黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1枚のLPに賭けるかチャンスに賭けるか

クラウン GW-5196 

ロダンの肖像 哀愁のエレキ・チェンバロ・ムード

発売: 1970年11月

ジャケット



A1 ロダンの肖像 (弘田三枝子) 🅷

A2 チュクチュク (ジミー・オズモンド) 🅳

A3 時は流れる (黛ジュン) 🅰→21/6/23

A4 愛のきずな (安倍律子) 🅸

A5 希望 (岸洋子) 🅹

A6 X+Y=LOVE (ちあきなおみ) 🅷

A7 何があなたをそうさせた (いしだあゆみ) 🅶

B1 手紙 (由紀さおり) 🅷

B2 嘘でもいいから (奥村チヨ) 🅳

B3 昨日のおんな (いしだあゆみ) 🅸

B4 愛は傷つきやすく (ヒデとロザンナ) 🅸

B5 私生活 (辺見マリ) 🅸

B6 命預けます (藤圭子) 🅻

B7 走れコウタロー (ソルティー・シュガー) 🅱→21/6/23

 

演奏: いいよしかおると'68オールスターズ

編曲: 福山峯夫

定価: 1,500円

 

6月のこの時節は毎日が超ビッグ・アーティストの誕生日で、ここでも強引にタイトルをこじつけているわけですが(19日のネタは、解る人なら解りますよね)、別にトッドの誕生日じゃなかろうが、1枚のLPに賭ける時は常に本気になりますのでね。その繰り返しが、特に2020年以降形成された歌無コレクションの大半を形作ってきました。その前は専ら、賭けというよりチャンスミーティングでしたが(汗)。

この盤はチャンスミーティングにより手に入った盤なので、トッドよりもエレクトリック・プルーンズですね(汗)。68年のGS大勃発を境に、歌謡界でも注目が集まったチェンバロをフィーチャーしたインスト盤がやたら作られ始め、場末感と無縁の高貴ムードを醸し出すレコードとして密かに人気を集めたけれど、現在その手の盤に無闇に価値が与えられる傾向は全て筒美京平チェンバロ・デラックス』に起因していると思っていいでしょう。まぁ、全てのチェンバロ盤がそのレベルに達しているとは思いたくないけれど、いずれにせよ誰が演奏しているにせよ見つけにくくなってる。故に、チャンスミーティングに感謝。

キーボード全般の演奏に遺憾なき才能を発揮した飯吉馨氏も、早速クラウンに『恋の奴隷/魅惑のチェンバロ・ムード』(GW-5089)を残しており、1年後発表したこの盤では「エレキ・チェンバロ」へと進化している。この楽器、60年代末期から日本にもぼちぼち入り始め、歌謡曲のレコードでも時折使われるようになったが、やはり由紀さおり「手紙」のイントロのあの音が鮮烈に印象を残したと思われる。と言えども、一般市民にとっては依然「謎の音」の一つだったかもしれないけれど。何せいくつかブランドがあって、どれがこのアルバムで使われているかは定かではないのだけど、72年にスティーヴィー・ワンダー「迷信」で使われて一躍その名を轟かせたクラヴィネットと思しき音も登場しているし、その先駆性には驚かされる。確かに、本物のチェンバロと比べると重厚感に欠けるのは否めないけれど、それだけ歌謡曲の軽量化に合致したというか、フットワークの軽い音に違和感はない。収録曲の大半が女性ソロ歌手の曲というのも、その音の個性を際立たせる要素になっているし。古風なファッションを身につけるには手間がかかるから、ちょっとカラフルな服に留めておくわ、みたいな感触がある(えっ)。肝心の「手紙」も、イントロをギターに譲り主旋律を慎重に奏でているし、他の曲でも所々で入れる装飾音がドキッとさせる仕草のようだ。「命預けます」の任侠ムードは異色だけど、いいアクセントになっているし、その後走れコウタローで一気に落とすところも見事。昨日取り上げたバリトン・サックスのまさに対極。いずれの響きにも忠実に寄り添うクラウンの音は、まさに時代を映す鏡だった。