ムード一直線。そんな中で聴くと、「さよならのあとで」にさえとてつもないロック色が感じられる。メロディこなしのフリーダムさ故、余計そう感じるのかも。この音を聴いた後だと、「寒くないかい」と言われても一切リアリティが湧かないだろうなぁ(汗)。選曲のカラフルさでは原田忠幸盤の勝ちだけど、どうしても憎みきれないそんな1枚。明日もクラウンの異色楽器盤を取り上げますよ。